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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

白い終末

作者: あめのにわ

電気はすべて止まっていた。

だから電灯も点かない。


日が翳って暗くなってきたので、彼はカーテンを開けた。

もう、午後も遅い。

この部屋は五階だから、日暮れの時刻をすぎても少しだけ明るいだろうな。そう彼は思った。


彼は窓の外を見た。

ガラスの向こう、窓の外の空はどんより曇っている。

冬の冷たい風が吹き抜けて街路樹を揺らす。


この部屋は公団住宅の一室である。

住宅の向こうには小さな住宅街があった。

そのすぐ向こうは耕作地であり、さらにゆくと山裾になる。


見下ろした風景にみずから動くものはなかった。

通行人や子供の姿はおろか、自動車すらない。

ゴーストタウンのようであった。

しかし、さびれてはいなかった。つい数日前まで、人が暮らしていたなごりがあった。


彼は窓を離れて机に戻った。

ラップトップ・コンピュータが一台ある。

コンピュータはまだ生きていた。バッテリーの残量は八割ほどか。

そのモジュラージャックにはケーブルが接続されていた。

彼はキーボードを叩いた。コマンドラインに反応が返ってくる。


——うん。ネットワークはまだ動いている。でもおおもとのサーバが停まって……このコンピュータ自体をサーバにして接続しないといけないな。


うまくゆくだろうか。自信はそれほどなかった。

しかしやらなければならない。

やれることはそれしかない。

彼はさらにコマンドを打ち込み、試行錯誤をつづけた。

部屋が暗くなってゆき、液晶画面の灯りが彼の顔をほのかに照らした。


そのとき、遠くから冷気の前線がやってきた。

それは白いガスの帯のように見えた。

山をおり、畑を抜けて、少しずつこちらに近づいてくる。


白いガスが通り過ぎたあとは、すべてが凍り付いていた。

木々、家の屋根、灯りの消えた街灯、……みんな白く固まっている。


やがて、部屋の気温が急激に下がり始めた。

彼はいっそう寒さを感じた。眠気がおそう。

自然に目を閉じてしまったが、思わずかぶりを振って自分の目を醒ました。


しかし何度も迫り来る眠気には抗えなかった。

彼はあきらめることにした。


——これが、最後の眠りか。


彼は目を閉じた。


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