6-343 次の動きへ
ガレムは、サヤが口にした名前を聞いて頭の中に引っ掛かるものがあった。
ガレムは騎士団ではあるが、王都の勤務は少なく要人と会うことは少なかった。
だが、その名前は王国の中で近年よく聞く名であったためガレムの記憶に引っ掛かったが、実際の姿とは一致しなかった。
「その方は……王選の……し、しかもステイビル様のお妃候補の方では!?」
――ガタッ!
そのガレムの言葉に、ステイビルは動揺を見せるも、すぐに取り繕う。
その後近くにいたニーナの姿を一瞬目で追うが、ニーナはその視線に気付かない振りを見せていた。
「うォッホん……ガレムよ、今はそのような噂話はどうでも良いのだ。お前が遭遇したのは、長い黒髪の女性で間違いないな?」
「はい、その通りでございます」
サヤは、ガレムの記憶の中を見たので確認する必要はないと思っていたが、そのことを口に出さないでいたのは自分が成長した証だと満足していた。
「ってことはいま、ハルナはディヴァイド山脈にいたってことか……モイス」
「はっ」
「お、お待ち下さい!?この事案が発生したのは、二日前でございます。ですから、いまから向かわれたとしても、その周囲にいるとは……」
ガレムはサヤにそう告げるも、サヤはその言葉を聞こえているにもかかわらずこの場を離れようとする準備を進めた。
そして、サヤはモイスと一緒に部屋を出ていった。
「あ、アルベルト様……」
「サヤ様にも何かお考えがあってのことなのだろう。それより、お前もご苦労だった。急で悪いが、また戻って警備の立て直しを図ってほしい。それとこの問題が解決されるまで、山道への警備は……いや、そのまま続けてくれ」
アルベルトは話の途中でエレーナからの視線に気付き、自分が命令した内容を変更させる。
そして、その話しに言葉を付け加える。
「……それと、この問題は決して他の者に漏らさないように」
「……!?」
ガレムは、アルベルトの命令に初めて逆らおうとした。
だが、アルベルトの性格は知っており、何か悪いことを企んでいるのではないと思考を切り替える。
そうすることにより、ガレムはアルベルトの告げた言葉の真意を読み取ることができた。
結局この問題は、人類がどうあがいても解決することができない問題だった。
存在が消え、その関連する者の記憶からもそのことが消されてしまう。
ガレム自身がこのことに気付けたのは、部下を大切にするために行っていたルールからそのことに至ったのだ。
だが、他の者たちがそれに気付くことができたのだろうか……
それにそういう危険な存在がこの世にいることが知れ渡れば、この世界に混乱が生じるということはガレムにさえ簡単に予想ができる。
アルベルトもステイビルも、この事を知らせることが国民のためにならないと判断しているのだと感じた。
「はっ!ガレムはこれより本来の任務に戻ります!」
「うむ、よろしく頼む」
ステイビルの言葉が、ガレムの心に重く響いた。
優秀で自慢である我が国の王が、自分たちにできることがなく、サヤというよくわからない人物にそのことを託しかないという状況であるということに。




