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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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――数日後。


まだ、太陽が昇り切っていない時間帯。

そこには、二つの人影があった。

人影は、修理されて間もない新しい家の扉を閉めて鍵をかける。

人影の一つが家のシルエットを見上げ、胸の前で手を組んで物思いにふける。

もう一つの人影が、近付いてその肩に手を置いた。


「……そろそろ行こうか、スィレン」

「えぇ、あなた。ここにはたくさんの思い出があったから……離れるのは少し悲しいわね」

「すまんな……わたしが過ちを犯してしまったばかりに」

「ううん、違うのよ。それとこれとは別。もし、私もあなたと同じ立場だったなら、同じようなことをしていたと思うわ。だから、あなたの行動や決断を否定する訳ではないのよ。むしろ生かしてもらえて、これからもあなたと一緒に過ごすことができるだけでも感謝だわ」

「スィレン、お前と一緒になれたことを嬉しく思うよ」

「私もよ、ボーキン」


ボーキンは最愛の妻の名を呼び、向き合ったスィレンと抱きしめ合った。

二人は、家を後にして関所に向かって歩き始めた。

関所にたどり着くと当直の警備兵が立っており、国への出入りを管理していた。

ボーキンはその警備兵に、国民であることを示すカードと警備兵のバッジを手渡した。

警備兵が関所の門を開き、ボーキンとスィレンがその間を通っていく。

二人が関所を抜け、立ち止まると警備兵が後ろから声をかけた。


「ボーキン様、今までご苦労様でした。直接お会いしたことはございませんでしたが、あなた様のことは聞いております。どうか……どうか、この先もお元気で」


ボーキンが振り返ると、警備兵が敬礼して見送っている。

ボーキンもそれに応えるべく、同じように敬礼し返礼した。

ボーキンと警備兵は敬礼を解き、そのまま振り返って再び王国を背にして歩みを進め始めた。

背後からは、関所の門が閉じられる音が聞こえた。

暗かった空が赤みを帯び始め、明かりが必要ないほどに足元が見え始めた。

背後には、もう長年住んできたあの街の姿は見えなくなっていた。


(さて、これからどうするか……)


お互いが気使い、話題に出せなかった問題。

ボーキンが意を決して、その問題を二人で解決し始めようと決めたその時。


「……!!」


ボーキンの背後から声が聞こえた気がした。

立ち止まり二人で背後を振り返ると、そこに逆光で姿はわからないが二つの影が見えた。


「……ンさま……お待ちください、ボーキン様ぁ!!」


ここ数年の聞き覚えのある声に、逆光に目を細めてその姿を確認する。

それは、エルメトとアーリスの姿だった。

二組の距離は縮まり、お互いの顔が認識できる距離となっていた。

とうとうエルメトたちはボーキンに追い付き、息を落ち着かせるために深呼吸を何度か繰り返した。


「おぉ、お前たちか。どうした、もう私は上官でもないが何か用事か?それとも、わざわざ見送りに来てくれたのか?」


最初に息を整えたエルメトが、その言葉に対して返答する。


「私たちも事情がありまして、警備兵を退役しました」


ボーキンはとっさのことで、エルメトが何を言っているのかわからなかった。

時間が経過し、エルメトの言葉がようやく飲み込めた。


「なぜ、お前たちまで!?まさか……私に付いてきて」

「いえ、そうではありません」


ボーキンの発言をはっきりと否定されたことに対し、少しだけ残念に思う気持ちとその辞めた理由が気になった。


「なぜ、お前たちが辞めなければならなかったのだ?……もしかして、誰かに嫌がらせを受けたのか!?」

「そうではないのです、ボーキン様。これは私たち兄妹が考えての行動なのです」


話を聞くとアーリスがマギーの宿の警備を行っていた時に、いつか宿屋で働かせてくれないかと頼んでいたようだった。

その話を受けて、マギーは大喜びした。

ただ、エルメトもアーリスも国を守る大切な任務に就いている身であり、王選においてはボーキンの補助役としても必要であるとのことで、今すぐでなく全てが一段落してから来てほしいとアーリスに伝えていた。


「……そして今回の件で、はっきりと結果は出ていませんが、王選もカステオ様に決定するのでしょう。国の警備も良い仕事だと思いますが、山を守るのも重大な仕事ではないかと思いました」

「私たちの両親も山がとっても好きで、その管理に携われることが将来の夢でした。兄と私は、警備兵でその力を身に着けることができたと思います。ボーキン様のおかげです」


アーリスが、笑顔でボーキンとスィレンに話しかける。


「それじゃ……あなたたち、これからマギーさんのところへ?」

「はい!これからお世話になろうと思っています」


スィレンの言葉に対し、アーリスが応じた。


「……ところで、ボーキン様はこれからどうなされるのですか?」


ボーキンは、先ほどスィレンとこれからその相談を仕掛けたことを思い出す。

だが、何も決まっていないため、エルメトへの質問に答えることができなかった。


「私たちはこれから、自由なの。何をしても構わないし、これから先の予定も自由に決めていいんだから!」


スィレンが、両手を広げて誇らしげに答える。

その笑顔がボーキンは眩しく、今までその話題を出すことに後ろめたさを感じていた自分が恥ずかしく思えた。


「じゃあ、それなら一緒にマギーさんのところへ行きませんか!?」

「ん、アーリス。それはいいアイデアだな!まだまだ教えてもらいたいこともあるしな!ボーキン様も、急ぐ旅でなければご一緒にいかがですか?」


突然の提案に、ボーキンは呆けて思考が止まる。

ボーキンはエルメトと視線を合わせたまま、何も話さない時間が数十秒続いた。


――ドン!?


ボーキンの背中に衝撃が走る。

スィレンが、ボーキンの背中を叩いていた。


「いいじゃないの、一緒に行きましょうよ」


スィレンは、これから起こる楽しそうな出来事に目を輝かせてボーキンに話しかける。

その目を見ると、ボーキンはその答えに”断る”という選択肢が選べないことを悟った。


「……あぁ。それもいいな、急ぐ旅じゃないし……な」

「やったー!そうと決まれば、早くいきましょうボーキン様!」


ボーキンとスィレンはアーリスに手を引っ張られて、歩を進めることを強要され歩き始めた。

ボーキンとスィレンはお互いの顔を見合わせ、微笑み合った。


(これからまた、忙しくなりそうだな)

(えぇ、そうね。あなた……)


そう心の中で言葉を交わし、アーリスの後をついて行った。


空はいつの間にか青空が広がり、壮大なディヴァイド山脈の頂上がはっきりと見渡せることができた。




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