6-292 サヤの理由
「サヤちゃん……どうして、あの時離れていったの?」
ハルナは、悲しみがにじんだ声でサヤにそう問いかけた。
あの時サヤはハルナに”敵になる”と告げ、突然その姿を隠してしまった。
こうして再び会えたが、自分がなぜ恨まれてるのかわからないまま、サヤは攻撃を仕掛けてくる。
きちんと応じてもらえるか判らなかったが、ハルナはまずそのことをサヤに聞いてみた。
少し距離があるが、サヤにはその言葉が届いていたようで、持っていた槍を一度消して腕を組んでハルナを見上げる。
「アンタがさ、憎かったんだよ。ずっと……ね」
「……」
そんなサヤの言葉が、ハルナは信じられないと言う思いから目の前が真っ白になり身体の力が抜けていく。こんな場所で倒れてしまえば危険なため、ハルナは息を止めてグッと腹部に力を込めて必死に自分の身体を支えてみせた。
それでもハルナは、自分が信じた感覚を諦めなかった。
サヤから伝えられた言葉には、ハルナにとってはある違和感が残っていた。
それは、サヤと共に過ごした時間の中に、仲が悪くなる以前と同じ時間を過ごした時の繋がりをハルナは感じていた。
その対応――例え自分に対して厳しい言葉でも――からは、今の対応と同じく自分に対する恨みや憎しみなどは感じられることはなかったはずだった。
「サヤちゃん……この世界で一緒にいた時、そんな感じはなかったじゃない!?」
「あれは、この世界で生きるためにアンタが必要だから、我慢してたんだよ……ずっとずっと」
――”我慢”
その言葉にハルナの胸にズキンと痛みが走り、再び足元の力が抜けそうになる。
ここで倒れるわけにはいかないため、さらに身体に力を込めて踏ん張ってみせた。
その気持ちに負けないように、ハルナはサヤが抱いていた自分に対する思いを、絶対にここで確認しなければならないと判断した。
そうでなければ、いつまで経っても本当にサヤに聞きたかった事、”あの日”サヤがガソリンを撒いて、自分たちのことに危害を加えようとした理由が判らないとハルナは唇を強く噛みしめて決意した。
ハルナはサヤの存在が確認できてから、ずっと心の中に思っていたことがあった。それは、”なぜあの時あのような行動をしたのか”ということ。そこに、サヤが自分のことを嫌っている原因があるのではと考えていた。
しかし、オスロガルムの討伐以降サヤと行動を共にしていたが、その理由を聞く機会がなかった……というよりも、それを聞くことがハルナは怖かった。
もう、これ以上逃げることはできないと判断したハルナは、ゆっくりと足元の高さを作っていた土台を下げていく。
そして、サヤに対して今まで聞きたかったことを確認する。
「サヤちゃん、私のことが……その……嫌い……なの?」
ハルナからそう問われたサヤは、ハルナからの視線を外すように下にうつむいた。そして、いま自分と同じ高さまで近づこうとしていくハルナにはっきり聞こえるようにその問いの答えを告げる。
「あぁ……嫌いだね」




