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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第一章  【モイスティア】

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1-12 裏切り者



「……結局、あの男はただ使われていただけの下っ端だったのね」

「そこから先にも繋がらなかったし、あの薬草も大した効果はなかったという報告を受けているわ」


メイヤが持ち帰った警備隊からの報告を、アーテリア、エレーナ、オリーブ、ハルナで聞いていた。

あれから一週間経つが、コボルトも毎日行っている森の捜索では出会うことはなかった。

森の侵食については、結局食い止めることはできず、その周辺を焼き払うことで侵食は止めることができた。

最終的な被害は、十数平方メートルに及んだ。

町の方では今も情報収集を行っているが、有益な情報はなかった。


――コンコン


アーテリアはメイドに部屋の入室を許可する。


「失礼します。王国より連絡がございまして、本日討伐隊がラヴィーネに到着するとのことです」

「わかったわ、ありがとう。それじゃあ、関所近くの宿舎にご案内するように手配を」

「畏まりました」


マイヤはお辞儀をし、討伐隊を迎え入れる準備に取り掛かった。


「見つかるかなぁ……インプ」


ハルナは心配そうにエレーナの顔を見る。


「どうかしらね。こればっかりは蓋を開けてみないとなんとも言えないわね」



そして、討伐隊は到着しその翌日から四人一組で五隊の討伐隊で森の中を探索していく。

編成は、剣士と精霊使い二名ずつで、うち精霊使いの一人は火属性。

アンデッドに遭遇したことも報告してあるので、その対策でもある。

併せて、アンデッドは瘴気を含む力を使ってくるため森の保護についても、最善の注意を払うようにも依頼してあった。

対象を討伐するのは目的であるが、森が大きなダメージを負うことはなるべく避けたいところだ。

ましてや始まりの場所が機能しなくなった場合は風の町……いや、王国にとっても大きなダメージとなるのだから。

しかし、討伐隊が森へ入り探索し始めて一週間が過ぎたが、魔物らしき生物は見当たらなかった。

森を行き来する人々の目には、討伐隊の物々しい姿が、人々に圧迫感を与えているようにも感じられた。

次第に町の中でも大きな討伐が行われている事が話題になり、人々の話題にも上がり始めていた。

その中には、悪い噂も流れ始めていた。


『この騒動はフリーマス家による自作自演で市民を威圧するのが目的ではないか、ただ王国の目を引き付けたいだけではないのか――』

と。


何のために?という考えは生まれない。

こういう際、多くの人は自分を守ることだけや、かけた疑いを楽しんでいるだけである。

特に悪い噂は、拡散される速度は速い。

あっという間に町中に広がることとなった。

その噂に対して討伐隊も、疑いを持ち始める。

嘘の依頼のために、遠く離れた町まで遠征し時間を使っているのだ。

そうだとすると、隊員の士気も下がるため隊長は直接この町を預かっているフリーマス家に問い質すことにした。

討伐隊の隊長は、アーテリアに質問する。


「その、インプやアンデッドを見たというのは本当の報告なのですか? お聞きかもしれませんが、町ではよくない噂が流れているようで……」

「例えば……どのような噂かしら?」

「……大変申し上げにくいのですが……王国の目を引くために、あなた様が嘘の依頼を流しているだけではないか……と」

「なるほど。 あなたは王国の兵でありながら、わたくしたちの報告よりも市民の噂を重視されるというわけですね」

「あ!……いや決してそのようなことはないのですが……」

「……わかりました。明日までに何も問題がなければ、捜索は終了していただいて構いません。あと、撤退時には報告書もお願いしますわね。依頼した側としても、王国に報告しなければなりませんので」

「は! 畏まりました、それでは」


――バタン


「……王国の兵も質が落ちたものね。人の噂なんかに惑わされるなんてね」

「完全に疑った目で見てたわね、私達のこと」

「確かに、インプは依頼があったのだけどその真偽はハッキリとしなかったものね」

「でも、アンデッドの遭遇は実際に目の前で起きたことなのですから!」


四人は、この状況に違和感と苛立ちを覚える。

危険な存在である討伐対象が見つからないこと。

町の住民の一部がフリーマス家を疑っていること。

噂レベルの話に、信頼すべき王国の兵が疑っていること。

そして、いま特に何もできることがないこと……

しかし、ハルナ達はただ待つしかなかった。

依頼したからには単独で動くわけにもいかず、王国の討伐隊を信頼するべく手を出してはいけないと判断したのだった。


――コンコン


ドアをノックする音がした。

アーテリアは入室を許可する。


「失礼します。お客様がエレーナ様とハルナ様にご面会したいとのことですが、如何いたしましょう」

「その方のお名前は?」

「ソルベティ・マイトレーヤ様と申しております」

「ソルベティが!?こちらに通して!」

「畏まりました」


しばらくすると、メイドが訪問客を連れてきた。


「……ご無沙汰しております、アーテリア様、エレーナ様」

「お元気そうね、ソルベティ。どうしたの急に……何かあったの?」


エレーナは問いかける。


「火の町にも、風の町のよくない噂が届いてきております。その噂の真偽を確かめるべく、足を運んだ次第なのです。それと……」

「それと?」


ハルナは声をかけ、ふっとソルベティの腰に下がっているものが目に入る。

ソルベティは腰の剣を抜き、それを掲げる。

それはよく磨かれて切れ味もよさそうな剣であることは、感覚で分かった。

ソルベティはその剣を見つめながら言った。


「この剣はかつて父が所持していたものでした。父は火の町で警備隊の隊長を務めていました。私はその頃の記憶はないのですが、父はある魔物の討伐隊に任命され、近くの森へ魔物の住処を追っていたのです」

「……魔物って?」

「……コボルトです」


「――!!」


一同は同時に同じことが頭に浮かんだ。


「その時のことを、たった一人生存された方からお話を聞くことがありました。討伐隊はコボルトの罠にはまり、全滅しかけたところを父は一人で前線に立ち、他の兵を逃がそうと奮闘していたそうです。最終的には次の隊で仕留めることができたそうですが、父の遺品は何も見つけることができなかったのです」

「まさか、その剣が……」

「そうです。この柄の紋章と刻まれた名前は”グレイニン・マイトレーヤ”――それが、私の父の名でした」


ソルベティは剣を鞘に仕舞い、ハルナたちに向いて片膝を立てて感謝の言葉を告げる。


「この大切な剣を見つけてくださり、感謝しております。そしてその恩を返すべく、フリーマス家の危機の力になりたくてやってまいりました」

「お顔をあげてください、ソルベティさん」


アーテリアが声を掛ける。


「そのお気持ち、感謝いたします。ぜひこの子達……エレーナ達に力をお貸しください」

「はい!よろしくお願いいたします!!」


ハルナ達はソルベティの周りに駆け寄り、再会と新しい協力者を喜んだ。


ソルベティは現状を確認したいとのことで、エレーナ、ハルナ、オリーブたちと森の中を巡回することにした。

今回、アルベルトの代わりにメイヤと、風の町の警備隊から一名同行することになった。


「この森も久しぶりに来たって感じね。ほんの一か月くらい前のことなんだけどね」


ソルベティは精霊との契約の時の不思議な体験を思い出す。

わずかな期間で立派な精霊使いと成長していた。

そして、顔も知らない父親の唯一の形見が発見されたことにより、ソルベティは精霊使いとして一段と強くなっていた。


ソルベティは父親の愛情を知らずに育ってきた。

他の家庭をみて、うらやましく思うこともあった。


――なぜ自分には父親がいないのか


幼少期から寂しい思いをした。

ただ、母親から聞かされていたのは立派な父親の話だった。

自分よりも他の兵士たちの安全を最優先し、時には厳しく時には優しく部下たちを指導していた。

周囲から大変慕われていた父親だった。

しかし、話だけでは父親を感じることはできなかった。

実際見た記憶がなかったのだから。


(そんな父親に会ってみたい)


ソルベティはずっと思い続けていた。

今回はその父親の生きた痕跡がわかるものを手に入れた。

常備していたこの剣である。

人々を守り続けたその剣は、ソルベティの父親が実在していたという証だった。

このことは、ソルベティにとって長年の悩みを晴らすのに十分な出来事であった。

その中で、風の町で起こったフリーマス家の悪い噂。


『今度は私が、エレーナ達を助ける番だ』


ソルベティは直ぐに風の町へ旅立ったのだった。



一向が関所を出て広場を通り森の入り口に差し掛かった時、辺りを警戒していたオリーブの視界に見慣れないものが映った。


「――ねぇ、あれは何かしら?」


オリーブはその方向に指を刺す。

森の入り口の道から外れたところに人が倒れているのが見えた。

まず、同行している警備隊の一人が駆け付けた。

周囲に問題がないことを確認し、男性はエレーナ達を呼んだ。


「この人……確か!?」

「あの不思議な薬草を売っていた行商人ですね」


メイヤが答える。

その様子は腐敗が進んでいるが、服装はそんなに腐敗していなかった。

首元の損傷が大きく、どうやら喉を掻き切られたらしい。


「……これは、一瞬にしてやられたようですね」


メイヤは腰にショートダガーがそのままの状態で付いていることに触れた。


「それにしても、こんなに腐敗がひどくなるものかしら……ね?」


やはり、今回の一連の流れのうちの一つではないかとエレーナは考えた。

森の草木の浸食、アンデッドの炎が飛び散った際の腐食。

これらは今回の中で、共通している事項のように思えた。

すると森の中から王国の巡回していた討伐隊が表れ、こちらに気付いた。


「どうされました?何かありましたか?」


一人の兵が近寄ってくる。

アーテリアと話していた隊長だった。


「む!?これは……酷い」


死体を見て、隊長は口を押える。


「私たちが森の中に入ろうとした時、発見したのです。既にこのような状態でした」


「……最初に気付いた方は?」

「私です」


オリーブが一歩前に出る。


「なぜ貴女は、ここに死体があることに気付いたのですか?」

「え?何故って……周囲を確認するのは基本というか……」

「ちょっと待って。その言い方は、オリーブのことを疑っているのかしら?」


エレーナは静かに怒りを抑えながら、隊長に向かって問う。

今までの不満が噴出しそうになるのを、必死で堪えながら。


「えぇ。……はっきりと申し上げれば、そういうことです。それと、あなた方がお持ちの武器も預からせていただけますでしょうか?」


隊長は片手をあげると、ハルナ達を他の隊員が取り囲む。


「精霊使いの方々も、怪しい動きをされない方がよろしいと思いますよ」


嫌々ながらも警備隊の男性はショートソードと盾を、メイヤはロングソードを、エレーナはいつも持ち歩いている杖を渡した。

ソルベティもこの大切な剣を怪しい人に渡すことを躊躇ったが、腰の剣をベルトから外し剣を鞘から抜けないようにロックして渡した。

更に隊長は、死体からショートダガーを取り外した。


「ちょっと、それどうするつもりなの?」

「こちらは、我が隊が預からせていただきます。死体については、王国で検証いたします」

「ここは風の町の管理よ。検証はこちらがするはずです!」

「いやいや、フリーマス家は色々と隠していることもありそうですし、そちらがやると都合の悪いことは誤魔化すかもしれませんしねぇ」


エレーナは何か言い返そうとしたが、メイヤに発言を制止された。

その行動に満足した隊長は、自身が優位的立場にあることを実感したのか口元に笑みが生じた。


隊長はハルナ達の武器を回収し、冷たい視線を向けながら森の奥へと誘導する。

一歩進むごとに、周囲の気配が変わっていく。

森の奥へ向かって数分。

どこに連れて行かれるのか、見当がつかない。


「私たちをどこへ連れて行くつもりなの?」

「もう少しですよ。それまで黙ってついてきてください」

エレーナの背中に剣の先が当てられた。

これ以降発言することが許されないまま、相手の望む場所に到着した。


「……ここは」


最初に森の異変を感じて、草木を焼き払った場所だった。


「……ここまで、上手くことが運ぶとは思ってもみませんでしたよ」

「――?」


ハルナは、この隊長の発言の意味がすぐには理解できなかった。

エレーナ達は、身構えながらその先の言葉を待っていた。


「私自身はあなた方に何の恨みも無いのですが、この仕事をこなすと少しの間遊んで暮らせるだけの報酬がいただけるのでね」

「一つだけ聞いてもいいかしら?」


メイヤが問う。


「これで最後なんですから、ひとつくらいは答えてあげましょう」

「……これは王家からの指示?」


一同は息を飲んでその答えを待つ。


「いえ、それは違いますね。依頼人は言えませんが、王家からではありません。反対に王家に知られればこの私の首は繋がっていませんからね」


メイヤは、チラリとエレーナを見る。


「……そう。それを聞いて安心したわ。あなたはもういいわ、あとは一生出ることのできない冷たい部屋の中でこの愚かな行為を反省なさい」

「――? 何を言っているんですか?これから貴女達が……ぶっ!?」


メイヤは息を潜め、一瞬の隙を狙う。

低く身を沈めると、鋭い動きで隊長の懐へ。


「ぶっ……!」


掌底が顎を捉え、隊長は無防備なまま宙へ弾き飛ばされた。

その衝撃で男性の身体は宙に舞い、無防備な体勢で喰らったため受け身も取れないまま地面に叩きつけられた。

他の兵士もその動きに反応することも出来ず、何が起きたのか理解できず立ち尽くしていた。

エレーナは水で、残りの兵士達の身体を縛る。オリーブは尖った石を宙に浮かべ、兵士達を狙い抵抗する意思を奪う。

ハルナは兵達に奪われた武器を取り返し、警備兵、エレーナ、メイヤ、ソルベティに渡した。

ソルベティは、受け取った大切な剣を抱き締めた。


「……残念だったわね。私、体術の方が得意なのよ」


意識なく横たわっている男性に向かい、メイヤは告げた。


「さて、このおバカさんが何か裏のありそうなことを言ってたわね。帰ってゆっくりとお話しを伺おうかしら」


エレーナはそういうと、一緒にいた警備兵に応援を連れて来るように依頼した。

警備兵はこの四人をロープで縛り、身動きを取れなくして急いで応援を呼びに戻った。

ハルナ達は警戒を強める。


そのとき――


「ハル姉ちゃん!何か来るよ!?」


フウカがハルナに告げた。

その言葉には、今までにない緊張感があった。

ハルナ達は、それぞれの背中を合わせるように四方を警戒する。

前方の地面が紫色に変色していくのが見える。

コボルトが作った火の玉よりも濃度の高い瘴気のようだ。

その瘴気は渦を巻き、異次元と繋がり何か生物が姿を現わす。


「……あ、あれは!?」

「――イ、インプ!!」


エレーナは驚きの声を上げた。




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