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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-86 注意喚起



「これで、素案は完成した。これからこれをわが国で検討し交渉の人員を派遣させてもらう。」

「わかりました……では、後日改めて調印式を行いたいと思いますので、日程はこれから調整しましょう」

「うむ、了解した」


ステイビルはイナと握手を交わし、これからの交渉がスムーズにいくこと願った。


「あの……」


イナは手を握ったまま深刻な顔でステイビルの顔を見つめている。


「――?」

「いいえ、何でもありません。何か言い忘れていたような気がして……」


イナは笑みを浮かべて、顔を横に振っている。


「……そうか、困ったことがあれば何でも言って欲しい。できる限りのことは協力しよう」

「……有難うございます」


そういって、ステイビルたちは席を立ち、ワイトとグレイの後をついて行き出口まで案内される。


「それでは、こちらにて……失礼いたします。ステイビル王子」


ワイトがステイビルの他、一人ずつ見回して挨拶を交わしていく。


「こちらこそ突然の訪問、大変失礼した。ぜひこれからもご協力をお願いしたい」


そう言ってステイビルは、ワイトに手を差し出し握手を求めた。

ワイトはその手を握り、ステイビルを引き寄せて耳元でつぶやいた。


「……ジュンテイさんがお待ちです、お帰りの際はお立ち寄りください」

「あ、あぁ。わかった……」


そんなことについて何故耳元で話さなければならないのか判らなかったが、こういう時は大抵何かあるため相手の雰囲気に従う方が正解だと判断した。

近くにいたハルナたちもそのやり取りを不思議に感じていたが、あとでステイビルが事情を説明してくれるだろうとこの場は黙って見守っていた。


ハルナたちは、再び崖のような階段を降りて町の中に向かって歩いて行く。

そして、白い蒸気を吹き出すジュンテイの鍛冶屋が見えてきた。

ジュンテイはステイビルを見つけると、手招きして呼び込んだ。


「おぉ、お前たち!来たか、剣は仕上がってるぞ、こっちだ!」


ジュンテイはわざとらしいくらいに、大げさにステイビルたちを鍛冶屋の中へ連れ込んだ。

そのまま部屋の奥に連れて行かれ、何もない岩の壁を前にする。

ジュンテイは後ろを振り向き、自分の従業員以外の者がいないか確認する。

いないことを確認して一枚のコインを取り出した。

壁にある小さな穴にそのコインを投入すると、低い音を立てて壁が下に沈み、ドワーフが一人通れる幅の通路が現れた。


「早く、こちらに!」


ジュンテイは丁度良いサイズの通路を進んで行くが、アルベルトやステイビルにとっては少し窮屈な通路だった。

二人は身をコンパクトに畳んで、ようやく通り抜けることが出来た。

そして体がつっかえたのは、太めの体形のブンデルだった。

結局ブンデルは、ジュンテイの従業員に介助してもらいながら入ることが出来た。


「こ……ここは!?」


ステイビルは、奥に入って驚愕する。

樽の中や壁に掛けられた多数の武器や防具の数々は、戦争を始めるような装備だった。


「これは、ちょっとした争いに備えておってな……いや、今すぐ何があるわけではないのだが」


そう言って、ジュンテイはこの状況を説明し始めた。

いまドワーフの町の中で、他種族との交流を行うべきか行うべきでないかで意見が二つに分かれている。

その意見は以前より出ている内容だったが、表面化したのはドワーフの中ではここ近年であった。

町の中でも議論が活発になり賛成派、反対派の色が出始めていた。

その両者の声は次第に大きくなり、町の中に不穏な空気が流れ始める。

これを問題視した長老たちは、賛成派と反対派の代表を呼んで話し合いを行わせた。

賛成派の代表はジュンテイ、反対派の代表は“ブウム”というドワーフだった。

前長老は反対派だったため、以前は賛成派も大きく口に出しては言えなかった。

だが今の長老になり、“町のことは町の住民で決める”という方針が取られるようになり、押さえつけられていた声がチャンスとばかりに声を挙げ始めたのがきっかけだった。

その話し合いも結局は、水と油。

お互いの意見は、相手に受け入れられることはなかった。

しかし、町の中では賛成派が徐々に数を増してきていた。

閉鎖された空間での生活に、変化を求めるものが増えてきたのだ。

その状況を面白く思わない反対派は、実力行使も辞さないという姿勢を見せ、こうして準備を進めているとのことだった。


「これって、今回の話しは……反対派にとっては」

「面白くない話でしょうね、きっと」


エレーナの言葉に、ソフィーネはさらっと答えた。


「その通りなのだ。この話がブウムの耳に入れば、火薬に一気に火が付くことになるだろうて」

「かといって、水の問題もあるしこの話しを中断させるわけにはいかんしな」


ステイビルは樽に入っている剣を一本抜いて、その出来栄えの高さを眺めながら意見を述べる。


「とにかく、いつかはこのことがブウムたちの耳に入ることでしょう。そうなると、人間が派遣されても危険な状態ということです」


「とにかく一度戻ることにしよう。長老との話し合いは、まだ続けるつもりだ。その間に、もしそのブウムというドワーフに話しが出来ればいいのだがな……」


ジュンテイは、その言葉を聞き入れ、なるべく人間にも賛成派ドワーフにも被害が出ない様に進めていくということで、この場の話は収めることになった。




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