6-231 約束
「いい?ハルナは最初に何も言わなくていいからね」
「う、うん。わかった」
そして、ステイビルの部屋の前に到着すると、その両脇には騎士団の兵が左右に分かれていた。
ハルナは見覚えのある風景だが、知っている”それ”とは状況が違う。
あの時は、この部屋はキャスメルのものであり、ここまで近づいてきたのもサヤとルーシーのおかげでここまでやってこれた。
今回は何の苦労もなく、ここまで到着することができた。
二人のうちの一人が振り返り扉の取っ手に手をかけてひく、そしてもう一人はハルナたちに向かってステイビルからの命令を伝えた。
「王は、”ハルナ様たちがいらっしゃったら通せ”とのことです。中でお待ちです、お入りください」
―――カチャ
扉が開き、エレーナ、ハルナ、マーホンの順で部屋の中に入っていく。
部屋の中にある、大きな執務用の机の前にステイビルは座っていた。
そこでステイビルは、グラキアラムに離れていた間の仕事を少しでも片付けるべく、書類に目を通しサインをする。
そうしなければ国の運営も止まってしまい、場合によっては国が危うくなることだってある。
そんな姿を見て、ハルナは少しこれから起こることに対し申し訳なく思う。
「……すまないが、もう少しでこの書類が終る」
ステイビルは、机の上から少しだけ顔を上げてエレーナの顔見る。
その後ろにいるハルナの姿には、なるべく焦点を合わさずにしていた。
見てしまうと、もうその視点から外せなくなるような気がしていた。
そして、無理やり意識を机の上に戻す前に、談話用のソファーに腰かけてもらうように指示をした。
室内のメイドがお茶を持ってきたころ、ステイビルもようやく一つの書類から解放された。
「待たせてすまなかったな……」
そう言ってステイビルは、平常を装いながら一つのテーブルを囲むソファーの一つに腰を下ろした。
正面にはエレーナとハルナが座っており、久々にその顔を見た気がした。
「ハル……」
――カチャ
思わずその名が口たが、その途中でメイドが置いたお茶のカップの音で正気に戻った。
その後、ステイビルは部屋に待機しているメイドを部屋から出てもらった。
「ステイビル様……まずは、先ほどのお話の前に……お伝えしておかなければならないことがあります」
「むっ!?」
ステイビルの表情が一瞬にして変わり、緊張の色が濃くなる。
そして、ステイビルはその自分に伝えなければならない内容を促した。
エレーナは許可を得て、その先の続きを伝えるように背中をやさしく手を当ててハルナに合図をした。
「……ほら。ハルナ……」
「あの……ステイビルさん?」
「な……なんだ?」
久々にハルナの声を聞いた喜びと、こうして改まって自分に話さなければいけないという内容がどのようなものか……それは決して良いものではないだろうと考え、ステイビルは衝撃に備えるため準備をする。
耳の中に鳴り響く自分の鼓動の音が、少し煩わしく感じるほどに。
「あの……私、ステイビルさんと約束をしたハルナじゃないんです!だからその……婚姻のことも……さっぱりわからなくって……」
そう切り出したハルナは、自分に起きたことをステイビルに説明をした。




