娼婦Kの男になって
男は居心地が良いので、何となく居ついてしまった。女も特に迷惑でないらしく、そのままにしている。しかし、さすがに男は、何時までも食事の厄介にはなっていられない。体も動くようになったし、女の客で愚図る奴を何人か脅して、女に代金を取らせたお礼に幾らか現金を貰った。
その金を持って、租界の賭博場を廻った。もともと感が良いので、瞬く間に小銭が出来た。そこで、納戸にちょっとした寝具と椅子を運び込んだ。
「あら、何時の間にか、金持ちになったのね。」
女が、納戸を覗き込んで、楽しそうに笑った。
「今夜は、一晩お前を買おうか。」
男が、椅子に座って答えた。
「あら、やっとで、男にもどったの。」
女は、おかしそうに笑いながら返した。
「出かけるんだよ。貴婦人のように着替えな。」
「・・・・・わたしの部屋じゃ、嫌っていうの」
男は肩をすぼめて見せた。
「ホテル****で、ディナーは如何?」
「えっ!」
女はびっくりした顔をして、もじもじしだした。
「どうした」
「わたし・・・・・」
「そうか・・・・・」
男は大笑いをして、立ち上がると、女の手を引いて、強引に外に飛び出した。租界の繁華街
に行って、女の衣裳を整えさせた。
それからカジノに顔を出す。しばらく賭けごとをしていた。女は、その賑やかで派手な世界に茫然として見入っている。その内に、店を仕切っている男が近づいてきた。
「こちらへ、よろしいですか。」
慇懃に耳元でささやく。
店の隅に行くと、
「今宵は楽しんでいただけましたでしょうか。」
と、にこやかに笑みを浮かべながら尋ねてきた。男は、ただ笑い返しただけであった。
「・・・・今日のところは、これでお帰りいただけますか。」
店を仕切っている男が封筒を出した。
「僕は・・・・」
男は迷惑そうに、押し返そうとした。
「存じております。噂は聞いておりますので。こちらも手荒な事をしたくありません。」
男は、仕方なく封筒を懐に入れて、店を出る。
「あなた。凄いのね。」
女は目を丸くして驚く。
「やばい話さ。一流どころは、あれで済むが、裏どころじゃ、命懸けの時もあるさ。」
「やっぱり、とっても危ない人だったのね。」
女は感激している。
それから、二人はホテルのレストランで、夕食をした。女は嬉しいような、戸惑うような、初めて食べる料理にまごついていた。それでも、男が話す料理の説明や、周りの客への辛辣な批評などに、コロコロと笑いながら楽しんでいた。
その後も何回か、二人は租界に出かけてデートをした。
そんな間柄となって、何時しか二人はどちらからともなく、寄り添って生き、結ばれる。