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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第一章  【モイスティア】

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1-11 調査開始



戦闘を終えたハルナ達は、町まで一旦帰ることにした。

特に負傷したわけでもないが、ハルナは疲労感で足取りが重く感じた。

周りを警戒しつつ移動すること、もし次にアンデッドに遭遇した場合は打つ手がないということも疲労の原因の一つであろう。

そういう心配もあったが、ようやく一同は森を抜けて広い道まで出ることができた。

あとは関所まで問題なくたどり着けるだろう。

そうして関所に到着し、アルベルトは今までの事情を説明して拾ったサーベルを門番に手渡した。

すると奥から別の人物が出てきて、エレーナに告げる。



「エレーナ様、先日の調査依頼の件ですが…… どうやら、菌などの影響ではなさそうです」

「で、原因はわかったの?」

「菌は検出されなかったため、これは瘴気の問題ではないかと思われます」


エレーナは先ほどのコボルトとの戦闘によって同じ現象を、この目で見ていた。

コボルトの瘴気を含んだ火の玉が散ると、それに触れた植物は生気をなくしていったのだった。


「わかったわ。また新しい事が判明したら、すぐに連絡してちょうだい」

「は!畏まりました!」


そういうと、エレーナ達は乗ってきた馬車に向かって行った。



フリーマス家の屋敷――

エレーナ達はアーテリアの部屋に向かい、一連の出来事を報告した。


「その二点、直感では関係がありそうだけど、実際には繋がりがまだ見えないわね……」


本来、この森にコボルトの生息は確認されていなかった。

どこからか渡ってきたか、誰かが連れ込んだのか。

あとどれだけの数が生息しているのか。

それに、なぜアンデッドに変わったのか……

考えてみても答えは出ない。

アーテリアは、二人のメイドに指示を出す。


「マイヤ、王国にこのことを知らせ討伐隊の要請を。メイヤは、町で何か変化が起こっていないか調査してちょうだい」

「「ただちに」」


二人のメイドは同時にお辞儀をし、アーテリアの指示に従って行動を開始する。


「さぁ、少し休みましょ。緊張しっぱなしだと身体が持たないわ」


エレーナは、ハルナとオリーブに向かって声をかける。


「急に慌しくなっちゃったわねー」


今は討伐の部隊を、王国に申請しているためラヴィーネの町だけで行動するのは危険だとアーテリアは判断している。

そのため、準備が整うまでは今まで通りでよいということになった。


「……ねぇ、エレーナ。今この状況で、こんなこと言っていいのかわからないんだけど」

「ん?なぁに?」

「町の中を歩いてみたいの」


ハルナはこの町に来て、町の中を馬車でしか通ったことがない。

窓から見る景色も楽しそうなものもあり、一度自分の足で見てみたいとずっと思っていた。

訓練が終わってから、エレーナとの森の巡回も実際には仕事として依頼されており、この前初めて給料が支給されたのだった。


――貰ったら使ってみたい


そういう思いもあったのだろう。


「……そうね。たまにはいいかもね、それも」


エレーナはハルナに対してそう返した。


「え? いいの!?」

「こういう時は悩んでも仕方がないし、外の空気でも吸って落ち着かないとね!」


ハルナは両手を挙げて喜ぶ。

そして、隣にいるオリーブにも声をかける。


「オリーブも行くでしょ?」

「え?私もいいんですか!?」

「もちろんよ!みんなで行きましょう!」

「じゃあ、準備が整ったらエントランスに集合ね!!」


エレーナもその気になってきて、テンションが上がっている。


三人は支度を終えて、エントランス前に停めてある馬車に乗り込んだ。

敷地を出て、町の前までは馬車で移動していく。


「ハルナは一応、これで変装してね。はい 」

エレーナは、ハルナに帽子とメガネを渡す。

メガネのレンズはただのガラスだった。


「ハルナはウェンディアに似てるのは事実だし、誰かに目をつけられても厄介だしね?」


誰かは、スプレイズ家のことだろう。

滅多に町中を歩いていることはないだろうが、関係者がいる可能性もある。

念には念を。


「それじゃ、いくわよ。出発!!」


そう言うと馬車はゆっくりと、町に向けて動き出す。

エレーナも町に出るのは久々のようだった。



「オリーブはどう言う時に、町に出るの?」

「私は本を探しに行ったり、足りない道具を買ったりすることが多いですね」


案外、実用的なものしか買わないとのこと。


「えー!? 美味しいもの食べたり、服とかアクセサリーとか見たりしないの?」


と、驚き混じりのエレーナ。


「はい。買い物に行く時は事前に調べ、必要なものが揃えばすぐに帰りますね」

「まさか、のんびり屋さんのあなたがそんなに余裕のない人だったなんて……」


エレーナは目頭を指でつまんで、首を横に振る。


「わかったわ!今日は私についてきて!町を歩く楽しさを教えてあげるわ!」


ハルナは任せなさいと言わんばかりに、胸をドンと叩いた。


「――!!!」


びっくりして、フウカが胸元から飛び出す。


「あ。ゴメンね、フーちゃん!」


馬車の中は、笑いで溢れた。




ようやく、店が並ぶ商店街の入り口に到着した。

元の世界よりは人通りは多くはないが、決して少なくはない。

ちょうどよい賑やかさで、自然と楽しい気持ちになる。

ハルナは早速、なにか買いたくてうずうずしている。


「ねぇ、あれってなに?」


エレーナによるとクッキーのような生地の中に果物のジャムが入っている、シュークリームのような食べ物だった。


「た……食べていいかなぁ?」

「し……しょうがないわね……」


そういいながらも、既に財布を出して一番先に店に向かうエレーナ。


「――あ、待って」

早々にエレーナとハルナに振り回されて、二人の後を追いかけるオリーブ。

ハルナはシュークリームの他にお店の人に勧めで、バナナシェーキのような飲み物も併せて購入した。

ここのお店は昔の茶屋のようなベンチが軒先にあり、そこで休めるようになっていた。


「「「いただきまーす!」」」


三人で同時に、口にする。


「――!」


「なにこれ!?おいしー!!!」

「あ、私もたべるーーー」


フウカも我慢できず、こっそりとジャムを食べた。


「いつもいい匂いがして、気にはなってたんだよねー、ココ!」

「私も、いつもここの店の前を通っているんですけど、気にもしてませんでした」

「ね!こういうのもいいでしょ?」

「そうですねー、いつも一人で出掛けてたので一緒に出るとこういう楽しいことがあるんですね!」


オリーブも満足のようだ。

そして、一通り食べて甘いものに満足するとエレーナは立ち上がる。


「よし!次は服を見に行くわよ!」


そういうと、また一人で先に歩き始めた。


「ま、待ってー! さ、ハルナさん早く! エレーナさんを見失う前に行きましょう!」


オリーブは嬉しそうにハルナの手を引っ張って、一緒にエレーナを追いかけて人混みの中に入っていく。

まず三人は、服やアクセサリーの日常品を見て回り、その後別な店で武器や防具も見て回った。

その売っているものが今までと全く違うので、異世界に来たことを改めて認識するハルナだった。

そして三人は外出を十分堪能し、そろそろ帰ろうとしたその時――


「さぁさぁ、いらっしゃい! この商品を見ていってよ!いま巷で流行ろうとしている生物を追っ払う薬草だよ!!その生物とはなんとあの”コボルト”だ!コボルトは鼻がいいから、奴らの嫌いな匂いのするこの薬草をぶら下げていれば道中も安全ってなわけだ!しかもこの薬草、最近ではめっきり品薄になってるって話だ!いまあるこの薬草もやっと手に入れたばかりで、これがなくなると次はいつ手に入るかわからないよ!さぁさぁ、この機会を逃す手はないよ!さぁ、買った買った!!」


(――コボルト!?)


三人はそのキーワードに目を見合わせる。


「エレーナ……」

「わかってるわ。あの行商、何か臭うわね」


ハルナの不安にエレーナは応える。


「ちょっと、声掛けてくる。二人はもしものために周囲を警戒してて」

「「はい」」


二人の返事にうなずき、行商の方へ向かおうとしたその時。

ちょっと汚れたローブをまとった冒険者風の女性が行商とエレーナの間に割って入った。


「ねぇ、これ本当に効くの?」


行商は軽く笑いながら、商品を手に取った。


「もちろんですよ! なにせ私もね、これで助かったことが何度もあるんだ!」

「私もいろんな場所を歩いて回ってるのだけれど、こんなの初めて見たわ。で、おいくらなの?」

「西の国のツテを使って仕入れたものさ。だから、ちょっと値が張るんだけど今なら銀貨7枚を5枚でいいぜ」

「えー、ちょっと高いわね」

「もし、この後付き合ってくれるなら……そうだな、銀貨3枚にしてやるよ。どうだい?」


行商はローブの中が女性と分かったらしく、イヤらしい笑顔で別な条件を提案してきた。


「銀貨3枚……悪くないわね」

「……ということは、お買い上げかい?」

「その前に、別なところでもう少しお話しを聞かせてもらってもいいかしら?」


ローブの女性がそういうと、行商の周りを3人の男が取り囲む。


「おい!なんだこれは!? なんの真似だ!?」


行商は、腰に下げていたショートダガーを取り出し両手に持った。


「つい最近なのよ、コボルトがこの周辺に現れ始めたのは。で、今までこの森には存在が確認されていない。

しかもタイミングよくコボルト除けの怪しい商品が出回っているっていう噂を耳にしてね。

そのあたりの話しをぜひ”関係者”の方にお聞きしたいと思っていたところなのよ」



「な!?くそっ、だましやがったな!!」


行商の顔が怒りで歪む。

次の瞬間、行商は殺意をむき出しにして飛び掛かった。


「……別にだましたつもりはないのだけれど?」


女性は背中に隠してあったヌンチャクを取り出し、相手に向かって一振りするときれいな弧を描く。


――バキィッ!!


行商は飛び掛かった勢いがカウンターとなり、顔面正中にその一撃を喰らった。


ドサッ


相手は仰向けに倒れ、気絶している。

すかさず、男達はその男と露店で並べていた商品を回収し引き上げる。


「メイヤ!!」


エレーナはその女性に声をかけて近寄る。


「あら、エレーナ様、ハルナ様。町にいらっしゃったんですね」


フリーマス家のメイドは、何事もなかったように接してきた。


「あ、メイドの方の……」


ハルナは少し遅れて、女性の存在に気付いた。

エレーナは思い出した。

アーテリアが町の調査を命令していたことを。


「で、アレが犯人なの?」

「いえ、今はまだ未確定な状況です。ただ、あの行商はつい最近この町にはいってきたとの情報を得ています。そして、まだあまり広まっていない情報も持っていましたし、それに関連する商品を販売していた。怪しいと思い、お話しを伺おうと思いこちらに出向いたわけです」

「で、あの男性の方達は?」


ハルナは聞いてみた。


「事前に警備隊に話しを通して、万が一逃走されるようなことがあればと思い協力を依頼しました」

「なるほど、あれは警備隊の人なんだ」


いつもの服装と違うのは、行商に警戒されないための変装だったのだろう。

にしても、エレーナの家に仕える人達はなんて強い人ばかりなのか。

ハルナはこんな綺麗な人が強いなんて……と顔をじっと見つめていた。


「……私の顔に何か付いてまして?」

「あ。いえ、やっぱり強いなぁと思って」

「いえ、私なんてまだまだです。姉のマイヤの方が剣の腕前は上ですし」


と、メイヤはニッコリ笑う。

(やっぱり……)

もう一人のメイドも、武闘派だった。


「フリーマス家に仕えるには強くなければ……ですよね?」

「そうよ、家を守るには強くなければいけないの!」


メイヤの問いに応じる、エレーナ。


「それでは、今日はこれで屋敷に戻りましょう」


そう言うとメイヤは、三人を促し馬車を止めている場所に向かった。

ハルナは流れる馬車の窓の外の景色を見ながら、色々な事があったことを振り替えつつ、心地良い振動の中で眠りに落ちていった。





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