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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-25 アノ方の右腕



指差された男は、ノーランの顔をじっと見る。

そして思い当たる節があるのか、”おぉ”と一言つぶやいた。


「お前ぇは、あの王国の町をウロチョロと何か探ってた女か?あそこで野垂れ死ぬか魔物の餌になるかと思ってたが、生きててよかったな!また会えて嬉しいぜ?」


その言葉に反応し、怒りのあまりに席を立つノーラン。

だが、その肩にはマーホンの手が掛けられ、落ち着くように指示された。

ノーランは申し訳なさそうな顔をマーホンに見せながら、ゆっくりと席に腰を下ろした。

マーホンはそんなノーランの背中を、優しく撫でて落ち着かせた。

その様子を見て、ステイビルが男に向かって話しかけた。


「このノーランの荷物はもちろん無事なのだろうな。そうでなければ……」

「そうでなければ?……何だっていうんですかい?まさか、あんたみたいな男がアノ方の右腕を務めるこの俺に敵うとでも思っているのか?」


(アノ方?……後ろに誰かついているのか?)


「それなら、試してみるか?もし勝てたなら、今の手持ちの金をすべてお前にやろう」

「ほほぅ、大した自信だねぇ……兄さん。きれいな顔がぐちゃぐちゃになっても、文句は言わないでくれよ?」


男はステイビルに合図をし、店の裏側に連れて行った。

ハルナたちは思い出す。

もしもこういう状況になった場合、『決して精霊の力を使ってはいけない』と強く言われていたことを。

精霊使いは普段滅多にお目にかかることはないため、変に勘付かれないように注意して行動しなければならなかった。

だが、万が一の場合は容赦なくステイビルを守るつもりでいた。



ステイビルとその男の周りを、男の関係者だけで取り囲んでいた。

ハルナたちはその周りの隙間から、ステイビルの姿を確認することしかできなかった。

割り込もうとすると、男たちは下衆な笑いを浮かべハルナたちの身体を触ろうとした。


「そろそろ準備はいいかい?お兄ちゃんよぉ……」

「あぁ、いつでもいいぞ……」


それと同時に一斉に、周囲からステイビルに対して口汚い言葉が浴びせかけられた。


「――な!?」


ノーランは、今まで聞いたことのないくらいの下品な言葉を耳にして驚く。

それと同時に怒りが込み上げ、この声に負けないくらいに”ガヴァス”を応援しようと肺一杯を空気で満たした。


――ドスッ


一瞬にしてステイビルのつま先が、相手の鳩尾にめり込んでいるのが見える。


「ガハッ!?」


男は息を吐きだし、痛みの衝撃で次の吸気の動作に入れない。

お腹を抱えて前かがみで倒れこもうとする男の後頭部に、ステイビルは蹴りこんだ足でそのまま高い位置から踵を振り下ろした。


――ゴッ!


うるさい声の中に重く低い打撃音が響き渡り、一瞬にして音を奪った。


「よっし!」


短い言葉の中に、エレーナの喜びが詰まっているのがわかる。

周りを取り囲んでいた男たちも、目の前の出来事が一瞬で流れたため理解できていなかった。

ただ、勝ちを信じ切っていた男が横たわっているのは視界に入っている。

本来ならばピンチの時には助ける予定だったが、その隙もなかった。


「……おい、この勝負は俺の勝ちでいいのか?」


ステイビルは目の間に倒れている男に、言葉を投げかけた。

数秒間待っても、その答えは返ってこなかった。

ステイビルは前に屈み、左足は汚れてはいないが穢れた物を取るかのように靴のつま先を払う。

そのまま、周囲を囲む男たちを見て告げる。


「勝負は見ての通り、俺の勝ちだ。すぐにお前たちのボスに伝えろ、こいつの身柄を警備兵に突き出されたくなければ奪ったノーランの荷物を全て持ってここまで来いと……な」

「ヒィッ!?」


男たちは倒れている男を置いて、一目散に逃げだした。



「流石ですね、中に仕込んでいた腹部の防具を蹴り破るほどの威力。流石です」


ソフィーネがステイビルの勝利を称えた。


「ふん。こんなのはただのイジメだ」


ソフィーネはその言葉を聞き、倒れた男を横にして手を後ろ向きで縛る。


「あの者たちは、戻ってきますか?」


ノーランはステイビルの強さに驚きつつ恐怖を感じ、恐る恐る話しかけてみた。


「わからん。ただ、来なければこの男を警備兵に突き出すだけだ。そうなったら後のことは、警備兵にお任せするよ」


そういいながら、ステイビルは男のボスを待つために、再び店の中に戻っていく。


「いやー、旦那。助かりました、私もあの男たちには迷惑していたんで……」


店の男が、手もみをしながらステイビルに話しかける。

その笑顔は、先ほどの方がまともに見えるくらいの酷い笑顔だった。


「それで、先ほどのお代ですが”間違って”頂き過ぎていたようですので、お返ししますね……えへへへ」


男は、銀貨一枚をポケットから出してステイビルに渡そうとした。


「いいのか?」

「へ、へい。もちろんですとも!お代は……」

「そうじゃない。もしあいつらがボスを連れてきた時に俺が負けたら、お前は”また”あいつらに付くんだろ?」

「――ぐッ!?」


男はそれっきり、黙りこんでしまった。



しばらくして、店の外が再び騒がしくなる。

どうやらこの店に強い男がいると噂になり、野次馬が集まってきた。

そして、騒がしい声が一瞬にして静かになる。

その原因となる金属の響く音が、徐々にこの店に向かって近付いてきた。




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