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5・港って

「起きて、港に着いたよ」


 どうやら寝ていたらしい。起きると目の前に陸地が広がっている。そして金剛が見当たらない。


「金剛?」


「何?」


 真後ろから優しい吐息とまわされる腕。ってか、俺が金剛の膝に座ってる。


「可愛い寝顔だったよ。座り心地はどう?」


 どうやら金剛が椅子を出して、その椅子で子供みたいに抱かれて寝ていたらしい。そりゃ、こんな椅子なら・・・


「最高」


「君は素直だね。もっと恥ずかしがった方が可愛いのに」


 ちょっと本人には言えないが、物凄くオカンな感じで落ち着くんだよ。もっと甘えていたい。


「恥ずかしがるより満喫していたいかな」


「これからずっと満喫出来るんだから」


 金剛がそう言って背中に抱きついてきた。何だろ、昨日会ったばかりなのに昔から知ってる感じがする。不思議だ。


「さあ、ダーリン分は補給できたから仕事しようか」


 もう、本当にオカンだ。流れるような動作で立たされた俺の背中を叩いて自分も立ち上がる。


 レーダー画面に映る形を見ると、ここは大きな湾らしい。進行方向に街らしきモノが見えている。


 肉眼で建物が確認できる距離まで来たが、あまり栄えているようには見えない。双眼鏡で湾を見渡して見たが、他に街と呼べる大規模な集落も見当たらない。


「目の前が街かな?」


「一応、あれがアバチャウンっていう街だと思う」


 金剛も少し自信なさげに答えてくれた。その程度に寂れているんだよ。これが大陸間航路の玄関口だとは思えない。


「とりあえず、上陸してくる組合探さないと・・・」


 寂れているとはいえ、港町には違いない。ここは天然の良港なのは間違いない。組合は存在しているはずだ。

 金剛と共にボートに乗り込む。おっと、金剛にボートと言ったら内火艇だと怒られた。


 俺たちは内火艇で桟橋に向かった。


 確かに寂れている。外洋に出るような帆船は数隻しかおらず、殆どは湾内で漁労に使う程度の小舟ばかり。住民も港町の活気は感じられない。良くて漁村といった感じだろうか。


 俺たちは上陸して組合について村人に訪ねると珍しそうに聞き返された。


「組合?お前さんみたいな奴が漁師でもやるのかい?」


「いえ、魔船退治です」


 村人は変な奴を見る目になる。


「アンちゃん、悪いことは言わん、その別嬪さんを独りにしたくなかったら止めときな」


 真顔でそう言って、組合の場所を教えてくれた。


「魔船って、そうとう厄介な存在なのかな?」


 金剛に聞いてみるが知らないとジェスチャーで応えられた。それすら様になるから凄いよ・・・


 通りを歩いていると視線を感じる。っても、俺はオマケだがな。みんな金剛を見てから俺を見て首を横に振る。悪かったな、チビで。金剛は全く周りを気にしていない。やっぱり生まれ持ったモノが違うんだね。金剛って、精霊界のお姫様かなにかなのだろうか?


「残念。私はお姫様とか王女様なんかじゃ無いよ。君のお嫁さん。もっと胸張りなよ」


 ケロッとそんなこと言うんだもんな。

 そうやって恥ずかしがってる間に教えられた建物のまえである。きっと昔は綺麗な建物だったんだろうね。今や掃除されているのが救いってくらいの寂れ具合だ。


「すいませ~ん」


 中を覗いても人気が無いので入口で尋ねてみる。


「はいよ。何の用だい。漁場は湾外しかないよ」


 ガラッとカウンターのシャッターが上がっておばあさんが顔を出す。ギルドの受付といったら若い女の子が相場じゃない?


「そんな顔しなさんな、今から漁をしよってのが難しいんだから」


 ここは漁業組合なのか?


「俺たちは漁がしたい訳じゃなくて魔物狩りの登録に来たんですが」


「冗談はよしな。魔物で稼ぎたかったら内陸のポロシリに行くんだね。海で稼ごうなんてバカな事は言うんじゃないよ」


 全く取り合う気が無いらしい。


「これ、昨日沈めた魔船の分」


 俺は百数十個の宝石が入った袋をカウンターに置いた。

 訝しそうに見てい婆さんは中を確認している。


「ちょっと待ってな」


 それだけいうと奥へと消えた。


 程なくして丸々太ったオッサンが現れた。


「魔船を沈めたっていうのはお前か。おおかたポロシリで狩った魔物を高く売り付けるハラだろうが・・・」


 宝石を広げていたオッサンが止まった。


「おい、この三つとこれ・・・」


 オッサンが口を開けたままこちらを見る。


「お前、どうやってクラーケンを狩った?しかも3体も。それにこれ、噂に聞く魔船の宝石じゃないか・・・」


 クラーケンの宝石はダイヤみたいな綺麗なモノだった。魔船の方は黒い。が、たんに黒い訳ではなく、黒いくせに光を透過して光輝いている。表面の反射ではないので、机に映る影もクラーケンのそれと変わらない。


「それで、登録は?」


 俺が改めて訪ねるとオッサンは慌てて書類を出してきた。


「これだ。これに代表者の氏名と船団名を書いてくれ」


 今更だが、ここでは日本語が通じている。書類もだ。


「代表者は俺?」


 金剛が頷く。船団名?う~ん。

 適当に書いた。


「古河アキオか、で、船団名は連合艦隊?分かった。これで受理しよう。この宝石だが、全額をすぐに用意は出来ない。全部で2千イコルになるが、今渡せるのは100イコルだ。後は組合通帳で良いか?」


 組合通帳は預金通帳みたいなモノらしい。因みに、1イコルあれば高級店で食事が出来る。普通の一食ならば、10イウタあればお釣りが来る。100イウタで1イコル。1イコルは1万円程度の価値があるようだった。


「いきなり大金持ちかよ。なあ、金剛、梨と椎には幾ら渡したら良いんだ?」


「精霊には人間のお金なんか使い道無いんだけとな。それよりは余分に宝石あげた方が喜ぶかな」


「じゃあ、帰ったら20個づつくらいあげようか」


「うん、それで良いと思うよ。あと、クラーケンの宝石は狩ったらひとつは狩った艦に渡すってことでどうかな?」


「クラーケンって、普通の魔物と宝石が違うの?」


「普通の宝石が1ならクラーケンは10くらいかな」


「じゃあ、そうしよう。その分、たくさん狩らないと」


 そんな話をしていると金剛がわらった。


「本当に欲がないね。それとも、二人の体が目当て?」


 ニヤニヤ聞いてくる。


「俺さ、金剛の扱いだけで手一杯なのに、ハーレム運営は無理だよ」


 冗談ぽく返した。実は金剛すらちゃんと相手が出来ている気がしない。

 そんなことをやっていたらようやく何やら袋を持ってオッサンが現れた。


「おじさん。この街は大陸間航路の玄関口じゃないの?」


 この街が大陸間航路の玄関口で間違いないらしい。しかし、航路自体が魔船の大量発生やクラーケンの集団襲撃で衰退しているらしい。


「大陸間航路といっても今じゃ冒険者並みの所業だ。1隻でも向こうに着けば儲けモノ。往復なんか成功させたら英雄だな」


 俺たちなら往復できるだろう。ただ、軍艦だから貨物スペースが小さいし積み卸しは厄介だ。魔船討伐の方が収入の安定になりそうな気がする。

 辺りを見回してみたら依頼が貼り出されているが、大抵は漁業に関するもの。残りは魔物討伐依頼だ。魔船の討伐依頼や商船護衛の依頼はないという。

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