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上海月下

 月明かり煌々と差し込む裏町に、靴音が鳴り渡る。逃げる靴音に追う靴音。冷酷な月の光に

黒々と伸びる影が、細い路地を飛ぶがごとくに踊って行く。

 「逃がすな。絶対逃がすな。仕留めろ。」

 男の怒鳴り声が、闇の中に反射する。重なるように拳銃の破裂音。一発二発と轟き渡る。


 撃たれた男は倒れたが、身を引きづって溝の隙間に潜り込む。そのまま意識を失った。外で

は、警官の笛の音があちらこちらから聞こえてくる。

 「兄貴。捕まったらやばい。逃げよう。」

 男を追っかけてきた奴等。子分が兄貴を車に押し込んで逃げて行く。


 女がひとり・・・・・まだ20前の女の子が一人・・・・建物の蔭からひょっこりと顔を出す。派手な化粧に、スリットが腰の上まで入ったチャイナ服。どう見ても街娼である。そして男のそばに近寄って来た。

 「お兄さん。お兄さん。そんな所で寝てると、風邪をひくよ。ククククッ。」

 自分の冗談に自分で笑っている。


 「本当に、弾に当たったのかい。こんな所で、転がっていたら、死んじまうよ。」


 そう言い直して、手を出す。その手にベットリと血糊が付いてくる。


 「まぁ。血が出てる。大変。」

 女は必死になって、男を引き摺り上げると、暗闇の中に連れて行った。


 どのくらい意識を失っていたのだろうか。うるさい雀の鳴き声に目が覚めた。ぼろいカーテン越しに朝日が差し込んでいる。はっと我に返って、起き上がろうとしたが、全身が痛み、力も入らなかった。しかしここは何処だ。

 阿漕に勢力を伸ばしてきていた、敵対組織の親玉の頭に弾をぶち込んで息の根を止めた。

女の宿でよろしくやって帰ろうと玄関ホールに現われた所を襲ったのである。ボデーガードたちは外の車の所にいた。まんまと逃げおおせるかと思ったが、何故かホールの奥から手下が現

れて、逃げ場を失った。機転を利かせて、二階に逃れて屋根伝いに逃げた。

 何処をどう逃げたのか、覚えていない。どうも表向きは地元ヤクザの手出しできない、租界に足を踏み入れたらしい。助かったと思ったが、車が飛んできて銃を撃ち込んできた。再び走った。路地裏を車から降りた追っても走る。

 弾が一発二発体にめり込んだ。もう駄目かと思った。それでも体を引きずって暗がりへと移

動した。体が臭いドブの中にずり落ちて行くのを覚えた。後は覚えていない。微かに、けたたましくなる笛の音と、化粧の臭い、柔らかい腕に引きずられる感覚を覚えているだけである。

 狭い倉庫のようである。埃っぽい床にうすべりが曳いてあり、そこに寝かされていた。古びた行李や椅子が雑然と積まれている。

 隣の部屋から女の声が聞こえてきた。

 「泊まりなんだから。3千と5百。ちゃんと払いなよ。」

 男の声が何かブツブツ言っている。

 「しけ野郎。立ちんぼだと思って、馬鹿にすんじゃないよ・・・・・」

 続けて、女がひどく猥褻な言葉に罵る。

 「ケッ。オーケイ。オーケイ。分かった。とんでもないプッシー附きの子兎を拾ったものだ。」

 男は英語でそう喚いて、金を払って出て行ったようである。

 「フン。萎びた茄が・・・・。」


 女はその背中に罵声を浴びせている。そして女はベッドに倒れ込んだらしく、大きな音がして床がギシギシと揺れた。静かな時間が訪れた。鳥達も朝のおしゃべりを済ましたらしい。

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