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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
幕間

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エレーナとアルベルト、ときどきハルナ3



鳥がさえずりを始める。

テントの外の焚火はすでに消え、入り口の切れ間からは陽の明るさが見え隠れする。

ハルナ達は、無事に二日目の朝を迎えることができた。


「ン……うーん……」


ハルナの横で、エレーナが目覚める。


「おはよう、エレーナ。……気分はいかが?」

「ちょっと、疲れてる気がするけど……平気よ。ハルナは?」

「眠れなかったのよ……全然」

「まぁ、初めての夜だしね。仕方ないわよ」

(――フッ)

(――あれ?)


ハルナは冷たい笑いで、その話題を打ち切った。

エレーナは全く、何が起きたのかわからなかった。

ハルナは、バケツの水で顔を洗う。

そのタイミングで、アルベルトはエレーナに近寄る。


「昨夜はね、かなりゴロゴロ寝相が悪くてハルナさんにぶつかってたんだよ。最初からあまり眠れなかったみたいだけど、それがさらに……って感じだったんだよ」

「――え?」


エレーナは驚く。

確かに、身体のあちこちがギクシャクしている感じがする。

しかも、昨夜テントに向かった覚えが……ない。


エレーナはゾッとした。


(あぁ……またやっちゃった……)


モイスティアのことを思い出す。


でも。

ハルナも同じくらい飲んでいたはず……

しかも寝不足。


(強いわね、ハルナ)


違うところで関心をする、エレーナ。



「ごめん、ハルナ!」


ここは素直に謝るに限る、と判断するエレーナ。


「もういいわよ……私も少し調子に乗ってたみたいだし」


ちらっと朝食の用意をしているアルベルトの後姿を見る。


「今日は、飲むの控えようね……」

「うん、そうしましょ……」


パンの間にチーズと干し肉を、挟んだサンドイッチが朝食。

沸かしたお湯で紅茶を淹れて、口に食べ物を運ぶ。


「――それでは今日は、 扇状に引いた線の一番左側のエリアを探索しましょう」


口の中にサンドイッチを含む二人は、声を出さず、頷きで返事をする。


そして、いよいよ出発。

アルベルトを先頭にして、ハルナ、エレーナと続いていく。

早速、アルベルトは手を出して二人を止める。

ハルナはそれに気付いてサッと止まるが、欠伸をしていたエレーナはハルナにぶつかった。


「――シッ」


アルベルトは物音をたてないように指示する。

そして指を指した方向の地面を見るように促す。


「これは……?」

「何かの生物の足あと?……いっぱいあるわね」

「この形から見ると、【ギガスベア】だな。不揃いの大きさから見ると……親子か?」


足跡の位置は、アルベルトが仕掛けたトラップの先にあるが、完全にテントが見える位置にあった。

これは、狙われている可能性が高いと判断した。

テントの高さは目立つため一度戻り、一旦支柱を畳むこととした。


「……これでよし」

「またこれを持ち上げなきゃダメなのね……」


エレーナの泣き言を無視して話を進める。

この周辺にギガスベアが生息していることが判明したのだ。


「――この生き物は、通常群れを作り生活をしています。そのため、集団で狙われると厄介なことになるので各自周囲を警戒し注意するようにしてください。あと、足跡を見つけたら知らせてください」

「「はい!」」


一同は元の足跡の位置まで戻り、そこから先の探索を始めた。

植物に関しては、普通の草木は対象とせずに、薬草や食用および希少な植物のみを調査対象にした。

さらに奥へ進んでいくと、動物なども見かけるが危険度はさほど高くはなく、参考程度に記録することにした。

その後も野獣と遭遇したが、向こうが警戒しているだけで通り過ぎることもあった。しかし、それ以外の行動に出る生物については威嚇し退散するように仕向けたが、それでも立ち向かってくるものにはなるべくダメージを負わない程度に攻撃をした。

その際のアルベルトの剣さばきは見事なものだった。

ハルナやエレーナも、数が多い場合には精霊の力で援護した。


太陽が頭上を越えて沈む方向に傾き始める頃、ハルナ達は本日の目標を達成した。

植物はサンプルをとり、地図上に記載した番号と一致させ袋に保管してある。

その袋には、まだ二割ほどの余裕があったが、今日は拠点まで戻ることにした。

往路は調査しながらだったため進行速度は遅かったが、復路は記載したものを確認する程度だったため早く帰ることができそうだ。

その予測通りに、陽が落ちかける前に拠点まで戻ることができた。


「それじゃ、早いうちにテント組み立ててしまいましょ。まだ、体力と気力が残ってるうちにね」


やれやれ……といった態度で、アルベルトは荷物を置いてテントへと近づいていく。


「ねぇ、テントって袋状じゃない?入り口から中に風を吹き込んで、膨らましてみればどうかな??」

「それは……やってみる価値は……ありそうね」

「さすがです、ハルナさん。では膨らみましたら中に入って支柱を立ててきます」

「あ、フーちゃん?」

「なぁに?」

「私が最初に入り口から風を通すから、ある程度膨らんだら中に入って風を起こしてくれる?」

「まっかせてー!!」


フウカは今日は比較的自由に行動させてもらったようだ。そのおかげで、機嫌よくハルナのお願いも承諾してくれた。


「ねぇ、エレーナ……」

「な……なに?ハルナ?」

「……こういう時に”風使い”がいて良かったでしょ?」


エレーナはきょとんとした顔でハルナをみて、昨日のことを思い出した。


「「……フフ……ウフフ……あははははは!」」


二人は手を取り合いながら、笑いあった。


「さすがハルナね!やっぱりあなたは最高のパートナーだわ!!」


ハルナはエレーナが昨晩のことを気にしているんじゃないかと思っていた。

今日は少しお互いの口数も少なく、少し違和感を感じていた。

だがこの瞬間、その悩みも杞憂であったことが分かった。

アルベルトもホッとし、テントを組み立てる作業に入ろうとした……その時。


――ガサッ


テントの中で、何かが蠢く。

アルベルトは、腰に下げていた短剣の柄を握り身構える。


「フウカ様はまだ、テントに入ってないですよね?」


念のためアルベルトが確認をする。

ハルナはその問いに頷き、フウカは肩に乗って様子を見る。

アルベルトは迷う。

このまま、テントの中に剣を突き刺して攻撃するか。それとも、その正体を確認した上で次の手を考えるべきか。

ハルナとエレーナは、アルベルトの行動や指示を待つ。

すると……


「……キュー……キュー」


どこからか、鳴き声が聞こえる。

ハルナ達もその音に気が付いた。


「……キュー……キュー」


その音から想像するに、小さな生物のような鳴き声のようだ。


「テントの中から聞こえてる?」

「ハル姉ちゃん。どうやら、助けを呼んでるみたいだけど?」

「「「――え?」」」


ハルナ達には、どう聞いても鳴き声にしか聞こえない。


「フーちゃん、何を言ってるのか……わかるの?」

「うん。わかるよ。……助けてほしいみたい。仲間……いや、親を呼んでるみたいだね」

「……そうなんだ。じゃ……じゃあ、”助けてあげるからじっとしてて”って言ってもらえる?」

「うん。伝えてみる」


フウカはテントの近くまで行き、中にいると思われる生き物に語り掛ける。


「…………」


すると、その鳴き声は止んだ。


「ハル姉ちゃん、もういいよー」


フウカの声を聞いて、アルベルトはテントの入り口を探して中の様子を確認する。

そこには、小さな生き物がいた。

ギガスベアの子供のようだ。

アルベルトは両手で大事に抱え、テントの中から子熊を取り出した。

ざっと見た限りでは、ケガをしている様子はない。


「なんで、この中に子熊が??」

「ハルナ……それより、近くに親熊がいる可能性が高いわ」


そう忠告すると同時に、背後から大きなシルエットが現れた。

ギガスベアだ。多分、この子の親熊だろう。

三人は息をのんだ。空気が凍りつくような静寂が、徐々に緊張感を高めていく。

できれば、戦いたくはない。こちらにも攻撃する意思はないし、何もしていないのだから。

ただ、話が通じる相手ではない。

子熊に対する怒りがあるのだろう。

子熊を親に返すべきだが、ここで返すとその途端に襲われたりしないだろうか?

様々な思惑を考慮しつつアルベルトは対処する。

そして静かに子熊をハルナに渡し、背中の両手用の長剣を抜いて構える。


「――グルゥゴァ」


親熊はうねる。

それに反応したのは、フウカだった。


「ハル姉ちゃん、なんかあたしに言いたいことがあるみたい」


「――え?」


親熊は、フウカに向かって何かを告げている。

それに対して、フウカもうんうんとうなずいていた。

一つの区切りがついたと思われるタイミングで、フウカに問いかけた。


「……ねぇ、なんて言ってたの?」

「なんかね、お礼を言っていたみたい。”子供を助けてくれてありがとう”だって。そして襲うつもりはないから、剣をしまってほしいって」

「――?」




フウカの話によると、ギガスベアの親子はこの周囲で生活をしていたが、人間が縄張りに入ってきたので警戒をしていたとのこと。

その時、子供の一頭が見当たらなくなって探していたらテントの中に子供の臭いが続いていたが、その場所は人の匂いが強く、助けに行くべきかどうかを警戒していたところ、ハルナ達が戻ってきたという内容だった。


「へー……。っていうかなんで、フーちゃん動物の言葉がわかるの?」

「それはね……」


ギガスベアには多少知能があり、そこらの本能だけで生きている野獣とは違うようだった。

自然界に対する秩序を守り、この世界を構成する四元素の精霊に対しては最も尊敬の念を抱いていた。

ただ、精霊も様々であり、意思の疎通ができない精霊もいれば、フウカのように意思の通じる精霊もいるとのこと。


「……フウカ様、ひとつ聞いていただいてもよろしいですか?ギガスベアは本来群れをなして生活をしているはずなのに、なぜ単体で活動をしているのかを」

『仰る通り、私たちの種族は本来であれば複数の家族が群れをなしていますが、私たちはある理由があり群れから外れて生活しています』

「何かあったのですか?その理由は?」

『それは……』

『おい、そこまでだ。敵である人間と戯れることなど許さんぞ』


ハルナ達と会話をしていたギガスベアの後ろから、別の個体が姿を現した。




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