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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-130 潜入



「なぜ、お前は私の名を知っているのだ!?」


ヴァスティーユは先ほどまでとは違った雰囲気で、ケタケタと笑いボーキンの問いに答える。


「私もね、人を探しているの。だけど、ちょっとだけ入りづらいところにいて、その関係者を探していたところなの。そしたら、私の大好きな匂いがするから調べてみたら、あなたの事を知ったわけなのよ」

「……」

「まだ不思議そうな顔をしているわね。……いいわ、あちらで少しお話ししましょ?」


そう言って、ヴァスティーユは店の奥のテーブル席にボーキンを誘った。

ボーキンも、ヴァスティーユの後ろを黙って付いて行く。

お互いに向かい合って席に座り、ボーキンは最大限の警戒でヴァスティーユのことを見つめる。


「ちょっと、そんなに警戒しないで欲しいんだけど?怖がっている感情も嫌いじゃないんだけど、本当に好きなのは人を怨んでいる感情が一番好きなのよ。あなたの中にあるモノのようにね」


ボーキンは自分でも気付いていないような感情を指摘され、得体のしれない恐怖への感情を感じた。


「お前は一体、何者なのだ?……その気配、人間ではないな?」


ボーキンは腰に下げている剣の柄に手をかけて、見た目は可憐な女性の姿をしているが異常な雰囲気を醸し出している目の前の化け物を最大限に警戒した。


「あら、やっぱり腕が立つ人は私の事がわかるのね。他の近寄ってくるおバカさんたちは、全く気付かなかったのに」


ヴァスティーユは自身の正体を隠すこともなく、ボーキンが強く抱く警戒に対して応える。


「最近の不可解な消息不明の事件は……お前のせいなのか?」

「そう。でも、いいでしょ?この街の下衆なゴミたちを"お掃除"してあげたのだから、反対に感謝して欲しいくらいよ」


その言葉を聞き、ボーキンが立ち上がり剣を鞘から抜こうとしたその瞬間


(――!?)


目の前の容姿からは想像できないくらいの、プレッシャーがボーキンの動作を止める。

ボーキンは、背中に汗の雫が伝っていくのを感じた。


「今のでわかったと思うけど、下手に手を出さない方がいいわよ?私はね、あなたを殺したい訳じゃないんだから」


その言葉を聞き、ボーキンは自分の命が助かったことを悟る。

剣から手を離し、額の汗が流れ落ちるのを止めることもせず、もう一度席に腰を下ろした。


「やっと解ってくれたみたいね、自分の今置かれている状況が。お願いではあるのだけど、あなたには拒否権は無い話なのよ」


どんな作戦や事件の場でも、決して自分は死ぬことは無いと思っていた。

それは相手を見て、自分を倒せるような技量を持つ者はいなかったから。

ここまで力の差をみせる女性に対しては、今までのどのような場面にも経験したことのないプレッシャーを与えてくる。

だが、相手になめられるわけにはいかない。

あくまでも対等を保つように、ヴァスティーユに話しかけた。


「で、俺に何を求める?」


ヴァスティーユは必死に抵抗をしようとするボーキンの様子を見て、その態度を鼻で笑った。


「……まぁいいわ。私、今ある人物を探しているの。ずっと行方が分からなかったけど、どうやらうまく王宮の中に入りこんだみたいなのよ」

「もしかして、カステオに付いた女性か?」

「多分、そうね。近くにいる人物の感じが、カステオっていう王子みたいなのよ」

「お前には、それがわかるのか?」

「わかってると思うけど……私にはね人間にはない力があるのよ」

「やはりお前は、魔物か!?」


その瞬間ボーキンの頬に風を感じ、そこに血が流れていくのを感じる。

ヴァスティーユは自分で切った切り口から滴れる血を人差し指で拭い、その指を口の中に運んだ。

血の味を味わうようにゆっくりと指を抜き、そのままボーキンの傷口へ運ぶ。


ヴァスティーユの唾液が付いた指が傷口に触れると、肌が焼ける音がしながら黒い煙が傷口から上がる。


「ぐぅっ……!?」


ボーキンは焼けつくような刺激を我慢しながら、徐々に通り過ぎようとする痛みを堪える。


「今度私のことを、”魔物”呼ばわりしたら、あなたの身体頂くからね」


ボーキンは自分の身体に何が起こったのかを調べるべく、切れたと思われる頬を手で触れる。


「むっ!?」

先ほどまで切れたと思っていた頬の傷が、指先に触れることはなく塞がっていた。


「これは……どういうことなのだ?」

「少しだけあなたの中に入らせてもらったのよ、その代わりあなたにも私の力を少し貸してあげるわ。大丈夫、あなたの身体を乗っ取るわけでもないし、今まで通りで構わないの。私の探している人物を探すためにね、もちろん見つけたら元に戻してあげるから。ただね……あなたにも私と同じものを飼っているわよ」


ヴァスティーユはボーキンに指示をして王宮内で活動するために従者を一人用意してほしいと命令した。

この命令によりどんな危険なことが起こりそうか理解していたが、ヴァスティーユのその言葉にボーキンは逆らうことはできなかった。

こうしてヴァスティーユはニーナの従者の身体を乗っ取り、王宮内に入ることができ自分の探し人の捜索を行っていった。

それはステイビルがカステオと出会い、王宮内で感じる小さな異変に気付くまで行われていた。




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