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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-82 東の国へ



一行は山を登り始めて、一時間が経過した。

まだ、山のふもとの音が確認できる距離だった。

山に入った段階で、クリエは鈴を使ってコボルトの長を呼んだ。

コボルトの長にお願いをし、人が歩ける道の案内と途中の魔物に対する安全についてお願いした。

そうすることで、安全且つ最短の距離のルートを選択することができた。

所々で合流するコボルトは、自分たちの各縄張りの範囲を進んでいく。

そのコボルトたちの統率のとれた情報伝達と管理には、ボーキンも舌を巻いた。


「コボルトがこのような習性……いや、知能があるとは。これは今後の攻略について参考になりますな」


そう口を滑らせると、コボルトの長は後ろを振り向きボーキンを一睨みする。


(――しまった)


ボーキンは反省する。

昨日、まだ完全な合意には至っていないが、同盟を結ぶことを話し合ったばかりのはず。


「す……すまない、コボルトの長よ。つい、今までの癖で相手の攻略について考えてしまうのだ。申し訳ない、二度とそのような考えを持たないように誓う」

『……是非そのような思考を、我々の同盟のために生かしていってほしいものだな』


そう言って、コボルトの長は再び前を向いて進んでいく。

ボーキンは恥じた。

このように仲間と信じた相手から侮辱的な言葉を投げかけられたにも拘わらず、その発言を許容してくれたことに。


(実は魔物たちよりも、人間の方が恐ろしい生き物なのではないか?)


そんなことまで思ってしまうほどだった。

それはニーナも同様に感じており、今回の件は今後の人生に大きな影響を与えることになった。

途中、大きな動物もいたが特に危害を加えることもなく、人間とコボルトが山を登っていく姿をただ見つめているだけだった。

それは事前にコボルトたちが、山の生き物に伝達をしてくれているおかげだった。

各種族の長や縄張りを守る者たちが、その真偽を確かめるために見ていたのだと、後でコボルトの長に聞いた。


『そろそろ、山を越えるぞ』


先頭を歩くコボルトの長が、そう告げハルナは目線を上げる。いつまでも続くと思われていた坂道が、途切れているのが見えた。

振り向くと、ニーナが気持ち悪そうに歩を進めている。

その後ろでクリエが、ニーナの背中を支えている。


「ニーナさん、大丈夫ですか?」


ニーナは返事をすることもできず、ただ頷いて返事をするだけだった。

その様子を見たコボルトは、少しだけ速度を落とした。

そして、ようやく尾根に到着する。

尾根には西にわたる時に、休憩した場所がある。

一同はそこで、休憩することにした。

クリエは、簡単なテーブルと椅子を作り出した。

それらは”無いよりはまし”という感じの造りだった。

気持ち悪そうにするニーナに、クリエが飲み物を勧める。

テーブルの上に用意した簡単な食べ物が並べられた。


「しかし、思っていたよりいいペースで来ていますね」


カルディは、空の太陽の向きを見てそう告げた。

思い返せば、二日前は西の警備兵の問題があり、そこで時間がとられていた。

今はふもとからの出発が遅れたことや宿屋での問題があったが、それでもそれより早く進むことができた。


「ふー、落ち着きました。もう大丈夫です、先を急ぎましょう……」


まだ顔色は良くないが、時間がもったいないとニーナが腰を上げる。

ハルナはボーキンとエルメトを見るが、ただ頷くだけだった。


「それでは、行きますか」


クリエはテーブルと椅子を元に戻そうとしたが、このままでもいいのでは?という意見があり、今後この道を通る人のために残しておくことになった。

コボルトの長は、全員の様子を見回して問題がないと判断して坂を下り始めた。


「これは酷い……」


ニーナは、目の前の惨状に感じたものを思わず口にする。

何十年、いや何百年かけて育ったのかはわからない大きな木が真っ黒に焦げている。

他の木に目をやると枝が切れているもの、途中から折れているものもある。

所々には、“何か”の生き物であったものが黒い塊となって転がっていた。

もう少し降りると何もない草木が切り落とされており、これ以上火の手が広がらないようにしている工夫の跡が見受けられた。

ここまで、おおよそ山の半分は下ってきた。

それほど、被害の範囲が広がっていったということだった。

山道は下りの方が辛い。

膝には全体重が、連続してかかってくる。

その回避策として、ジグザグに下る進み方があるが、この道は最短距離を主体として作られているため多少考慮されてはいるが、ほぼ真っ直ぐに下りる道になっていた。

しかし、ニーナは目の前で見た景色の衝撃が大き過ぎて、幸いにも身体の疲れなど感じなくなっていた。


『どうだ、人間。これがお前たちの同じ種族が行った行為だ』


コボルトの長は、言葉をなくしているニーナに対して問いかけた。


「正直なところ……これに対するお詫びの方法が思いつきません」

『見縊るな、人間。別に何かを要求している訳ではない。我ら生き物は、自然の中で生きている。もちろん人間もそうであろう?その中で起こることに対しては、納得して生きている。殺しても殺されても……だ』


ニーナにはその言葉には、思い当たる節がある。

小さい頃から、親から教わっていた。


「上に立つものは常に狙われている。いつ死んでもおかしくはない。だが、その逆もある。そのことは忘れてはならんぞ」


その言葉の意味は、頭ではわかっていたつもりだった。

しかしこの状態を知り、その意味の一部がようやくわかった気がした。


『よし、そろそろ着くぞ……ん?』


コボルトの長が、何か異変を感じ取る。


ハルナたちも耳を澄ますと、どこかで金属音がはじけ合う音が聞こえる。

エルメトが目を凝らし、状況を確認して叫ぶ。


「――戦闘だ!」




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