6-488 同じ気持ち
「……ハルナ。なんて書いてあったの?」
手紙の内容は、ハルナたちが元いた世界の文字が使われていたため、エレーナにはその内容を見ることができなかった。
ハルナの背中からのぞき見をしていたが、全くその内容は理解できなかった。ただ、ハルナが途中で力なく首を横に振ったり、”そんなこと”といった否定をする言葉が小さく聞こえてきただけで、その内容がハルナにとって良くないものだと感じていただけだった。
ハルナはエレーナの言葉に振り向き、不安で悲しそうな眼を向ける。
エレーナもこの状況のハルナの気持ちを察して、ハルナに近寄り包むように抱きしめた。
胸の中に抱きしめたハルナが、我慢するように震えている。
エレーナは素直に受け入れてくれたハルナの背中にそっと手を置いて優しく撫でた。
ハルナは我慢しきれずに、感情のまま声を出して泣いた。
その声が大きくなるにつれ、エレーナのハルナを抱き締める力が込められていく。そんなハルナの感情に引っ張られたエレーナも、いつしかその目から涙が流れ落ちていた。
抱え込んでいた感情をひとしきり出し切ったハルナは、次第に落ち着きを取り戻し始めていた。
子供をあやすように背中を叩いてくれるエレーナの手が、心地よくて眠りの方向へと導いていく。
本心としてはそのまま従いたい眠りへの導きを意識的に振り解き、身体を起こすために力を込める。
エレーナもハルナが行いたい行動を感じ取り、抵抗することもなく抱え込んでいた身体を解放した。
「ご……ごめんね。ちょっと……何が起きたのかわからなくって」
「いいのよ……きっとサヤ様がいなくなった状況に、混乱しているんだと思うの……それは当然のことよ」
そう告げるエレーナの中にあることが思い浮ぶ……エレーナもハルナと出会う前に”ウェンディア”がいなくなった時のことを思い出した。
エレーナはそれぞれの両親との繋がりでスプレイズ家とは仲が良く、幼いころから親が仕える王宮の中でウェンディアと共に遊んでいた。
だが、それはカメリアの失踪から徐々に疎遠になり、ウェンディアの性格も荒々しく変わっていった。
そのためエレーナもウェンディアに近寄りがたくなり、そのつながりは徐々に薄れていった。
エレーナもいつか時間が経てば再び、昔のようにウェンディアとの仲が戻り、お互いの家の繋がりを強くして王国のために尽くしていくつもりでいた。
だから、王選に二人が選ばれた時には、そのための良いきっかけになると思っていた。その願いも、ウェンディアの失踪によって叶わなくなってしまってしまった。
エレーナは、無言になったハルナからのいまだに目が充血している視線を受け止めながら考えていた。
出会った直後に聞いていた自分の知らないハルナだけがもつ時間と、エレーナ自身が背負っていた時間の中で起きた出来事。
これまでにないハルナとの共通点に、直前までに抱いていたハルナへの近寄りがたい特別な立場という壁が崩れていった。
「私も……いまのハルナと同じような気持ちになったことあるもの」
そう言って、エレーナはハルナに微笑んだ。




