4・港へ
文字通り消し飛んだ魔船が浮いていた辺りに大量の宝石が浮揚している。数えたくないな、あの量は。
「こちら金剛、梨は私と魔船の宝石回収と周囲の掃討、椎は周囲の警戒よろしく」
呑気な俺を余所に金剛が指揮をしている。こういう姿は見ていて本当に綺麗だ。
「どう?惚れ直した?」
見とれていたことに気付いた金剛がニコニコそう言ってくる。
「綺麗だよ。金剛」
フフっと微笑んで凛とした顔に戻る。ここは戦場だ。
俺は魔船の沈没地点辺りを双眼鏡で覗くと何かが浮いているのが見えた。
「何か浮いてるけど?」
「魔物だよ」
先行する梨からその物体に火線が伸びた。程なくして宝石が浮かんでくる。少し遅れて金剛も海域に到達した。
宝石の回収は網やタモで拾うような事はなく、ファンタジーな光景だった。
金剛が手を伸ばすと周囲の宝石が集まってきて甲板に落ちる。時折機銃掃射の音がしている。
「すごい数だな。いくつあるんだ?」
「今回収出来ているのは194個。梨や椎も回収してるから全体だと3百近いのかな」
しれっと金剛がそう言う。
「多すぎない?」
「全然、魔船ってのは、ダーリンの知るガレオン船クラスの帆船だよ。3百人程度は普通に乗り組んでる。魔船もそのくらい魔物が乗り組んでいて、通りかかった商船を襲うらしいよ」
確かに、ガレオン船だと少なくともそのくらいは乗り組むだろう、初期は5百トン程度だが、後に3千トンくらいにまで大型化して、千人くらいが乗り組んでいたはずだ。
「そこにクラーケンまで居るとかとんだ群狼戦法だな」
それを聞いた金剛は緩めかけた顔を引き締めて周囲を睨む。
「ダーリン、ありがとう。こちら金剛、梨、前方8千に魔物の反応あり、警戒せよ」
「梨、了解」
梨が速度を落としていく、金剛は船体を傾けて射角を取っていく。梨が射線から外れて射界が取れるようになる。梨も分かってるようで離れる方向に進路を取っていく。
「こちら金剛、梨、確認できた?」
「梨からは確認出来ません。金剛さん、対処願います」
「了解」
俺にも見えない。
「ダーリン、無理だよ。私のFCS2じゃなきゃ見えない。便利だけど、ミスったなぁ、私のアナログ計算機じゃ連接出来ないからまるでゲームやってるみたい」
金剛が困ったように愚痴る。
「左、副砲戦闘。発射」
金剛の号令とともに副砲が火を吹く。程なくして水柱が上がる。
「あ~、外れ」
10秒間隔程度で発砲が続く。
「よし、挟叉。次はいくよ」
「よし、命中」
金剛は確かにゲームでもやるように発砲毎に独り言を言っている。
2分くらいで砲撃が止んだ。水柱が上がっていた辺りに宝石が浮かぶ。程なく梨がそれを回収する。
「こちら金剛、周辺に船影は確認できない。警戒はそのままに集合」
ようやく金剛が緊張の解けた笑顔を向けてくる。
集合して宝石を数えると全部で376個あるそうだ。
「梨と椎はいくつ必要?」
金剛が二人にそんなことを聞いている。
「5個もあれば十分です」
何のはなしか分からない。それを見た金剛が腰に手を当てて呆れたようにため息をはく。
「もう、ちゃんとそこにも載ってるよ。精霊は宝石をエネルギー源にしてるの。私の場合、宝石だけじゃなく、ダーリンからも補給するけどね」
そう仰った。確かに、タブレットの説明欄にもある。駆逐艦は5~7個、戦艦だと20個必要らしい。ただ、一度の補給で1週間は持つらしく、艦を動かさなければ一月は精霊が人間同様に飲食することで維持が可能らしい。
「分かった所で、これから何をするのかな?」
金剛が聞いてくる。
「何って、港を向かうんじゃないの?」
「了解、じゃあ、出発」
金剛がそう言うと駆逐艦二人はサッと敬礼して自艦へと戻って行く。
3隻は単陣形で進む。当初と同じ、梨、金剛、椎の配置だ。
「んん?大陸間航路の筈なのに船が少ないなぁ~」
先程から金剛が首を捻っている。18ノットで進んでいるのに同航船に会わない。反対へ向かう船も片手でしかない。仰々しい名前なのに主要航路ではないのだろうか?
「もう深夜だから上陸は明日だね。戦闘で時間潰れちゃったから港に到着するのは明け方。ごめんね。今夜はさみしい夜を送らせちゃうね。その分、明日は頑張るから」
金剛はそう言って慣れたしぐさでキスをした。俺としてはそんなに頑張らなくて良いんだけど・・・
何せ、受け身で待っていたらいつの間にか魔法使いと呼ばれるご身分だ。今更夜の街に行くのも恥ずかしくてダラダラしていたら34になっていた。もうさ、嬉しさじゃなくて恐怖に近いよ。あんな美人が相手なんて。おっと、この世界じゃまだ22。魔法使いじゃないんだ俺。綺麗なお姉さまが誘ってきてるからドキドキしてたら良いのかな?でも、中身は34なんだよな・・・
さて、大陸間航路の玄関口の港ってどんな街なんだろうな。




