6-323 ハルナがいなくなった日16
「……アンタたちは連れて行かないよ」
その言葉に、ステイビルはサヤが何を言っているのかがわからなかった。
先ほどまで、自分たちを連れて行くこともできると示してくれたはずだった。
その言葉を聞いた時、ようやく自分たちがハルナに対してすこしでも恩を返すことができる機会が回ってきたのだと……この命に代えても。
だがサヤは、つい先ほどまでの発言を取り消して、連れていく気はないという。
その言葉に、自分たちの決意が揶揄われているのではないかという思いに満たされ、その気持ちをサヤにぶつけてしまった。
「ど、どういうことですか!?先ほどは連れて行ってくれると言っていたではないですか!?」
力の入った言葉を発したと同時に、一瞬で自分が犯してまった過ちに気付く。
一国の王である者として、迂闊に感情を表に出しその感情のままに発言をしてしまうことは、王という存在として誤った行動である。
だが、いまはそれを反省したり取り消すことは得策ではないと判断した。
幸いにして、この場にはステイビルにとって自身を良く知っている身近な者たちしかいない。
それ以上に、ここで先ほどの行動を否定してしまえば、その感情が嘘に思えてしまうからだった。
目の前のサヤは、ステイビルの怒りの言葉に普段通りの態度を見せている。
そして腕を組んで、一つため息をついた。
「……ふぅ。やっぱりアンタは連れていけないよ。そんな行動を取るようじゃ、あっちの世界に行ったとしても無駄に終わるだけだし」
「だいたいアンタたちが行っても、何をするの?ハルナたちと戦って勝てるの?それに、もしアンタたちが生き残ったとしても、消された方のもう一つの存在はどうするんだ?」
「そ、それは……」
想像をしていなかったサヤからの反応に対し、ステイビルは何も言えなかった。
それは、サヤの言っていることが、間違いではないと気付いてしまったからだった。
「……」
サヤから質問のような諭されるような言葉から数秒が過ぎても、ステイビルの中にはそれに返す言葉は自分の中で組み立てることができないでいる。
サヤは、その様子を自分の意見が通ったものだと判断する。だが、その返答の内容がどのようなものであれ、ステイビルからの口からどのような言葉が返ってくるのかを待つ。
しかし、サヤのその期待は外れることになる。
「――す、ステイビル様!?」
近くにいたエレーナとアルベルトがその行動に驚きの声をあげる。
ステイビルは片膝を床につき、右手を胸に当てて頭を下げた。
「……サヤ様。どうか……ハルナを助けてください。そのためならば、この私の命……あなた様に捧げます」
その様子を見た周りの者たちも、ステイビルだけにそういうことはさせられないと、サヤに対して同じ姿勢をとった。
あのニーナさえも……
「ふーん……わかったよ、アンタたちの気持ちは。とにかく、トカゲたちとラファエルたちに元素の流れにおかしなところがないか探させな。あっちの世界は私の方が融通が利きそうだから、アタシが行ってくるから」
「「はい」」
サヤの言葉に、ステイビルたちは従う意を示した。




