6-490 感謝
ハルナの言葉に、エレーナはハッとする。
ハルナは、この世界を創り出した創造者の能力を引き継ぎ、ほとんど永遠に近い時間を過ごすことになることを思い出した。
「ハルナ……」
何とかその不安を慰めようと、エレーナはハルナの名を呼んでみたが、その先の言葉が続かなかった。
どう考えても、特別な力を持つハルナの寿命に、いつまでも自分が付き添えるはずがない。
もし、自分たちの子供にハルナのことをお願いしたとしても、どこまで続けていけるのかがわからない。
「ごめんね……エレーナを困らせるつもりはなかったのよ」
その言葉に、エレーナは自分の眉間に力が入っていたことに気付く。そして、そのまま顔を数回横に振る。
「私こそ……ごめんね。ハルナをこの世界の問題に巻き込んでしまって……それにこんな風な形にさせてしまって」
「ううん、それは違うわ。私だって、右も左もわからないこっちの世界に来て、溶け込めるかどうかもわからなかったのに。そんな私を助けてくれたのは、エレーナなのよ?」
「で、でも。それがきっかけで、あなたを……ハルナをこんな風に……」
そのエレーナの言葉を止めたのは、エレーナの背後にいて肩の上に手を置いたアルベルトだった。
「エレン……もういいじゃないか。互いに遠慮し合っていたら終わらないだろ?」
「で……でも」
「それ以上言い合っても、何の意味もない。お互いが自分を責めているだけで、相手が困る結果しか見えないぞ……エレーナ、ハルナ」
「あ、ステイビルさん……」
アルベルトの背後から、ステイビルがニーナと一緒に部屋に姿を見せる。
ステイビルの後ろには、ステイビルの身体で隠れていたがニーナも一緒だった。
ステイビルやアルベルトが、この状況に加わってきたことで、エレーナの気持ちも少し落ち着きを取り戻したようだった。
そこからは、先程のように自分を責めていた時の表情は見せなかったが、まだ納得いかない様子だった。
「エレーナ……もし、自分の行いが間違っていたというのならば、その問題はいまここでどうにかなるような結論が出せるのか?」
「いいえ……」
「だとすれば、その責任や罪を償うのであれば、時間をかけて行うしかあるまい……違うか?」
ステイビルはそう二人に告げると、ハルナとエレーナは顔を合わせて、お互いに一度だけ頷いた。
その様子を見て、ステイビルはハルナの前に椅子を移動させ腰を掛ける。
「先ほどエレーナにはあのように言ったが、 実は私もハルナには悪いことをしてしまったと思っている。サヤ様と二人で、この世界を救ってくれたこと……感謝する」
ステイビルが座ったままだが頭を下げると、ソフィーネを始めとした他の者たちも、同じようにハルナに向かってそれぞれが頭を下げた。
「え?ちょ……ちょっと!?みんな、頭をあげて!ね?ね?」
その言葉を聞き、頭を上げていく。とにかく、お礼をちゃんと伝えたかったということは達成できたため、これ以上はハルナを困らせてしまうためにすぐにやめた。
「だから、我々……東の王国もグラキアラムに住む者たちも、ハルナのことをこれからも見守っていくことで、その礼を尽くしたいと思うのだが……どうだろうか?」




