6-247 ミレイ
――カ……チャ……キィ
エレーナたちはハルナから肩を叩かれ、閉じていた目と塞いでいた耳を解放した。
すると、壁の中に扉が現れて、奥には暗闇が見えていた。
「わぁ、ちゃんと開くと本棚は出ないんですね?」
「ハルナよ……なぜそのことを!?……いや、それよりもまだ他に色々と聞きたいことがあるのだか」
ステイビルは、壁に掛掛けられていたロウソクを数本手にし、その先をハルナに向ける。
ハルナはその意味をすぐに察し、ロウソクの先に精霊の力で火を灯した。
「な!?こ……ここは一体、何をするところなのですか!?」
エレーナは王宮勤めを始めてから、今まで見たことのない城の中の存在に興奮している様子だった。
この場所には、ステイビルとハルナの他、エレーナ、マーホン、ソフィーネがステイビルから呼ばれて入っている。
これから起こる出来事の証人と、万が一のための警備を考慮してのことだった。
この三人はハルナに近い存在のため、これからハルナが語ると思われる”秘密”について、情報の共有の意味も兼ねている。
一番最後に入るステイビルは、壁につけられた燭台の上に手にしていたロウソクを刺し、静かに扉を閉めた。
密封された部屋だが、息苦しくはない。
不思議な力によって、この部屋の空気は確保されていた。
ハルナの視線はこの部屋に入ってから、とある一点に注がれていた。
壁に掛けられた盾を手にしようと、そちらの方向へ歩いていくとステイビルに止められた。
「待て、ハルナ……それに手を付ける前に、お前の身に何があったのか詳しく聞かせてもらえないか?ここならば誰もいないし、外に漏れることもない……だから、お前の身に起きたことを我々に聞かせてはくれないか?」
グラキアラムから戻ってきた際に、ハルナの身に起きていたことは大まかではあるが、ステイビルやエレーナに話していた。
だが、ステイビルたちはハルナの話しの全てを聞いたわけではないことは判っていた。
あの場面では全てを語る必要はなかった、だがいつかは聞かなければという思いは常にあった。
そのタイミングが、ようやく訪れたということだと判断した。
「そうですよね……わかりました。お話しします」
こうしてハルナは、あの世界で起きたことの詳細を話して聞かせた。
エレーナがアルベルトと子を成していたこと、キャスメルが何者かと手を組んでいたことを……
「……」
その話を聞き、エレーナは黙り込んでいた。
自分の子がいた世界があったことに対して、相当なショックを受けていたように見えた。
「ハルナ……」
「な、なに?」
「私たちの子の名前……なんていうの?」
静かに感情が含まれていないエレーナの声に怯えたハルナだったが、ここはただ質問の内容を答えるだけにした。
「た……たしか、”ミレイ”ちゃんだったはずだけど……」
「……ふーん。その名前からして、女の子ね……可愛かった?」
「も、もちろんよ!?」
ハルナの答えに満足をしたエレーナは、腕を組んで黙り込んでしまった。
「なるほどな……別の世界?においてこの部屋の秘密を知っていたというわけだな?」
「はい、そうです。ですが、あの時は盾が壊れてしまったので”本物”ではなかったのではないかと思うのです」
「それを確かめたかった……ということですか?」
マーホンの言葉に、ハルナは間違いないと頷いて見せた。




