6-399 記録
「……え?ヴァスティーユが……まだ生きている!?」
ローディアは、サヤの言葉を聞いて希望が湧いてきた。
ヴァスティーユが自分の身を守ってくれた後、サヤとヴァスティーユが言葉を交わした後にその姿が消えた。その状況からして、短期間で分かり合えた友人を失ってしまったのだとローディアは思っていた。
だが、サヤからは生きているという言葉を聞き、絶望が一瞬にして希望へとローディアの中で変わっていった。
そして、サヤはローディアの喜びように気がよくなり、上機嫌でその疑問に対して答えた。
「あぁ、そうだよ。アタシたちやラファエルたちは、その存在が消えても記憶に残っているんだけど、アンタたちは消された存在は、どうやら記憶から消えてしまうらしいんだよ。ヴァスティーユは今、”違う場所”にいるんだけど、この世界とは繋がっていて……あぁ、ちょっとわかりづらいかもしんないけど、とにかくヴァスティーユはまだ消されていないってことだよ」
その説明を聞き、ローディアたちはホッとした。その記憶が消えてしまう存在はアーテリアやステイビルたちも例外ではないということに。
地位や能力の差によって、記憶の消滅が起きてしまうのであればローデリアは自分の力の不甲斐なさで自分を責めていたに違いなかった。
しかし、アーテリアやステイビルなどのこの国において最高位の地位に近い存在でも記憶の消滅が生じると知り、ローディアはホッとしていた。
「では、私は”ヴァスティーユ”のことを忘れてしまわないために、わたくしはこのことを記録にとどめておきましょう」
サヤはローディアの行いが無意味にも感じていたが、ローディアがヴァスティーユのことを忘れないようにしている努力に対して何も言わなかった。ただ、その行為に感謝の言葉を告げた。
その様子を見たハルナは、幼い頃の記憶にあるサヤの姿と同じものを感じていた。
と同時に、ハルナが知らなかった間に、サヤがあのようになってしまったことに手を貸せなかったことへの罪悪感も生まれた。
「……ハルナ、どうしたの?具合でも悪くなった?」
サヤからの問い掛けに、自分の眉間と手に力が入っていたことが意識に上がってくる。
きっとその様子を見て、サヤは自分のことを心配してくれていたのだと気付いた。。
「え?だ、大丈夫!?なんともないから!」
「……はん。前から変だったけど、さらに変になってんじゃないの?盾のヤツに何かされたか?」
「な、何もされてないよ!?」
サヤはハルナのことを諦め、いまだ床に膝を付いているローディアを起き上がらせた。
この場にいた教員にローディアのことをお願いし、寮へと連れて行ってもらうように指示した。
「それで、これからどうなさるおつもりで?」
「そうだね……少し考えてから行動しようかと……ハルナ」
「ん、なに?」
「今日は、アンタが見たことを聞かせてもらおうか。ずっとアイツの中で知らない振りしてみてきたんだろ?」
「知らない振りって!?……ん、でも……そうね。そういうことよね。うん、わかった。これまで私が見てきたことを話してあげるわ」




