6-416 ステイビルたちの覚悟
「――逃げろ!!全員緊急退避!!急げ!!」
「水と土の者たちは壁を創ってから退避!!急いで!!!」
「併せて城内にいる者たちも非難させるのだ!!」
更に膨れ上がっていく黒い禍々しい球体を見て、アルベルトとエレーナはステイビルを庇いながら自分の部下たちへ撤退命令と、逃げるために少しでも時間が稼げるようにと命令を出していく。ステイビルもこの場にいない者たちの退避を命じ、少しでもこの被害を少なくしようと思いつく限りのことをそれぞれが実行していく。
『フフフフ……いいわね。ようやくそれらしくなってきたわ?あなた達にこの世界を創り出した私に敵うはずがないのよ……もう、手間は掛けさせないでちょうだいね、無駄なことが嫌いなんだから』
「ステイビル様!早く、退避を!!」
アルベルトは、逃げる素振りを見せないステイビルに早く逃げるようにと急がせている。
だが、ステイビルは中庭にいた兵たちの半分以上が退避しても、その場から動く気配はなかった。
その視線の先は、狂喜の笑みを浮かべているハルナの――今は異なる存在だが――姿だけを見つめていた。
その視線に含まれている感情は、決して憎んでいるものではない。そこにはこの状況に似合わない、悲しみの感情が込められていた。
「……ステイビル様」
アルベルトはその視線に込められた意味を悟り、ステイビルの背中とその奥にいるハルナの姿を視界に収めた。
「ちょっと、アル!何やってるのよ!?早くステイビル様をお連れ……」
自分の部下である王宮精霊使いたちを避難させ、エレーナはこの場の状況を確認するために戻ってきた。
そこには、一番この国でその身を護らなければならない人物が最後までこの場に残っていた姿が目に入った。
先のエレーナの強い言葉は、一緒にいたアルベルトが手を向けて制したことにより遮られた。
そして、エレーナもステイビルの視線の先に気付き、それ以上の言葉を掛けることはできなかった。
(そうよ……ね。誰よりも……ハルナのことを……)
そう思い、エレーナもアルベルトと同じくステイビルの背中に立ち、この状況を見つめていた。
エレーナの肩に乗っていたモイスも、何も言わずに一度だけ羽を羽ばたかせて見守った。
さらに大きくなっていく禍々しい球体は、今でも定まらない形を生み出しながら成長をしていく。
これはもう、この城内にどのくらいの被害が出るのか想像したくない程の大きさとなっていた。
「……ハルナ」
ステイビルは、小さくその名を口にした。
エレーナもアルベルトも今まで共に旅をしてきた中でも、聞いたことのない弱々しい声だった。
『……そろそろかしらね?それじゃ、アナタもよく頑張ったわね。また創り出してあげるから、それまで待ってて頂戴』
盾の創造者は、目の前に残っていた三人に声をかけ、中庭を覆うほどの球体を放とうとした。
エレーナはアルベルトと手をつなぎ、これから起こる恐怖に負けないようにと震える手に力を込めた。
アルベルトも、その想いを受け取り手が痛まない程度にエレーナの手を強く握り返した。




