6-240 すれ違い
「待て!それでは話が違うではないか!?」
キャスメルは背後から、カステオに対して声をかける。
「国宝の剣はどうなった?あれを亡くしたのはステイビルたちだぞ!!それを盾に交渉……ステイビルとハルナの仲を引き裂くつもりではなかったのか!?」
「キャスメル……正直なところ、”そんな”モノは今となってはどうでもいい。私は、ニーナの体が元に戻るのであれば、あれは必要なモノではない。ただのきっかけにしかならないのだ」
「そ……そんな……」
「それに……国宝と言っても、アレに魔を浄化する力があったとしても、大した使い道にはならん。在っても無くても、西の王国には被害はそんなにないと考えていたからな」
キャスメルは、振り返りもせず淡々と自分の考えを告げたカステオの言葉に、これ以上頼ることはできないと絶望の中、身体の力が抜けていく。
次に期待する、ナルメルとイナに対して協力を依頼する目を向ける。
その視線を感じた二人は、そっと目をそらし下にうつむく。
「な……なぜなのだ!なぜステイビルばかり、上手くいっている!?みんな俺のことが……俺のことが……」
キャスメルは膝から崩れ落ち、上半身も支えられず床に手を付く。
しかし、崩れ落ちる衝撃すらも支えられず、肘から折れて額が床に付く姿勢になる。
「どうして……どうして……俺だけ……恵まれなかった……そうか、俺は……ステイビルが……羨ましかったんだ」
「……顔を上げてくれ、キャスメル」
ステイビルは、キャスメルに近付いた。
ステイビルもキャスメルと同じく膝を床に付いて、キャスメルの肩に手をかけて上半身を起こす。
そして目をそらすキャスメルの顔を見て、やさしく声をかけた。
「”お前”……俺が羨ましかっただと?反対に、俺はお前が羨ましかったよ」
「――?」
ステイビルの言葉でようやく、キャスメルはステイビルの顔を見る。
その顔には悲しみのような、嬉しさのような……そんな感情が入り混じっているようにも見えた。
だが、その真意がキャスメルには理解も推測もできなかった。
そのことを感じ取ったステイビルは、その言葉の意味を告げる。
「……キャスメル、俺はお前が羨ましかった。お前はいつも自由でいて、俺とは違う感性があり周囲の人の協力を得るのが上手だったな?」
「お前がそれを言うと、嫌味にしか聞こえんぞ?俺が情けなくって仕方なく周りが手を出してくれていただけだ。それに、言いたくないが……俺が”役に立たない”だけだろ?」
「それは違うぞ?お前だからこそ……お前にしか与えられない力だと、俺は思っているんだがな?」
「それはお前が、周りの助けを必要としていないからだろ?」
「必要としていないわけじゃない!……すまん、声が大きくなってしまった。そうざるを得なかったのだ……誰も助けてくれないのでな、自分で身に付けるしかなかった」
「だとしたら、それが”できる”ってことだろ!俺にはできなかったことができたんだ」
「考えてみろ……もしできていなかったら……俺の周りには手を貸してくれる者たちが集まってくれないのだぞ?」
二人は、昔の”仲の良かった兄弟”の頃のように、今まで表に出せてこなかった思いを口にしていく。




