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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-121 約束



「おい……フェルノール、何を言っている!?」


驚いた表情の声で、カステオは腕の中で自分に身体を預けるフェルノールに話しかけた。

だが、フェルノールはその視線を合わせないように目を閉じる。


「カステオ……見ての通り、私の”入れ物”はもう持たないの。それに、ヴァスティーユのダメージが大き過ぎて、意識を保つのがやっとなの。意識を保てなければあそこに転がっているボーキンのように、ただ目の前の敵を襲うだけの魔物となってしまうのよ。そんな姿をあなたには見せたくないのよ……」

「では、また人間を捕食すれば元に戻るのだろう?そうだ、そうしよう!囚人を何人か連れてくるから……」


焦るカステオは、とんでもないことを口にする。

その言葉に、フェルノールは厳しい口調でカステオに返した。


「何、バカなことを!?昔のあなたに戻りたいの?自分だけのために行動するような、そんな愚かな王になりたかったの?せっかくここまできたのに……ぐっ!?」


フェルノールは全ての言葉を言い終えることができないまま、その苦しさに顔を歪める。


「カステオ……あなたは昔のようになってはダメ。あの時一緒に約束したでしょ?あなたは、立派な王になりなさい」


フェルノールは厳しい顔から優しい表情に変え、カステオをなだめるように説得した。

そのままシュクルスに対して、もう一度お願いする。


「シュクルス、自分の力を信じて。あの時、私を言い負かした時のような強さを見せて……私は大丈夫だから、ここの人たちを傷付けたくないの……お願いだから、意識が途切れてしまう前に」


ニーナが、カステオのことを心配そうに見つめる。

その視線を感じてか、カステオもシュクルスにお願いした。


「頼む、シュクルス殿。フェルノールを楽にしてあげてくれ……」

「ありがとう……カステオ」


フェルノールはその言葉を聞いて安心し、ゆっくりと目を閉じる。

ステイビルは、どうするべきか迷っているシュクルスの肩を叩いた。

ソルベティも、弟の顔を見て頷いている。

もうここでは、剣に認められたシュクルスだけしかできることはない。

シュクルスは両手で剣を握り、目の前に構える。

心の中で切りたいものを強く思い、その姿を脳裏でとらえる。

その感覚は不思議で、自然と頭の中に流れ込んでくる。

これが剣の持つ力なのだと、シュクルスは納得した。

構えるシュクルスの中には、迷いが一切消えていた。

振り上げた剣を、あとは振り下ろすだけの状態になる。

これまで何万回と、訓練を重ねてきた自信のある動作だ。

目標をしっかりと目でとらえ、剣の軌道をイメージする。

そこには、カステオのフェルノールを支える手が震えているのが見える。


「……あ」


ハルナが一瞬声を掛けたが、シュクルスは既に思いを込めてその剣を振り下ろした。


――ザン


みんなが見守る中、誰の耳にも聞こえる何かを切り裂いた音が、静かな部屋の中に響き渡った。

剣が振り下ろされてからのわずか数秒間が、とても長く感じられる。

カステオが切られたフェルノールの身体を確認すると、そこに切り傷のようなものは付いていなかった。

そして、腕のなかにいるフェルノールに声をかけた。


「フェルノール……」


その呼びかけに、返事はない。


「フェルノールさん……」


シュクルスも、目の前の女性に話しかけた。


「……あなた、ほんと甘い性格をしてるわね」


目を閉じたまま、フェルノールはそれらの呼びかけに応じた。


「フェルノール、無事なのか!?」


カステオがフェルノールの身体を起こそうとしたが、その身体には支える力はもう残っていなかった。


「……あなたは、暴走しかけていた私の悪い魂だけを消そうとしたわね?だけど、成功よ。ちゃんと剣を使いこなせたみたいね。それは、私自身の核なの。だから、もうすぐ崩壊が始まるわ」


一瞬喜んだシュクルスとカステオだが、フェルノールの足先から黒い霧が蒸発しているのを見て、もうどうにもできないと悟ってしまった。



「ハルナさん……でしたっけ?さっき何か言おうとしてたわね?最後にきいてあげるわよ」

「で……でも」


ハルナは蒸発が進行していくフェルノールを見て、最後の時間を貰うのは気が引けていた。


「……ハルナさん、せっかく与えられた最後の時間だ。有効に使って欲しい」


カステオのその言葉に、フェルノールは満足している。


「では、一つ聞かせてください。そのフェルノールさんの姿は、私の知り合いの人にそっくりなのです。もう亡くなっているのですが、何か心あたりはありませんか!?」


その問いに、フェルノールはゆっくりと息を吸い込んだ。


「この身体は、母様に与えられたものなの。入れ物自体は、違う世界から来たとか言ってたわね。その方の身体の一部を持ってきて、作られたみたいなの。だから似てるのかもしれないわね。……なぜその人の身体を使ったのかわからないけど、私がヴァスティーユたちと違うのは、このせいではないかとも思ってるの」


「その方は、冬美さんといいます。何か、覚えていることはとかはありませんか?とても優しくて、良い人だったんです……」

「そうなのね……ごめんなさい。その人の記憶は、何も残ってないわ。でも、この身体で良かった。ヴァスティーユたちのようにならなくて……とてもいい時間を過ごさせてもらったわ」


フェルノールはカステオの顔をみる。

だが、蒸発は随分と進み、頭と体幹だけになっていた。


「あと、母様ってどんな人なのですか!?」


フェルノールは口をパクパクさせるが、声にならない。

もう、目の前の視界も薄れてきているようだった。

もう一度フェルノールに問いかけようとするハルナを、エレーナが止める。

カステオは、その口をみてフェルノールと会話をする。

もう誰も、その邪魔ができない。

ここからは、二人の時間だけが過ぎていく。


(今までありがとう、カステオ。必ずあなたが目指した王になってね――)


最後、カステオの耳には確かにそう聞こえた。


(あぁ、約束する……必ず……必ず、王になってみんなを守れる王になってみせる。……今までありがとう、フェルノール)


そう告げるとフェルノールの笑顔は霧となり、空気の中にきえていった。




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