6-336 往来
「そんな……」
「もう一つの世界が……あるなんて!?」
サヤの行動の目的を聞いた二人は、何を言っているのかわからないと言った不思議な顔をしていた。
この事実を知る者は、王国の中でもわずかな者たちだけで、ステイビルに近い存在しかこのことを知らない。それは余計なことを広げて世の中を混乱させないために、ステイビルはこの情報に関しては制限をかけていた。
ヴァスティーユとヴェスティーユは、メイドの上位の立場となったことにより主の事情を知っておく必要があるため、先ほどサヤの事情が二人に告げられたのだった。
だが、次第にその状況にも慣れてきたため、二人の興味は違うところに行っていた。
「ってことは、私たち……向こうの世界にもいるってことですか!?」
「向こうの世界の私たちって、どんな感じですか!?」
「……」
サヤは二人の質問に、どのように答えるべきか迷う。正直に答えるべきか……それとも、別な答えを考えるべきか。
そしてサヤは、二人の質問にこう答えた。
「あんたたちねぇ……アタシがこの世界の全員のこと知ってるはずないだろ!?この世界だってもう一つの世界の人物ごとの役割だって違うんだ!でも……まぁ、どこかで会うかもしれないだろうね」
その言葉に二人は目を丸くし、自分たちの感情が先走ってしまっていたことに気付いた。
「そう言われればそうですね?」
「失礼しました!サヤ様!?」
「……っとにアンタたちは。もう」
サヤはそう言いながらも、自分に対してこんなに気軽に話してくれる二人に悪い気はしていなかった。
”前”の二人は、どこか自分に対して怯えていた感情が表に出てきていた。
だから会話を投げかけたとしても、すぐに会話が止まってしまい、こんなサヤが望んでいた会話は得られなかった。
最期にはようやく気持ちが通じ合い、いまでもその記憶をサヤは大切に残してあった。
「……それじゃ、ちょっと後は頼んだよ?何かあれば……そうね、決して無茶するんじゃないよ?ステイビルとかに相談して判断しな」
「はい!」
「畏まりました!」
サヤは二人の心地よい返事を聞き、落ち着いた気持ちにもなる。
だが、その裏で何か起きるのではないかという不安もあった。
(いつもの考えすぎなのかもね……不確定なことはどうすることもできないし)
そうしてサヤは、モイスを連れて屋上へと向かう。
そして二人に見送られながら、サヤは向こうの世界でオスロガルムが消滅した地点へと向かう。
『それではサヤ様……ご無事で』
「あぁ、アンタもあの二人のことを頼んだよ」
『お任せを。あの者に危害が及ぶことなきよう、常についておりますゆえご安心を』
「そうかい、じゃあ頼んだよ」
そうモイスに告げて、サヤは剣の鞘を地面につけ力を注ぎこむ。
するとその剣先の部分から光があふれだし、サヤの身体を包み込む。
「――っと」
軽い疲労感と共に、サヤの視界が元に戻っていく。
そして今まで目の前にいたモイスがいないことを把握し、元の世界に戻ってきたことを確認した。
「……さて、と」
サヤはそうして剣を再び、背中へ位置を戻す。
『……様!サヤ様!?』
目の前に光の塊が現れ、それが大精霊の一人であるとサヤにはわかった。




