6-326 もうひとり
「あの……サヤ様は平気なのでしょうか?」
「なに?……あぁ、この剣のこと?」
「キャスメルはその剣に生気を抜かれたようになってしまいました。サヤ様がその剣をどうして所持されているのかは存じておりませんが、そのお身体が心配で……」
ステイビルは、その剣の力によってと思われる原因で、自身の兄弟が廃人同然の状態になってしまったことを知っている。
自分を助けてくれたサヤのことを、ステイビルは同じようなことにならないか心配した。
だが、サヤにはそのことを告げた後も何も心配している様子は見られないことに、ステイビルは不思議に感じていた。
「アタシのこと心配してくれてんの?なんで?」
「え?いや、その……」
ステイビルはサヤの質問に、身体が硬直してしまっているようだった。
サヤは、ステイビルが自分に対して良くないことを考えているのではないかと察し、不機嫌な顔に変えてみせた。
「あ!サヤ様、申し訳ありません!?決してあなたに対して悪いことを考えていたというわけではなく、むしろ……あ」
「むしろ?……なんなの?」
サヤははっきりしないステイビルに対し、表情だけでなく怒りを込めた声色で聞き返す。
その高まった緊張感に耐えられなくなるステイビルは、手の中に汗が噴き出だしたことを感じどこ何逃げ場がないかを必死に探っていた。
そしてある事に気付き、一か八かの思いでステイビルはその内容を口にする。
「そ、そういえば……あの、いつもいらっしゃった、もう一人のお方はご一緒ではないのですか?……いまどちらに?」
「え?あぁ、そうか。その話しもしたかったんだよ……まぁ、いつまでもそんなところに突っ立ってないでアンタも座ったら?」
まるで自分の家のような発言だが、着席を許されたと判断したステイビルは、サヤの目の前のテーブルの席に腰を下ろした。
「ハルナがさ、盾の創造者っていうやつに身体を乗っ取られて、そのまま姿を消したんだ……」
そう切り出して、サヤは今まであったことの説明をする。
こことは別の本来の世界の存在のこと、この世界は元の世界を複写して創られた世界であり、
東の王国の国宝であった盾にハルナの身体が乗っ取られてしまい、そのまま姿を消してしまったこと。
そして、その盾がこの世界を崩壊させようとしていることを。
「……ってことなのよ。だからさ、もし何かおかしなことがあったら……あれ?どうした?」
サヤは話し終えた後でステイビルだけでなく、周囲の者たちの顔が強張っていることに気付いた。
この場にいて、その話を耳にしていた者たちの表情は、サヤの話しが信じられない、もしくは信じたくないという表情浮かべていた。
このなんとも言えない空気を感じたながら、サヤは自分の後ろ頭を数回掻いた。
もしかしたら、何か自分がやってしまったのではないかという意識からの照れ隠しの行動だった。
「あ……れ?どうしたの?なんか変なこと言ったっけ?」
「そ……その話の内容は……真実なのですか?」
「あぁ、そうだよ。」
「ま、まさか……」
信じ難い話の内容が、偽りがないと告げられたステイビルの身体は、力が抜けて背もたれに身体を預けた。




