6-422 譲渡されたもの
「――きゃあ!?」
押し寄せてきた波は盾の創造者が抱いている怒りそのもので、その台風の中で暴風雨の中に抗う様な勢いと大きさは怒りの度合いを示していた。
驚きの声をあげるも、その暴風雨はハルナに届くことはなかった。
『――おまえたちっ!?』
自らの絶対的な圧力を浴びせたにも関わらず、最終的にはハルナたちには何の被害もなかった。
それどころか、ハルナは驚きの声をあげたが、近くにいたサヤは涼しい顔をしてニヤニヤと盾の創造者を嘲笑っていた。そのサヤの姿が、また盾の創造者の怒りを増大させる。
『なぜ……なぜ、無傷でいられるのだ!?お前たちは私たちの加護をすでに受けてはいない!!それなのに……なぜ!?なぜ私の攻撃が避けていくのだ!?』
「そんなことも、わかんないのか?」
『……?』
盾の創造者は、サヤのことを睨みつつも思考を巡らせる。
サヤの自分の知らない”何か”を知っているような口ぶりは、挑発かブラフなのか……その真意を探るべく、けしかけられた不利な状態を恨みながらも思考を巡らせていた。
だが、頭の切れるサヤを相手に、この一秒にも満たない時間の中、これ以上の回答を遅らせてしまうことはその”何か”を知らないことを示してしまう。
盾の創造者は、本来の姿では必要のない呼吸が浅くなり、額に冷たい汗が滲み始めた。
「……くれたんだよ」
『……え!?……なにを?』
結局、投げかけられた質問の駆け引きはサヤの方から動きをみせてきた。
しかし、その顔は先ほどまでの勝ち誇った表情ではなく、自分と同じ自信家のサヤにはありえない表情を見せていた。
しかし、それがまた盾の創造者の思考をより複雑なものへと展開させていくことになった。
「アイツがさ……自分の命と引き換えに、アタシたちを助けてくれる時に、自分が持っていた”権限”を”私”に譲ってくれたんだよ」
『え?……権……限』
「もしかして、アンタ……まぁ、知らないかもしれないね。わかっているつもりでも、自分のことは自分ではわからないもんだよ」
サヤは盾の創造者の反応を見て、剣の創造者が行えたことが盾の創造者には知らなかったのだと判った。
そのことを知れただけでも、サヤは嬉しく感じた。
『一体何なの?その権限って!?……まさか、あの存在の能力を……そのまま……』
「……お?そこは、理解できたか?外れてはいないよ、それ」
『ば、馬鹿な!?この”能力”は私たちだけに”与えられた”ものよ!!その能力があなたたちに仕えるはず……そんなことできるわけないわ!?』
「でも、こうやってさっきのアンタの攻撃を防いだよね?見てなかったの?あの現象は同じレベルの存在でしか見られなかったよね?あの時はハルナはアンタ、アタシは剣のヤツの力を借りてたからお互いのこの世界の資源から創られた攻撃は全部避けていったよね?直接攻撃はその法則の範疇に無かったみたいだけどさ?」
『――!?』
サヤの言葉に対し、盾の創造者はある侮辱的な出来事を思い出した。
それは、サヤの拳によってこの身体が大きく損傷し、閉じ込めていたハルナを逃がしてしまったことを。
そのためか、いまだに受け入れようとする感情と否定をしようとする感情がせめぎ合っていた。




