英国銀行の金塊
そんな時に、英国銀行が襲われて、金塊が盗み出された。上海が大騒ぎになる。
親分が犯人ではないかと噂が立つ。ついには警察に捕まる。無理やりに犯人であると自白させようとする警察。しかし証拠が無い。散々に痛めつけられて釈放される。
同じころに、男も警察に捕まる。強引な取り調べが行われる。しかし男は日本人である。そんな時、むかし親分に世話になったことが在ると言う、警部がこっそりと、元の副組長がやったのじゃないかと思われる節がある、しかし、元副組長が警察や地区のお偉いさんに心付けを大盤振る舞いしているので、どうにも手が出せないと。彼は、しっかりと勢力地盤を固めていたのだ。その警部は、俺に出来るのは、日本領事館にお前が捕まっているということを、隠れて連絡してやることくらいだと。
おかげで、彼は早々に釈放される。警察に彼を迎えに来たのは、北支で顔見知りであった、男
であった。序に、新しい武官として、****大佐が着任したと教えてくれた。嫌な相手であった。
失意の中、親分は河に死体となって浮かぶ。自殺と言うことになるが、どう見ても、他殺であった。
親分の組と島は、副組長の新しい組のものとなる。でも、前の組の者たちの大半は、新しい
組に反感を持っていた。ただ、それを顕わにできないだけであった。
新しい組長が、他の組に喧嘩を仕掛ける。その先兵として追い立てられたのが、昔の組の者
たちであった。無理な抗争に次々と散っていく、旧組員たち。
そんな時に、かっての手下が、男を訪ねて来て、英国銀行の襲撃から、親分の始末の顛末
まで話してくれた。気の弱い彼は、新しい親分に脅されて、総ての事に手を貸したいたのだ。しかも、女と阿片で操られて・・・・。でも、たまらなくなって、男に話しに来たのであった。
そして、英国銀行から盗んだ金塊を近く、時期が来たら、何処ぞの国に売り渡すらしいということをも教えてくれた。
でも、男は、もう俺は組を抜けた男だからと言って、取り合わなかった。
そんな時に、女が病にかかっている事を知る。しかも不治の病である。同時に、彼に事の裏
事情を教えてくれた手下が、惨めな惨殺体で見つかる。
男は決心する。金塊を盗んでやろうと。
日本領事館に出かける。彼をスパイにした・・・日本軍の武器運搬列車を騙して奪い、何処ぞの軍閥に売り渡した時に、彼を拘束して、取引でスパイとして南京に派遣した・・・・****大佐に面会を求める。大佐は素直に彼と面会した。
大佐は開口一番、
「南京で、銃殺されたと思っていたぜ。」
と言って、大笑いした。
「噂は、聞いていたのだろ。」
「で、何をしに来たんだい。」
英国銀行の金塊を盗んだ組織を教えて、どこかの国に・・・・・話からして国民党の一派らし
い・・・・売り渡すらしいことも話す。
「それをどうしようというのだ。」
大佐が聞く。
「俺は、何処ぞで隠居生活を出来るくらいの資金があればいい。後はそちらで勝手にすれば
いい。」
「欲のない。」
不審そうな瞳を向ける。
「まぁ・・・・・引けど期かと思って。」
で、かっての手下から聞いていた話をもとにして、大佐の下にある特務機関の人間と組の動
きを見張っていると、金塊を船に積み込んで運ぶようであった。その船を襲撃する。売り渡し場所を襲撃する。
さすがは特務機関である。まったくの秘密裏に、金塊を抜き取ると、船上にいた人間を皆殺
しにして、船を爆破した。
金塊は秘密裏に陸路、北支へと運ばれた。
男は****大佐に連れられて、人気のないところに連れて行かれた。人相の悪い、やくざ者が一人ついて来ていた。しかも、着いた先にも、柄の大きな黒ずくめの者が待っていた。男は、やっぱり裏切りかと覚悟を決める。ポケットの中の手榴弾を握る。
「まぁ、早とちりするな。」
振り返った大佐が言った。顎で黒づくめの者に合図をする。そいつは、足元にあった大きなトラックを持ち上げて、男の方に差し出した。
「約束通り。現金だ。俺が裏切ると、予想していたかい。フフフフッ。僕はね、君が好きなんだよ。・・・・もっとも、今後、日本は上海を欲しいと思っている。判るね。裏社会を知っている、人間が欲しいんだよ。」
「必要な時に、上海に居るとは限らないぜ。」
「何処に、いたって見付けだすさ。」
男は、租界に戻った。
しかしすぐに、新しく組長になった奴が、男がやったのだと感ずいたようである。奴の手下
が、回りをうろつき出した。もっとも確たる証拠もないので、手出しはできない。男の周りを嗅ぎまわっているのだけである。
それに女の体調は、悪くなっていく。
やばい上海を抜け出すのと、女の転地療養のために、蘇州に行くことにする。
そこで、** **大佐から受け取った現金の半分を、信頼できる弁護士に託し、スイス銀行に預けさせて、毎月決まった額(彼女の母親が十分に生活でき、子供たちもまっとうな生活ができ、教育も受けれる額である)が、彼女の母親に渡るようにした。その弁護士というのは、裏社会では名の知れた大物である。が、得てして、そうした人物の方が、表社会で地位のある人物よりも、誠実で、例え依頼人に何があっても、末永く約束を守ってくれるものである。彼もそんな人物の一人であった。また故に、物騒な裏社会では重宝されていたの。
手続きが済み、彼女の母親の本に行き、その質を伝え、当座の現金を渡した。そして、彼女の治療のために、北京に行くと伝えて、(母親には、そう思わせておくことにした。新しく組長になった男が、彼女の母親に、目をつけても、そこから手が付かないためである。)そのまま、別れて、二人は列車に乗り込んだ。