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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-85 気遣い



ようやく、ドワーフとの交渉が開始された。

まずはステイビルの目標が、下の集落への水の開放が目的であることを告げる。

ただ、ドワーフの町でもその水を動力や生活として使用していることもわかっていた。

ステイビルは、その辺りをドワーフと調整することを考えていた。

しかし、ドワーフ側もそう簡単に応じることは出来なかった。

今まで作り上げてきたインフラを、変更することなど容易ではないと反論する。

だが、勝者はステイビル側。

そのことは脳裏に置きつつ、最大限ドワーフ側のダメージを少なくしたいとイナは考える。

(長老として、ドワーフの町が人間に侵略されない様に……)

そういう考えも、少なからず持っていた。


『他種族は侵略してくる対象である』


先代の長老から引き継ぎされた際に、そう聞かされていた。

ステイビルもそのことを気にかけていたのか、出来る限りの協力はさせてもらいたいとイナに告げる。


「協力……とは?」

「そうだな……工事の際には、東の国からも人員と費用を出そう。そのためには少し技術者を数人この町に滞在させてほしい。そこでドワーフの技術を少し学ばせてもらえないか?」


イナたちにとっては、初めての提案だった。

ドワーフの三姉妹は、返答に困っている。

ワイトとグレイの顔を見ても、判らないといった表情で返してくる。


「……いいんじゃねえか?その話、受けても」

「ジュンテイさん……」


ジュンテイの言葉に、サナが反応する。


「そろそろこの町も、我々だけで生きていく時代ではなくなってきたということだ。前から言っていただろ?」


ジュンテイの話によると、この町は長年にわたり他の種族との関わり合いを持たずに生活をしてきた。

そこで、中には新しいことを取り入れようと他種族との交流を提案する流れが生まれた。

しかし、その声は“危険である”という意見と絶対的な権限で反対された。

前長老の時代のことだった。

さらに時間が流れたいま、町の中でも推進派の数が増えてきている。

反対派は前長老が退位してから勢いを無くし、今は半々の数で均衡をしていた。

その勢いは、何かのきっかけですぐに流れが変わってしまいそうなものだった。


「すぐに結論出していただかなくても……いや、なるべく早急にお願いしたい。下の集落も、困っているのだ」


下をうつむいて話しを聞いていたイナが、顔をあげてステイビルに応えた。


「少し……もう少しだけお時間いただいてもよいでしょうか。私たちの町にもかかわることですので話し合いをしたいのです」

「あぁ……構いません。ですが、なるべく早くお願いしたいのです」

「わかりました……」


そういうとイナは、二人の妹とワイトとグレイ、そしてジュンテイを呼び、別の部屋へと姿を消していった。


その間、ステイビルはアルベルトと先ほどの戦いの内容を聞き、エレーナとハルナは部屋に飾られている装飾品を眺めていた。

ソフィーネは初め黙って座っていたが、ハルナに手を引かれて一緒に装飾品を見るように勧められついて行った。

その時のソフィーネの表情があまりにも思い詰めていたので、ハルナは気を紛らわせるためにソフィーネに話しかけた。

やはり不意打ちとはいえ、捕まってしまったことがショックなのだろうと感じ取っていた。

ブンデルも落ち着かない様子で、誘われてはいないがハルナたちの後ろをついて回り、自然とその輪の中に入っていった。


――カチャ


部屋に待機していたメイドが三度目のお茶を交換したころ、再びドワーフたちが姿を現した。


「……お待たせしました」


イナが扉を開けて、一番に入ってくる。

その後をニナ、サナが続き、警備の二人が入ってきた。


「あれ?ジュンテイさんは?」


思わずハルナが、ジュンテイがいないことを気付いて口にしてしまった。

その問いかけに対して、ドワーフが全員テーブルの前に付いた後にニナが応じた。


「ジュンテイさんは、用事があるとのことで先に出られました。何かご用件がございましたでしょうか?」

「そ、そうですか……いえ、大丈夫です」


ハルナはそう言って、目の前の新しく淹れてもらったお茶を一口含んだ。

この場は再び、話し合いによって駆け引きが繰り広げられる緊張した空気が戻ってくる。

この場で仕切り直しとなった交渉で、一番最初に口を開いたのはイナだった。


「先程の件について、我々の方で協議しました。その結果をお話しする前に、一つお伺いしたいことがございます」

「聞きたいこと……ですか?それは、どのようなことでしょうか?」


ステイビルはその言葉に対し、表情を崩さずに応える。

その言葉を聞いたニナは、真剣な表情でステイビルに確認する。


「お伺いしたいことは……もし、この件について私たちが断った場合どうされるおつもりですか?」

「そうか……そうだな」


ステイビルは、気遣いが足りないことに気付いた。

相手からしてみれば、ステイビルは交渉という名の侵略の可能性がある。

人間同士であれば、契約という名の約束が交わされるが、今まで他種族と交流のない者たちにとってはこの交渉は命令に近いものを感じたのかもしれない。

ステイビルは、なるべくなら争いによる押さえつけによって服属させることは望んではいない。

だが、最初から信頼を得たりこちらの思惑を伝えることが難しいことも知っている。

少し焦って交渉を速めたことも、今回の怯えさせてしまった要因なのだろうとステイビルは反省した。


「……どうされました?ステイビル様」

「あ。あぁ、すまない。先ほどの件だが、我々はあなた方を押さえつけて従わせるようなつもりは全くないことを先に言っておく」


そう言って、ステイビルは今回の件について正式な交渉であることと、お互いの条件やメリットデメリットを提示し、これが守られなかった場合の罰則についても決めていくことを説明した。

それによってようやく、ドワーフ側も落ち着いて交渉ができる状況が整った。




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