22・春原一馬の狂騒
はるなの戦闘は未来的なのに古風な印象を受ける。
まるでシューティングゲームみたいと言えばよいだろうか。
「どうですか?司令」
「すごい。が、何だか知ってる感覚があるんだよな」
「それはそうでしょうね。実包の場合は発砲から弾着まで5倍から10倍かかります。レールガンは初速が速いので、実戦よりゲームの時間感覚に近いのですから、そのせいだと思います」
なるほどね・・・
しかも、この世界だとGPSが無いのでレールガンと言えど、有視界戦闘が専らとなる。最大でもレーダー視程だから、水平線の向こうに撃っても標的弾着は覚束無い。それがなおのこと、この様なゲーム的な光景を招くんだろう。
「司令、なにかオモヤッテ方向に飛んでいきます」
未来の艦艇について物思いに耽っていたらはるながそんな報告を寄越した。
この時点ではわからなかったが、しばらくしてオモヤッテより通信が入る。
「こちら電、オモヤッテに魔簇のトゥルクと名乗る人物が来訪されています」
「分かった。帰るのは明日になると思うから、今日は港町に宿を取って案内しておいて」
「わかりました。その様にお伝えして、宿の手配をします」
急げば今日中に何とかならんこともないが、それでは夜になってしまう。だが、何の用事だろうか?
はるなは翌日昼にオモヤッテに帰港した。
俺はすぐにオモヤッテに上陸する。
まだまだ人口も少なく、オモヤッテに宿を必要とするのは主に休暇中の精霊たちか、組合派遣の冒険者くらいのものだった。
オモヤッテの食事はアバチャウンと変わらず、どことなく和食に近いから俺はまるで日本に居るみたいで落ち着く。ただ、景色は奄美か小笠原かって感じなのに、食は北国寄りっていうのはギャッブを感じるとは、杏子の話。食材が違うらしいが、俺は気にならない。食うだけだから。
さて、宿にはトゥルクが待っていた。本来なら、俺たちの事務所でもあれば良いのだが、精霊たちは普段は艦上だし、俺もこれまで金剛で過ごしていたから地上に事務所を構えようとしなかった。今は、はるなが旗艦であり、事務所代りとなっている。その方が、はるなと杏子で精霊たちの食事を作れるので良いらしい。俺?手伝おうとしたが、締め出された。なぜかは知らん。
「元気そうだね。そうそう、聞いたよ。早くも人間に戻したんだって?まあ、あれは私が露骨に解答教えたからだって、叱られたけどね」
そういって笑った。特に深刻な用事はではないらしい。
「ありがとう・・で、いいの、かな?」
「良いんじゃない?ところで、愛しの新妻は?」
「今、はるなとみんなの夕飯の仕込みやってますよ」
「おお~、ここは精霊も人扱いするんだね」
トゥルクは大袈裟に驚いている。
「『ここは』って?」
「まあ、今日はその話を聞かせに来たんだよ」
長い話になりそうなので宿の食堂へと案内して飲み物を注文する。
「私はあのバカの綱取役にこっちに来たんだけどね・・・」
トゥルクの話によると、バカこと春原一馬がこの世界に来たのは30年前らしい。
「30年といっても、元の世界の時間とは一致しないけどね。彼もタブレットを違和感なく使ってたから、君とたいして変わらない時代の人物だよ」
正確には教えてくれないが、同時代からの転生らしい。
転生してすぐは一人で武器を使って魔物狩りをしていたらしい。ただ、そのうちこちらの人間を引き込んでパーティーを作っての狩りを行うようになるが、3年くらいで突如、解散したという。
「一馬は引きこもりだったそうでね、たまたま外出して事故だか事件に遭ったらしくて、予定外の死を迎えたらしいよ。そんなだから、チヤホヤされてるうちは良いが、きつく指摘されることに弱かったんだろうね。喧嘩別れだよ」
「それで、自殺しようとして、出来ない仕組みなのに、やったどころ、女神さまが止めに入って、泣きついたから私が召喚されたって訳」
トゥルクの召喚以後は順調に回復するかに見えたが
「喧嘩の原因が中二病でね。『俺が魔王を倒して勇者になる』って、私にも言うわけよ」
転生前に受けた説明は頭になかったんだろうな。
この世界は人間と魔簇が住み分けしていて、人間がその恩恵を受けているというのに・・・
「あれ、そう言えば、魔簇側の利益って何?」
「魔簇の利益?それは魔力持ちが差別や排除されないことだよ。混在していたら、力の違いで差別や排除が起きる。それが集団化した結果が魔王軍だの勇者だのいう話だからね。住み分けしてたら、内部の闘争は起きても、種族間の争いを呼び込まないから、その分、平穏なんだよ。人間の側だと魔物狩りが優先されて、人間間の争いも最小限になってるけどね」
なんとも現金な話だ。トゥルクが魔簇側に居るのも、彼女が召喚の結果、魔力を持つかららしい。
「それで、中二病で騒ぐままに魔の森を越えて進軍したちゃうわけよ。で、最終的に、魔簇の街まで侵攻した所で、魔簇と人間に挟み撃ちにされたわけ」
そりゃ、そうだよな。利益を得ている人間が利権である魔の森やその発生源である魔簇を滅ぼす訳がない。一馬が魔簇、人間双方の敵になってしまった訳だ。
「結局、私がタブレットを奪って力を封印したって事で解決させたんだけど、一馬は暴れるわけよ」
そりゃ、そうだよな、折角のオモチャを取り上げたら・・・
「で、取引したわけよ。暴れないために何が必要か」
折角の武器を取り上げて、それに代わるもの?ゲームかな?
「あのバカ、魔王倒せたらお姫様と結婚できるとか妄想してたみたいでね、アダルトゲーム並みの美女のハーレム要求してきたわけ」
そっちか・・・
「ま、そんなのお安いご用だから、世界の美女を数人付けて閉じ込めたわけ」
俺はおもう。
「それってさ、一見天国だけど、色欲地獄っていうやつじゃない?」
そういうとトゥルクは爆笑した。
「巧いこと言うね。確かに、あれは地獄かもしれない」
いや、単に金剛に絞れるだけ絞られた体験談だけどね?
今?今の杏子は普通の人間だから、楽しくやってるよ。
「君は地獄じゃなくて本当に天国にいるね。妖精たちに手を出さないし」
「だって、杏子が居るから。以前も金剛が歯止めの役割りしてたんじゃない?」
トゥルクもバカが何らかの条件満たしたら人間になれたんだろうか?
「そりゃ、体を張ってでも手だしさせないだろうね。死神がミスらなければ、元の世界で夫婦やってたんだから」
俺は唖然とした。
「あれ、聞いてないの?彼女、君と結婚する運命だったから引っ張り込まれたんだよ。容姿があれだから結構派手に遊んでたみたいだけど、案外中身は古風でね。今時のヤンチャたちには重すぎたみたいで、長続きしなかった訳よ。そんな時に地味な君を見掛けて、怪我と元々の自信のなさで後ろ向きな所に母性が刺激されたんだろうね。君も、ああいうの好きだろ?」
俺は頷く。容姿からは想像できないあのオカンなところが好きだから・・・
「あ、私はそもそも人間じゃないから、一応魔簇に属してるけど、君が愛情注いでくれても人間にはなれないから」
悪戯っぽくそういって笑う。
「へ~、アキオ、あんた、私が仕事してる間に、そいつにコナ掛けてたんだ」
後ろには杏子が居た。
「大丈夫だよ、私、貴女みたいに抱き締めて一緒に居てくれる男が好みって訳じゃないから」
トゥルクは杏子を見て笑いながらそう言った。
「なっ・・・」
杏子も言葉に詰まって固まった。
俺は杏子みたいに一晩中抱き締めていて文句言われないのが好みだよ?
「はいはい、ごちそうさま。君らが魔島の脅威にならないなら、それで良いんだよ」
トゥルクはしばし、俺たちを弄ってから帰っていった。




