隣の女のもめごと
朝方、隣の揉める声に起こされた。
「だから、泊りは****でしょうが。」
「うるせい。潜りの女の癖に。あぁ、地回りが呼べるのかよ。」
「ちくしょう。なめるんじゃないよ。女抱いておいて、逃げるなんて男じゃないだろ。」
バッチン。客は女の頬を殴ったらしい。
「ひぃ・・・。何するのさ。」
「五月蠅いんだよ。」
客はさらに暴力をふるったようである。
「良いか。俺は***地区の警察署長にも顔が利くし、***の鵬とも親しんだ。文句があ
るなら言ってみろ。直ぐに川の上に浮かぶようだぞ。」
そう言い残して、客は戸を出た。男も、納戸の廊下側の扉を開けて身を出した。客は不意に
続きの戸が開いたのでびっくりしたようだが、やせ細って病身らしい男の顔を見て、安心して、そのまま階段を降りて娼婦館を出て行った。男もビッコの足を引きずりながら、客の後を追った。暫くして、男が付いてきている事に気がついた客が振り返る。
「何だよ。お前は。俺に何か言いたいのか」
男は、肩をすぼめて見せただけだった。
「ふん」
客は鼻を鳴らして、歩きだす。男も後に続いて歩きだす。暫くして客が再び振り返る。
「お前は、あの女のヒモか。」
「・・・・・・」
男は黙って客の顔を見つめる。
「俺は、***の鵬とも知り合いなんだ。あんな女は何時だって消してやれるんだ。判った
か。」
客はふんぞり返って、喚いた。その瞬間、客の被っていたパナマ帽が宙に舞った。朝の人気
のない路地に銃声が鳴り響いた。
「ひぃぃっ・・・・・」
客は腰を抜かした。男は拳銃を片手に、近づいてくる。
客は、真っ青になって
「い・・・・命だけは・・・・」
と、言うと、財布を投げ出して逃げて行った。
男は財布を拾うと、館に帰って来た。女の部屋の戸をたたく。開いた扉。覗いた女は、不思
議そう。男は戸を押して部屋に入ると、ベッドに財布を投げ出して、納戸の方へと消える。 女が追いかけてくる。
「こ・・・この財布如何したの。」
「さっきの客が、俺に預けてくれたのさ。お前の代金だって。」
女が、大笑いする。