6-375 いない人物
「お帰りなさいませ、サヤ様!」
「あぁ、ただいま。ヴェスティーユ……変わったことはなかったかい?」
「えぇ、何もございませんでしたよ?」
もう一つの世界に戻ってきたサヤは、こちらのモイスを呼び出して迎えに来てもらった。
そして、そこから王都へと移動して中庭にやや派手気味に降り立った。
これはこの世界に来ている盾の創造者へ、戻ってきたことを知らせる意味とこの城内に異変が起きていた場合の反応を見るため演出だった。
幾人かの警備兵と、メイドたちがモイスの影に気付き、中庭へと集まってきた。
その様子を見たサヤはすこし安堵し、モイスの背中から地面へと飛び降りた。
そして、迎えに来てくれたメイドに連れられて、以前使用していた部屋へと戻ってきた。
扉を開けて入ると、そこにはヴェスティーユが部屋を整えている姿があり、サヤはその様子を見て安堵する。
ヴェスティーユも、無事にサヤが戻ってきたことに対して嬉しく思いながらも、サヤが背負っていた盾を受け取った。
その時にヴェスティーユはあることを思い出し、それをサヤに報告をしようとした。
「……あぁ、そういえばヴァスティー……えっ!?」
話しを続けようとしたヴェスティーユは、急なサヤからの厳しい視線に驚き……いや、怯えた表情を見せた。なぜサヤがそのような反応を見せたのか、ヴェスティーユは先ほどまでのサヤと会話した直前の場面を思い返す。
(……!?)
思い当たるところでは、サヤに対する言葉遣いが馴れ馴れしいものであったことしか思い浮かばない。
この言葉と態度を用いた対応も、サヤが気に入っていたようにも見受けられた。わずかな間ではあったが、この態度によってサヤからの信頼も得られていたようにも思えた。
だからこそ、サヤ専属のメイドにも選ばれたとも考えていたはずなのに……
何がサヤの気に障ってしまったのか、ヴェスティーユはサヤに聞こうとする。
口を開きかけたその時、勢いのあるサヤの言葉がその行動を止められてしまった。
「ヴァスティーユに何かあったのか!?どうしてここにいないんだ!!」
サヤの言葉は、焦りと怒りの感情が混じっていた。
ヴェスティーユはサヤの怒りの原因が判明すると、落ち着いた態度で質問に答えた。
「はい。ただいまヴァスティーユは、お使いで外出しております。午前中に出かけましたので、もうそろそろ戻ってくるはずですよ?」
サヤは、その言葉を聞き目を丸くした。
自分が心配していたことが、何の問題もない普通の出来事だったことに。
その感情の差が中々埋められず、次第に恥ずかしい感情へと変わっていった。
「あ……そう?ったく、なんだよ。買い物なら買い物って先に言え!!」
ヴェスティーユはそのサヤの言葉の強さと反対に、顔が真っ赤に染まるサヤの顔をみてクスクスと笑ってサヤの言葉を受け止めた。
「はい、申し訳ありませんでした!では、お疲れのようですので、いまお茶をご用意しますね」
サヤはヴェスティーユにお茶の用意を頼むと、ブツブツと独り言を言いながらソファーの上に腰を下ろした。




