6-239 心中
ステイビルの話を聞き終えて、この場に静かな時間が流れている。
誰一人、聞かされた内容について話し出せそうな者はいないなかった。
ただ一人、カステオを除いて……
そのカステオは、睨むわけでも見つめているわけでもなく、ただステイビルの顔を眺めたまま提示された条件の内容を頭の中で検証していた。
キャスメルはと言えば、自分がこの条件に含まれていることに驚いていた。
それにニーナをキャスメルとくっつけて、ハルナを自分のものにするという当初の作戦も、全く違うモノとなってしまっていた。
それはカステオが、自分との約束などニーナさえステイビルの傍にいられればどうでも良かったのか?
それとも、自分たちの思惑を読んだうえで、この条件を思いついたステイビルたちの考えが上回っていたのか。
視線をハルナに移すと、キャスメルの思い込みかもしれないが、ハルナはこの場の全てをステイビルに任せている表情だった。
その深い信頼関係が、キャスメルの気持ちをさらにみじめにさせていった。
(なぜ私は……こんなところにいるんだろうか?)
あの時”恐怖”という感情は、ラファエルの力によって感じることがなくなり冷静な判断ができるようになると思っていた。
――が、それは間違いだった。
感情はそれ以外にも存在しており、こういう時には全く違う不安が自分の中で満たされており、いまもこの場から逃げ出したくなってしまっている。
「……これは、交渉の余地がないと?」
カステオは長い時間考えた上で、再度条件を確認する。
「最初に言った通り、この条件に対する交渉は受け付けないと言ったはずだが?」
ステイビルは、”交渉不可能”という前提条件を告げた後、これはハルナの厚意によるものだと伝えていた。
この交渉をカステオから持ち掛けられた相談をした際に、当事者の一人であるハルナにも今の状況を説明した。ハルナは、ニーナの身体の具合を心配し、この条件の案であればニーナをステイビルの傍に受け入れると承諾をしてくれた。
その時にカステオから聞かれたのが、なぜキャスメルの条件と一緒なのかということ。
それについては、ステイビルは厳しい視線でキャスメルのことを睨んでこう説明した。
キャスメルは他国に迷惑をかけ、自国の大切な資源や労力を無駄にさせてしまう騒動をここまで引き起こした。
王家であり兄弟でもあるキャスメルだが、東の王国に置いておくことはできないと国外追放という厳しい判決を下した。
しかし、ここでもハルナによって、迷惑をかけた西の王国と東の王国のために働いてもらうのはどうかと提案された。
ステイビルも実の兄弟に厳しい罰を下すのは本心ではない……だが簡単に許すこともできない。
ハルナの提案は、ステイビルの悩みの丁度良い所に収まり、王としてその提案を受け入れた。
「そうだな。……正直なところ、ここまで素直にニーナのことを受け入れてもらえるとは思わなかった。私にとって……ニーナの身体が一番心配だ。本当はもう一つ言いたいことはあったが、それはまた別の機会にしよう。ステイビルよ……この条件、受け入れよう」
こうして、グラキアラムの問題は解決しそうに思えた。




