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20・金剛消滅

 軸の浸水程度じゃ沈まないと言うが、金剛の様子は言葉とは裏腹に悪くなる一方だった。


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫だよ。私が居なくてもやっていけるでしょ?」


 それ、フラグだろ。


「そんなわけない。誰が書類のチェックするんだ。俺だけじゃ無理だ」


「ちゃんと出来るように教えたのに、甘えない」


「甘えるよ。金剛が居なきゃこまる」


「うれしいけどさ。あ、青葉は私とスタイル似てるし、ダーリンに気があるから、青葉に頼めば?」


「それ、金剛の許可?」


「許可するわけないじゃない」


「じゃあ、これからも金剛にやってもらわなきゃ」


「ごめん、大丈夫って言ったけど、無理かも」


 やはりか・・・


「島風、それに、帰港してる艦は金剛の艦尾を座礁させてくれ」


 俺は願うように、そう叫ぶしかなかった。


「マスター、でも・・・」


「やれ!」


「分かった。でも・・・」


 何が言いたいのは分かっているが、それは考えたくなかった。


「座礁させても、浸水したら意味ないよ。排水出来ないよ?この世界じゃポンプもないし」


「でも、金剛が消えるのは無しだろ」


「だから、後は青葉に頼んで-」


「金剛も居ることが条件!」


「欲張りだなぁ、こんな状況で3P要求なんて」


 金剛はそう言って力なく笑う。


「当たり前だろ。俺を金剛色に染めた責任とってもらわなきゃ」


 島風が押しているのだろう、金剛の船体が動くのがわかる。


 そんなときにタブレットが鳴り出した。


「はい、古河です」


「古河さん、お久しぶりです。金剛さんはもう助かりません」


「わかりました。じゃあ、俺も一緒にお願いします」


 金剛が俺を睨むが気にしない。


「それは出来ません。もちろん、自殺も無理です。魔物に身を投げても死神はあなたの魂を拾ってはくれませんので、そちらの世界で苦しみながら生きる事になりますよ」


とんでもない脅しだ。


「なら、金剛を助けてください」


しばらく返答が無いので切れたのかと思ったが、通話中の表示がある。


「金剛さん」


女神さまは金剛に話しかけた。


「はい」


「想定外の事態です。本来、後3年は現状維持の筈でした」


「良いよ、私は。遊びじゃない本気の想いってのに出逢えたから」


「出逢えましたか。それは良かったです。私の戯れでそちらに送った事が後悔となっていなかった事に安心しました」


 俺には分からない話を二人でやっている。


「なにかお望みの事はありませんか?」


「私も、アキオの側に居たい・・・」


 それは俺が見たはじめての涙だった。これまで金剛が泣いたところなど見たことがなかった。


「俺も放したくない」


 俺は金剛の手を握る。


「おめでとうございます」


 女神さまはなぜか場違いな祝福の言葉を投げ掛ける。何がめでたいのか分からない。


「古河アキオさん、あなたは金剛さんが人間となって、精霊としての能力を失っても構いませんか?」


「精霊としての能力?金剛が側に居るならそんなものはどっちでも良いよ」


「柊 杏子さん、あなたは、これまでの精霊としての能力を失っても構いませんか?」


「少し寂しいけど、アキオとここで暮らしていけるなら構わない」


「古河さん、事態が呑み込めていないとは思いますが、まずはタブレットから、金剛に代わる艦を1隻選んでください。そうすることで柊さんの金剛としての能力は解除されます」


 よく分からないが、言われるとおりにタブレットから艦選択を行う。どうなるのか分からないが、金剛型戦艦から選ぶのが良いと思い、戦艦の項をタップする。

 開いたリストから金剛型の名前を探す。

 なぜか金剛型の名前がなかなか見つからない。

 あった。最初に無いからと一気にスクロールしたら最後に。


「『ひえい』『はるな』か、金剛と組んでたのは榛名だったな」


 俺は迷わず『はるな』をタップする。


「古河アキオさん、これで金剛さんの能力は解除され、人間となります。あなたと同様に精霊の声を直接聴く、通信能力がありますので、お二人で力を合わせてこれからもそちらの世界にご助力されるようお願いします」


 女神さまの通話が終わると、転生の時のようにぐらついた。


「おっと」


 俺はよろけて手をつく。


「アキオはやっぱりおっぱい星人だ」


 手をついた先は金剛、改め柊杏子の胸だった。

 身長はチビな俺より高いが、金剛程はなくなったが、顔やスタイルは変わりない、違うといえば、髪の色が金髪ではないことか。


「えっと・・・」


 俺が戸惑っているとさっと起きあがり、


「私の名前は柊杏子、あ、古河杏子でいっか。夫婦になるんだし」


 あっけらかんとそう言ってケロッとしている。


「何?巨女好みだったの?」


「あ、いや、そう言うわけでは」


「身長と髪の色以外は何も変わらないよ?」


 そう言っていたずらっぽく笑う姿は確かに、以前と違いなかった。



「うっわぁ~」


 別の所から声が聞こえた。振り向くとまず、金剛の艦内では無いことにビックリした。ここは戦艦の艦橋ではない。正確には船のブリッジではなく、電車か何かの運転席。いや、艦橋でも見たことはあるな。米軍のLCSとかスウェーデンのステルス艦の『コクピット』だ。


 そこで一人の女性が頭を抱えている。そして、目があった。女性が目線を杏子に向けて睨む。


「あなたが金剛姉さん?また無茶して、艦内水浸しじゃない!」


 いきなりこれである。しかし、金剛姉さんと呼ぶのだから、きっと榛名なんだろう。


「せっかく金剛型戦艦の懐かしさを味わったと思ったら浸水のおまけ付き。嫌な過去おもいだしたぁ~」


 また、頭を抱えている。

 そっか、榛名も着低しちゃったんだったか。


「えっと、榛名?」


「司令、ごめん、多分、幾つか間違ってると思う」


 はるなはシートで頭を抱えたままそう答える。たしかに、問い質したいことはある。ナンジャコノコクピットは!とさ。


「まず、そこから外を見てもらえます?」


 俺は外を見る。艦首方向だ。外には巨大な連装砲塔・・・、はなく、単装砲塔が首尾線上に背負い式に2基、艦橋直下の左右に小型の砲塔が2基、そして、目前、やや下方のひな壇にカメラの様な機器が1基見える。


 後で「よし!」と聞こえた。

 振り向くと、はるながピシッと敬礼していた。


「先程は取り乱し、失礼致しました。護衛艦はるな顕現、司令、副司令の統べる『連合艦隊』への着任、拝命いたします」


 ごえいかん はるな。俺の知る護衛艦はるなとは明らかに違うんだが。しかも、戦艦の項から選んだんだが?


「俺、護衛艦じゃなく、戦艦を召喚したはず・・・」


 はるなは手を降ろしてこちらにやってくる。


「はい、たぶん、私も戦艦です。20世紀ではなく、21世紀の戦艦ですが」


???

 隣に居る杏子も知らないとジェスチャーで答える。

 はるなは事態を理解しているのだろう。平然としているのだが・・・


「お二人の反応も無理はありません。お二人は西暦何年からこちらへ?」


「「2017年」」


 二人でハモった。そして、二人で笑った。


「仲の良い夫婦ですね」


 はるなが俺たちを見て笑う。

 なぜか杏子に睨まれた。


「姉さん、綺麗な女性への礼儀だと思ってください」


「私、あんたの姉じゃないけど?」


「そうですね。人間と精霊としてはそうですが、あなたは戦艦金剛の精霊だったのですから、一時的とはいえ、私の姉です。私も姉の夫を掠め取るほどバカではありませんのでご安心ください」


 俺には杏子の顔しか見えないが、何やらダメージを受けているのがわかる。


 はるなの説明はSFだった。

 いや、宇宙戦艦とか空を飛ぶとかはないよ?

 ただ、今目の前に見えているのは、御坂美琴っとっと、レールガンだと言いやがった。


「首尾線上にあるのが40MJ砲塔です。この砲は弾道ミサイル迎撃や約300キロ先までの対地攻撃、60キロ程度までなら対水上攻撃も効果を発揮します」


「左右に見える小型砲塔は16MJ砲塔です。主に20キロ圏内の目標に有功です」


「手前に見えているのは、半導体レーザー式CIWSです。主に8キロ圏内の目標に対して照射することで、焼損、撃破が可能です」


「後方には32セルの垂直型ランチャーがあり、対艦、対空、対潜、対地各種ミサイルの装備が可能です。その後方には16MJ砲塔1基、CIWS2基があります。その下は格納庫ですが、こちらではUAVしか運用できない様で、偵察用UAVが2機、格納されています。他には、短魚雷発射管と実包式の30ミリ機関砲を舷側左右に各1基装備しています」


「レーダーはこの上のマストに米国製SPY‐1の後継として国内開発されたFCS4が装備されています」


 未来の戦艦ね・・・


「ただ、ひえいと私は実験的要素も含まれているので、今後の主流になるかどうかはわかりません。レールガンの電力確保のために必要以上の機関容積を抱えていますから」


 金剛、もとい杏子はずっとはるなを睨んでいたが、俺は宝塚美人のはるなより、杏子の方が良いのだが、女性にははるなの様な美人になにか思うこともあるんだろうか?

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