6-345 暗闇の世界1
「で、アイツはいつ来たの?」
ハルナがここにいるという情報を得て、サヤの足取りがやや早くなったとアーリスは感じた。
そのことを感じつつも、アーリスは足取りをサヤに合わせて質問に答えた。
「本日の昼前頃ににいらっしゃいましたが……」
「そう……」
そんなやり取りをしていると、二人は既に宿の近くまで来ていた。
「アーリス、お客さんかい?」
「あ、はい。マギーさん」
その返事を聞くと、奥の部屋からゆったりとした動きで一人の老婆が表に姿を見せる。
そして、アーリスとその前を歩く一人の女性の方に乗っている竜の姿を見た。
「ん?アンタか……サヤっていう」
「そうです、この方がハルナさんのおっしゃってたサヤさんです」
「あんた達、いまこの宿にいるのは二人だけ?」
「あ?そうだけど、なんでそんなこと……!?」
サヤからの質問に返答したマギーは、一瞬にしたこの場から姿を消した。
「ま、マギーさ……んがっ!?」
マギーが目の前から姿を消したことで、アーリスは大きな声をあげてしまう。
だが、アーリスはその口をサヤの手によって塞がれてしまっていた。
それと同時に、サヤからの鋭い視線にアーリスは自分の命を覚悟した。
マギーが消えたことは、サヤが行ったことだとこの状況から判断するが、いまの自分に対する”この”行動が何を意味するかアーリスはわからなかった。
口を封じる目的ならば、マギーと一緒に消してしまえばいいはずだった……それがサヤの能力によって一人ずつしか行えないのかもしれないが。
しかし、そうならずにまだ自分が生かされている状況に、もう少し情報を探って兄とボーキンに残すべきだとアーリスはこの状況を抵抗もせずに見守った。
しかし、次にサヤが口にしたことは、アーリスの予測を超えて理解しがたい内容だった。
「……これからアンタも”消す”。だけど心配しないでいいよ、命に別状はないから。説明する時間が無いから、その先にいるあの婆さんにも大丈夫だって言ってやって欲しい……いい?」
その言葉を聞き、アーリスは口を塞がれたまま何も言わずに頷いてサヤの意見に承諾の意を示した。
「よし……じゃあモイス」
『は!』
その返答と同時に、アーリスは真っ暗闇の世界の中に放り込まれた。
「――!?」
「……その感じは……アーリスかい?」
「……ーさん……マギーさんですか!?」
「あぁ、そうだよ!ここは一体何なんだい!?私たちは、死んでしまったのかい!?」
「”死んだ”とも違うようです……戻れるかどうかもわかりませんが、サヤ様は大丈夫だって言ってました」
「なんだって!?……これはあの娘の仕業っていうことかい!?」
「そ、そのようです。だから安心してほしい……と」
「安心してほしいって言ったってねぇ……」
マギーも自分の理解できない出来事に頭を悩ませつつも、それ以上の出来事が起きているのだということはわかった。
そしてそれは、この後にボーキン夫婦とエルメトもこの場に来ることによって、ほんの僅かだが安心を取り戻すことができた。




