蘇州は水の郷で二人は
蘇州は水の郷。二人は、人里離れた、家を借りて住む。そして早々に、大きな医療機関に彼
女をかからせたが、容態は思わしくはなかった。それでも、蘇州の澄んだ空気は、彼女の体に
良いようであった。
二人は、気楽に日々を過ごす。ここでは彼女は、もう娼婦ではなかった。上海帰りの貴婦人
と呼ばれていた。二人は、船を浮かべて水遊びをする。
君が御胸にもたれて聞くは、夢の舟歌、恋の詩。
水の蘇州の、花散る春を、惜しむか柳がすすり泣く・・・・・。
そんな時に、大量の吐血をして倒れる彼女。しかし手当が早かったので、体調は直ぐに戻っ
た。しかし、また体調が崩れたら、死ぬかも知れないと悟った彼女は、死ぬ前に、母親と兄弟
に会いたいと言う。
「あなたには上海は危ないから、誰か付けてくれれば、私一人でも行ける。」と彼女は断ったが、男は車を買いこんで、それで里帰りをしようと言いだす。
十分な療養が良かったのか、随分と体調が良くなった彼女。
二人は車に乗り込んで、上海に向かう。当然誰にも知らせない極秘の行動である。
租界のホテルに一泊する。
男は、久々の上海に、心が踊った。
それで、ホテルのカジノに顔を出して、賭け事を楽しんだ。なるべく派手にならないように、地味に遊んだつもりであったが、あのやくざの組長は、しっかりと見張っていたのだ。男が舞い戻ってくるのを。
それより前。組長は、旧組織の組員の中で怪しそうな奴を徹底的に、締め上げて、男と金塊
の事を調べていた。そしてかっての手下が、男に金塊の事を話した手下が、たまりかねて男に
金塊の事を話したと白状したのである。組長は、男に死の報復をすることを決める。それでな
おさらに、男がかって活動していた辺りを警戒していたのである。
次の日、男は車で、相変わらず貧民街で、密やかに暮らしている、彼女の家族の元へ訪ね
て行った。喜びの一時であった。
女と家族の話は、なかなか尽きない。
泊っていくかという話も出たが、女は、男の身に危険を案じて、今日にも上海を後にしたいと言う。で、長々と別れのあいさつをしている間に、男は外に出て、車のエンジンを掛けて、脇に立って彼女を待っていた。
黒い車が、後ろから迫って来た。その車が、後ろに止まった。男がおずおずと顔を出した。
「あ・・・・兄貴・・・・。か・・・・帰っていたんですね。」
青い顔をしたかっての手下が、声を掛けた。
「超」
男はその様子をいぶかって、身がまえた。
「逃げろ、兄貴・・・・・」
手下が叫ぶ。同時に車から飛び降りた男数人がマシンガンを発射する。
穴だらけになって倒れる男。
車は走り去る。その車から、頭を撃ち抜かれた手下が捨てられた。
表の銃声に驚いて、駆け出してくる女。そこに、血まみれで倒れている男を見出す。抱きついて、泣き出す。
「起きて。起きて。死なないで・・・・。私が・・・私が・・・我儘を言ったばかりに・・・・」
男は、最後の気力を振って、笑って見せた。女はそんな男の唇に唇を重ねた。