3-32 NPCみたいな人
「それでは、こちらのお部屋をお使いくださいませ」
ノーランが、屋敷の中のそれぞれの部屋を案内してくれた。
「それでは、ごゆっくり。あと何かございましたら遠慮なく従者の者におっしゃってください」
そういうと、ノーランの後ろにいた従者が一礼した。
「ふー……疲れたね」
「そうね、なんでいつもこんなに濃いことばかり起こるのかしらね……」
「ふふふ、まだ何も始まってませんよ?お二人さま」
「そんなことを言うのは、やめましょうよ。ソフィーネさん、何かありそうな感じがするじゃないですか!?」
この部屋を割り当てられたのは、ハルナ、エレーナとソフィーネだった。
例のごとく、男性二人は同じ部屋に。
マーホンは、ノーランの部屋に泊まることになった。
ハルナたちは部屋の中で一通りくつろいだところを見計らって、食事に誘われた。
今日のメニューはモイスティアの郷土料理が並び、ハルナたちは地元の食材を存分に味わった。
エレーナとステイビルは少し強めの地酒も楽しんだ。
その場所で、マーホンの王国での活躍やノーランとの出会ったいきさつなど、老婆とノーブルに対して説明をした。
その話を聞いて、ノーブルはマーホンとの報告の内容の違いに頭を抱えて悩んでいた。
「お、お父様……ごめんなさい」
「いいじゃないかい、ノーブル。こうやって無事に帰ってきたんだ、その再会を喜ぶべきじゃないかい!?」
楽しかった食事のひと時も終わり、ハルナたちはそれぞれの部屋に戻っていく。
「ここのお酒……気に入ったわ!」
上機嫌のエレーナが子供のように、ピシッとしたベッドの上に飛び込んで枕に顔を埋める。
「私、あのお芋を焼いただけの料理……すごく気に入っちゃった!私にもできそうだし」
「ハルナ……焼くだけって料理なの、それ?」
奥で酔い覚ましのお茶を入れてくれたソフィーネも、その言葉を聞いて笑った。
「――?」
だが、ソフィーネの笑顔は一瞬にしてその表情が変わる。
それにつられて、ハルナたちも息を飲み込む。
――コンコン
ハルナたちの部屋の扉をノックする音が聞こえ、ソフィーネは扉に近付く。
「――はい」
ソフィーネは、扉の外に向かって返事を返した。
「おくつろぎの途中、大変申し訳ございません。祖母様がお話があるとのことで、お部屋にお越しいただきたいと」
ソフィーネは扉を開け、従者の姿を確認する。
「わかりました。用意してすぐにお伺いするとお伝えください……それと呼ばれたのは、私たちだけでしょうか?」
従者はその問いかけに対して静かに横に首を振り、そのあと一礼してソフィーネの前から立ち去った。
「一体、何かしら……」
部屋の中で、会話を聞いていたエレーナが真顔になる。
「とにかく、行ってみましょう」
ハルナの一言で三人は身なりなどを整え、再度部屋を出て先ほど教えてもらった老婆の部屋まで向かった。
――コン、コン
ソフィーネが扉をノックすると、向こうから入室を許可する老婆の声が聞こえた。
静かにドアを開けると、中には老婆の他にステイビルとアルベルトが先に入っていた。
「ふむ。これで、全員揃ったね」
「……あの、マーホンさんは?」
老婆は手元に置いてあるお茶を一口飲み干して、今発言したハルナに対して応えた。
「これからお話しするのは、王選に関する重大な話さ。これは関係者以外には知られてはいけない話で……」
「だとすれば、マーホンは既に参加していることになるな」
「ステイビル王子……それはどういうことだい?」
老婆は不思議そうな顔で、ステイビルのことを見た。
「この王選が始まって、おかしなことが起きている。急にキャスメルたちと連絡が取れなくなったり、それらに関連する人物たちにも一切連絡が取れないのだ。あのハイレインさえも」
「そうね、誰かが会わせないようにしているようにも見えるわよね」
「そう、エレーナの言うように、”誰か”が意図的に我々から王選に関する情報から隔離しているようにも見える。特に、我々王選を行っている者や”過去に王選を経験したことがある者”たちから……だ」
「もしかして、わたしお母様と会えなくなるの……かしら」
「この王選が終われば、今まで通りの関係になるだろうな。その王選がいつ終わるかはわからんが」
不安そうなエレーナに対して、いつかは会えるであろうと気を遣うステイビル。
だが、王選の終わりがいつなのか、どちらかが全ての神に会えた時なのか、会えない時には時間切れがあるのか。
それすらも分からなかった。
「そして、これからは俺の勘なのだが。もしかしたら、王選に関して情報を知っている者がいて、その者と接触することは禁じられていないのではないか……と」
「あー、NPCみたいな人がどこかにいるってことですか?」
「「……NPC? なにそれ?」」
ハルナ以外の全員が、突然意味不明な言葉に対し疑問を感じた。
「あ、ごめんなさい。要は、王選のことを知っている人がいて、その人たちを探せばヒントがもらえるかもしれないってことでしょ?」
「う、うむ。そういうことなんだが、いやに物分かりがいいな。知っていたのか?」
「い、いえ。直感的にそう思っただけです……」
ここでハルナ今までやってきたゲームの話をしても、さらに混乱を招くであろうと思いその情報は心の底に閉まっておいた。
「……流石ですな、ステイビル王子。よくぞそこまで考えつきましたなぁ。そしてわたくしめが、その道案内の役目を授かっているものでございます」
老婆はようやく本題に入れそうな流れを感じ、安堵の表情を浮かべた。




