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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-105 ステイビルvsエルメト



「……わかりました、ボーキン様に掛け合ってみましょう。ですが、その前に私に一度その実力を見せて頂けませんか?」

「フン。今回だけは特別に相手をしてやろう……」


既に襲い掛かりそうなエルメトに対し、ステイビルは落ち着いた様子で応えた。

場所はスィレンに断り、庭先を借りることにした。


「アーリス殿、剣を貸しては頂けませんか?同じ道具であれば、道具の差だとか言い訳もできないだろうからな」


アーリスは剣の鞘ごと渡そうとしたが、ステイビルはそれを断り剣だけを手渡してもらった。

受け取った剣を数回振り、道具の感触を確かめる。


「あの、ステイビル王子。盾は使わなくても大丈夫なのですか?」


シュクルスはエルメトと装備を比較し、心配そうに王子に問う。


「盾で避けなければならない程ではないだろう。それもまた格上の礼儀というものよ」


いちいち気に障る発言に対し、苛立つエルメト。

既に正気の域を超えており、どうやって目の前の男を叩き潰すことだけが頭の中を埋め尽くしていた。


――バチーン!


一同が一斉に音の方へ向く。

アーリスはエルメトの背中に向かって、思いっ切り平手で叩きつけた。


「エルメト兄さん、落ち着いて……顔がすごいことになっているわよ。相手の挑発に乗るなって、ボーキン様にいつも言われているじゃない!?」


ハッとした表情で我に返ったエルメトは、深呼吸を数回繰り返し頭の中を埋め尽くしていた感情を口から吐く息に混ぜて逃がしていった。


「自分の感情に振り回されて、他人に心配されるようでは……まだまだだな」


ステイビルはさらに挑発するも、気付いたエルメトの目の色は落ち着いたままだった。

剣と盾を構えてステイビルを睨みながら、静かな口調で言葉を返した。


「お恥ずかしいところをお見せし、申し訳ございませんでした。この汚名は、剣の技術で挽回することにしましょう」

「できるといいな……その”挽回”とやらが」


ステイビルは両手で剣を握り、下段に構える。

カルディが開始の合図役を申し出たが、”実際の戦闘時は開始の合図があるのか?”とステイビルに拒否をされた。

エレーナやクリエはもしもの時に備えて精霊の力で助けようと、一瞬を見逃さない様に目を凝らしていた。

見ている者としては、両者が構えたまま対峙して長いと感じられる時間が経過している。

その際に、ハッキリと差が出ているのはエルメトの方だった。

明らかに攻めあぐねている様子が、見て取れる。

ステイビルの構えに隙が見当たらず、頭の中で何度かシミュレートしてもよい結果が得られない。

時間が経てば経つほどにエルメトの呼吸は浅くなり、息苦しさを感じ始める。


「……先程までの闘気はどうした?このまま俺の顔を見てても勝利はもぎ取れんぞ?」


中々攻めてこないエルメトに対し、ステイビルは挑発する。

そのセリフはお互いに言えることだと強気になりたいところだったが、相手の実力からみれば迂闊にも言えなかった。

あえてこちら側にチャンスを与えてくれているのだということが、目の前の男から伝わってくる。

しかし、相手が仕掛けてきても簡単に防げるイメージも描けない。

そんな中、エルメトはステイビルの構えの違和感に気付く。


(あの構え、左利きか!?ならば、反応しづらい右上部から……)


そう決めると、エルメトの目が諦めから決意の色に変わっていく。

そのことを感じ取った周囲も、動き出すと感じ息を殺して見守る。

エルメトは盾を前に構えたまま、悟られない様に下肢に力を貯める。

一気に地面を蹴り、ステイビルが返しにくいと思われる右側中段から、上方へ向けて切り上げた。


(もらった!!)


近くまで来ても回避行動をとらないステイビルに、勝利を確信するエルメト。

腕に貯めていた力を全力で解き放ち、剣をステイビルに斬りかかる

だが次の瞬間、盾の端から見えていた目標物が視界から姿を消した。


「――!?」


止めることのできない程の勢いで振った剣からは、何の感触も伝わってこない。

しかも剣を振り切ったせいで、右側の胴体はガラ空きの状態だった。

その隙を狙ってくると思い、身体に力を込めて衝撃を待ち受ける。


「……?」


ほんの一秒弱の時間だが、何も起きないことを不思議に思い体勢を変えて背後を向いた。

その視界には、突き出された剣先が向けられていた。


「……で、どうする?このまま続けるか?」


ステイビルは剣先を揺らすことなく、エルメトの鼻先に付きつけながら話す。

その言葉を聞き、エルメトは両腕を下に降ろし戦闘継続の意思がないことを表した。

その意思を確認しステイビルは剣を降ろし、柄の部分をアーリスに向けて返した。

エレーナたちは、勝利よりも王子が無事であることにホッとした。


「……どうだ、これで満足したか?」

「ステイビル様、大変失礼を致しました。あなた様への非礼の数々、どうかお許し下さい」


この言葉にアーリスも、ホッとした。

本来ならば国賓クラスでもてなす必要のある要人だった。

そのような人物にケンカを売り、力の差を見せつけられるまで無礼な態度を見せた兄にアーリスは呆れてしまった。

アーリスは、寛大な処置を見せてくれたステイビルに心の中で感謝した。


「それでは、早速ニーナ様、ボーキン様、ゴーフ様に紹介状を頂いてまいります」

「うむ、なるべく早く……な」


その言葉にエルメトは自分の主に向かうような気持ちで礼をし、急いで命令に従い行動を開始した。




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