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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-79 初めての外泊



「……よし、これで決まりね!」


ハルナは、手を一つ叩いて話がまとまったことを喜んだ。

大まかにいえば、現時点で以下の点を目指していこうという内容だ。


―― 一、お互いを敵と認識しない

―― 二、同盟者が窮地に立たされた場合は協力する

―― 三、山は共有で守っていくものとし占有しない


「それでは、いつ出発にいたしましょうか?」


ボーキンはニーナに確認した。


「え?王女って自由に出歩いていいんですか?」


脱いでいた上着に袖を通しながら、ニーナはハルナの質問に答える。


「この時期は自由に動いていいみたいなの。……どこに行くにも護衛をつけて、大臣に許可を貰わなければ外にも行けなかった頃の数か月前から比べたら天国みたいですね」


まだ、そんな状況に慣れていないのだろうか、ニーナは困った顔でハルナに笑いかける。


「では、出発の日はニーナ様とお話しておきます。ハルナ殿は、どこか宿を取られておりますか?」


ボーキンが、ハルナ達に告げる。

(牢屋に入ってたのにとれるわけないじゃない!?)

と、心の中で反論したがグッと堪えた。


「もしよろしければ、今日はここに泊まるのはいかがですかな?」

「でも、知らない方にそこまでお世話になるのも……」


すると、扉を開けてボーキンの奥さんが入ってくる。


「部屋は開いてございますよ、お客様。息子がいなくなった今では、広い家は二人きりでは寂しくて……ウチは賑やかな方が好きなんです」

「そ、それじゃお世話になっても……いいんですか?」


ハルナは、他の三人の様子を伺いつつ返す。

みんな、目を合わせると頷いていた。


「えぇ、どうぞ!ご遠慮なさらずに!」


奥さんは満面な笑顔で、受け入れてくれた。

今から忙しくなるという雰囲気を出し、とってもうれしそうに袖をまくってやる気を見せる。


「わ……私も、の……残ろうかしら」


ボーキンはその発言に驚きを隠せない。


「ニーナ様……ここは、王女様がお泊りになれるような場所ではございませんぞ!?」

「だ、だって。みんなここに泊まるんでしょ!?そ、そうよ……私が残れば話しも、す……進められるじゃない!?」


ボーキンはハルナたちに、”何とか言ってください!?”という視線を投げかける。

しかし、ハルナとクリエは笑顔のまま首を横に振る。

カルディとソフィーネは奥さんの用意が大変だろうと一緒に手伝うためについて行った。


「……ふー、わかりました。ただし王室の仲間には一応、連絡を入れておきますからね」


この言葉を聞き、ニーナの表情は子供のような明るさを取り戻した。


こう見えても、ニーナはまだ幼かった。

外泊など今までは、許されることなどなかっただろう。

普通の子供ならば、もう少し気軽に生きて楽しい時期を過ごしているはずだ。

王家に生まれたことを、羨む者もいるだろう。

実際には、自由がなく時によっては”自分”も持つことが許されない。

全ては国のために、その身、その一生を捧げなければならない存在だった。

ようやく王選というイベントに乗じて、自分の意思に従って行動することが許された。

だが、今まで自分の意思で決めることが出来なかった環境から、正反対の状況に変わってしまった。

しかも、今回の王選にはニーナにとって分が悪い。

西の国の王選参加者は、直系血族であれば男女問わないとされている。

その子たちの一番下の齢が、十五歳になった時に王選は開始される。

まだ、王選の開始が宣言されていないということは、まだ十五ではなかった。

王子はというと、ニーナよりも五年早く生まれている。

第一子ということもあり、相当甘やかされたようだった。

というのは、現王様は厳しくて怖がられている存在だった。

そのため、王子は乳母に育てられた際に王に叱られまいと、甘やかされて育ってしまった。

食事の準備をしている間、ハルナたちはこの国の王選のことやニーナについて話を聞いていた。

コボルトは、途中で退出した。

人間の話には、あまり興味が無いようだった。

窓から出ていく際に、クリエにまた何かあれば鈴で呼ぶように伝える。

山に帰るのではなく、家の中は居心地が悪いため裏の草むらに隠れているとのことだった。


「――はい、お待たせしました。お食事の用意が出来ましたよ!」


ボーキンの奥さんが、嬉しそうにドアを開けて入ってきた。


「それでは、食事にしましょう」


ボーキンは、食事が用意されているリビングまでこの場にいる全員を誘導する。

リビングに近付くたび、懐かしい香りがハルナの鼻と食欲を刺激する。


「こ……これは!?」


目の前のテーブルの上には、土鍋が二つ置いてある。

その下には、ガスコンロではなく鉄の籠の中に焼いた石が入っており、その上に鍋を乗せていた。

継ぎ足し用の肉や野菜、締めは白い麺……うどんのようなものが置いてある。


「――すき焼き!!」


思わずハルナは口にしてしまった。


「あら、よくご存じね。東の国でもすき焼きはあるのかしら?」


クリエは首を横に振る。

この食べ物は、生まれて初めて目にするものだった。


「こ、これをどこで!?」

「これは、うちのボーキンのお兄さんの奥さん、マギー義姉さんに教えて頂いたのよ。どうやら、マギー義姉さんも宿屋で雇っている女性に教わったって言ってたわね」

「……冬美さん」


ハルナは名前をこぼし、腕に付けたブレスレッドに触れる。


「そうそう、確かそんな名前の方だったわね。私たちの息子の嫁にどうかと思ってたんだけど、振られちゃったみたいね……あ、冷めないうちに頂きましょう!」


ニーナも初めての料理に目を輝かせている。

ハルナは、器の中にあった卵を割って、この世界の人たちが上手く使えない箸で上手に溶きながら、一緒に飛ばされてきた冬美に感謝した。




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