6-354 サヤとハルナと6
(まて、落ち着くのだサヤよ!)
頭の中に剣の創造者からの、焦りを含んだ声色で叫んでいる。
サヤはそんな声をうるさく感じながらも、目の前の存在をどのように消し去ろうかとそのタイミングを見計らっていた。
『それを一体どうするのかしら?……わたしを切りますか?このハルナの身体ごと、やってごらんなさい?……ほら』
そう言って、盾の創造者は無防備な姿勢を取る。
姿勢は直立の状態で、手は太ももの前で重ねて視界は目を閉じて閉ざしていた。
その姿はまるで物語の一場面のような、犠牲となるために信頼している相手に自分の命を差し出しているかのような、そんな雰囲気でサヤからの攻撃を待っている。
「それが望みならやってや――あ」
その一言の後、今までサヤが出していた殺気が消え、構えていた剣を再び鞘のなかに収めた。
『ようやく出て来たわね……』
盾の創造者の目は開かれていなかったが、先ほどまでと空気が異なり剣を収めた音がしたためにそう判断した。
『……いつまでこんなことを続けるつもりだ?この世界に創り上げた存在を消しても、どうなるわけでもあるまい』
『そのことは、あなたには関係の無いことでしょ?私たちはこの世界を司る存在。”失敗”したこの世界を創り直そうとしているのよ、それがどうかして?』
『”失敗”だと?私には、そうは思えないが?……この世界に生きる者たちは、大きな間違いも犯してはいない。どこに失敗したという要素があると言うのだ?』
『……本当にそうかしら?では、アナタはこうしてこの二人のように全く違う世界から生き物がくることが予測できていたのかしら?しかも、我々を消すことができる存在がこの世界にいるということが、この世界の摂理に反しているのではなくて?』
サヤは剣の創造者の意識の裏で、今の盾の創造者の言葉が引っ掛かった。
自分たちを”消すことができる存在”という言葉が、サヤがとっている行動が盾の創造者にとって恐れられているべき行動であるということが判明した。
そうしてサヤは強制的に身体を奪われたもう一人の存在に、今すぐ入れ替わるように告げた。
本来はこのように強制的に入れ替わることができるが、それをしない約束のはずだった。
だが、自分の感情が高ぶり抑えが効かないところまでいき、盾の創造者を消そうとした行為はお互いの約束をサヤから破るところだった。
お互いが交わした約束は、サヤと剣の創造者からそれぞれから一つずつ出し合っていた。
強制的に入れ替わらないという約束は、サヤから申し出た約束だった。
もう一つの約束は、剣の創造者からサヤに対して出されたものだった。
今回は、盾の創造者が行っている行動の理由がはっきりと判るまでは、盾の創造者を消してしまわないというものだった。
サヤがその理由を聞くと、剣の創造者は”相手の動機が判らないうちにこの世界から消してしまうことは後味が悪い”というのが理由だった。サヤはその理由には納得をしていなかったが、それ以上追及しても答えることはないだろうと問いかけることを止めた。
こうして、剣の創造者との約束を自らが破ることになる直前で入れ替わったことについては、サヤはホッとしていた。
このチャンスを何とか逃したくないサヤは、相手が約束破ったことにして何とか攻めようとした。だが、剣と盾の創造者の話しは、サヤの意見を含めない形で進められていった。




