組同士の抗争
早く組みに戻らなくては。頭を取られた対立組織とは、抗争になるだろう。
いや、頭を取られた組は、瞬く間に潰されるはずだ。男にとっては、それはどちらでもよかった。恩義のある組に義理立てをして、無鉄砲をしたまでだ。元々の性格が無鉄砲なのだ。それで日本にいられなくなって、北支を放浪して、ヤクザな生活を送っていた。
地元のチンピラと揉めたこともある。日本軍を相手に詐欺まがいのことをやったこともある。
それが縁というのも変な行きがかりだが、日本軍のスパイとして南京に居たこともある。
そして国民党軍に捕まって処刑されそうになった。その時の愛人の兄の義兄弟が上海を分割する何組かの組織の一つの親分だった。たまたま南京に国民党軍の知り合いを訪ねていた。彼の口利きで命を助けられた。それからは、その親分のボデーガードを務めていた。愛人も上海まで彼を追ってきたが、もともとアヘン中毒で、淫蕩と享楽の街上海に呑み込まれて、さらにアヘンが進み、ついには廃人になってしまった。
ところが最近、阿漕な新興勢力が台頭してきて、特に彼の居る組が被害を受けていた。頻繁
に小競り合いが起きて、死人も出ていた。そんな時に、親分から新興勢力の親玉を取る話を
持ちかけられた。奥さんに内緒で女を囲っている。その女と会う時は、お忍びでボデーガードも二人ほどしかいない。たっぷり女を抱いて、気の緩んで出てくるところをやってしまえば、上手くいくし、お前も逃げやすいという話であった。
そしてその顛末が、これである。