6-268 エレーナとの夜3
(おばあちゃん……)
これを持たせてくれた家族のことを思い出しながら、ハルナは右手の指に付けていた指輪に触れる。
「それって確か、ハルナのご家族の方が渡してくれたんだよね?その方って何をされている方なの?お名前は?」
「おばあちゃんの名前?……えっと、確か”椿”だった気がする」
「気がする……って何よ?ご家族の名前でしょ!?」
「うん……合ってると思うんだけど、生まれた時からずっと”おばあちゃん”って呼んでたからね。名前なんて気にしたことないよ」
確かにエレーナも自分の親や親族を名前で呼ぶことはないし、そんな習慣では名前をうっすらとしか覚えていない可能性もあるかもしれないと納得させた。
「まぁ、いいんだけど……それよりも、何でその方が精霊の指輪を持っていたのかっていうことよ。前にも聞いたけど、本当にその時渡されたものと同じものだったの?」
「うん、それは間違いないの。裏に書かれている文字も同じだったし……」
そう言ってハルナは指輪を外して、その内側に書かれている記号を確認する。
以前は指から外れずにいた指輪も、ラファエルたちの特訓が終了してからは、その指輪も外せるようになっていた。
エレーナの指輪は、ハルナと違い今でも外せはしない。
しかしあの一件以来、そのはめた指輪の部分が痛むことはなかった。
「やっぱり考えられることは。そのお婆さまも、この世界と関係のある方か……それとも、こことは違うところの別な世界の方か、ということよね」
ハルナも別の世界からやってきていたし、この世界と同じような世界で別な世界も確認されている。
もしかして、エレーナたちが知らない世界も多く存在しているのかもしれない。
そのような神々の目線での話を、創られた立場の一存在が考えたところで、はっきりとした答えが出せるわけでもない。
ハルナもエレーナも、この話題については考えるのを止めた。
そこから少し、二人の間に無言の時間が流れていく。
「……」
そんな中、足音が近付いてくる音が聞こえる。しかしその音に対して、二人は身構えたり、驚いたりすることはない。
エレーナの次の当番である、アルベルトがこの場所へやってきた。
「エレーナ……交代だ」
本当ならば、当番が終っているハルナのことをこの時間まで拘束していたエレーナに対し注意をするところだが、その心情を察しているため何も言わないでいた。
「ハルナ様も……お休みください」
「ありがとうございます、アルベルトさん。よろしくお願いしますね」
その言葉に対し、アルベルトもハルナに何かを伝えたそうな目をしていた。
だが、そこはエレーナが全て話してくれたのだろうと察し、アルベルトは早くハルナを休ませてあげることを選んだ。
声を掛けられた二人はその場から立ち上がり、たき火を中心にそれぞれ左右に分かれていく。
「じゃあね……ハルナ。おやすみなさい」
「ん……エレーナも。おやすみなさい」
二人はそれぞれのテントの方へ向かって歩き始めた。
「……ハルナ」
「なに?」
エレーナから、名前を呼ばれハルナは振り返る。
その眼に溜まった涙は、拭われることなく流れ落ちていった。
そして、震える声を抑えながらハルナに告げた。
ありがとう――と。




