6-382 王の配下
サヤたちがラヴィーネに入った翌日……精霊使いを養成する施設の一室に”始まりの場所”へ入ることが許された者たちが呼び出された。
「……というわけで、王のご命令のよって今回このお二方を契約の儀式に同行します」
その発表に対して不快感を示したのは、今回三名選ばれたうちの一人である”ローディア”というソイランドから選ばれた候補生だった。
「アーテリア様……なぜ、その者が急遽選ばれたのでしょうか?私たちは長い間お金と時間をかけていまこの場所にいるのです。それを……」
サヤはその言葉に少しだけ不機嫌になったが、初めから予測していた通りの反応であり、こちらのわがままのために相手にそういう感情を抱かせた代償としてその感情を打ち消した。
この場にいたヴァスティーユとヴェスティーユも、聞きたくはない言葉だった。だが、事前にサヤから聞かされていたので”主の役に立つため”と何とか持ち堪えた。
「そうね……ローディア、貴女が言いたい気持ちもわかっているわ。先ほども説明した通りに、これは国王からの命令なのよ。納得できないかもしれないけどね」
「アーテリア様。エレーナ様がソイランドに就任されてから、私の住んでいた町は随分と良くなっていると聞いています。そのエレーナ様を育て上げられたアーテリア様にも皆、同じような気持ちを抱いております」
ローディアはそれ以上の言葉は続けなかったが、その続きには”なぜ我々の気持ちを汲んで拒否できなかったのか”という思いが隠されていた。
エレーナはキャスメル王の王選のメンバーであり、アーテリアも前王とも王選を競い合った人物で、王国に意見ができる数少ない存在であったはず。いくら国王の命令とはいえ、精霊使いのための施設の長であるアーテリアが候補生たちの気持ち……特にこの場に選ばれなかった者たちの気持ちが判らないはずはないと。
「ローディアがおっしゃりたいことは理解をしております。ですが、これは”命令”です。それを拒否することは、国民として……王の配下としてありえません。それは、もしあなたが精霊と契約し”精霊使い”となった場合には、あなたも同様の行動を取らなくてはいけないのですよ、ローディア」
「……!」
ローディアは、アーテリアの言葉に今の状況における自分の立場を思い出した。
自分が目指しているものは、国民とは異なる王国の配下となり特別な能力を与えられた重要な人材。そのような人材が、国王の命令に対して歯向かうことは、国に謀反をするに等しい行為だと気付く。
「申し訳ございませんでした……アーテリア様」
その言葉にローディアだけでなく、この場にいる二人の候補生もアーテリアの言葉に納得した様子だった。
合格した候補生たちは、納得できないが受け入れなければならないという空気になったところで、アーテリアはようやく話を前に進めていく。
「では、よろしいですね?それでは、あなた達は二日後の朝に”始まりの場所”へ向かうことになります。それまでに体調を整えておくように……よろしいですね?」
「――はい!」
こうして、ヴァスティーユとヴェスティーユも始まりの場所へと向かうことが周知された。




