17・魔船と・・・
青葉が異変を全員に知らせた。
とはいえ、実際何が起きているか、どう調べるかは分からない。なんせ、相手は魔船だ。
「青葉は何してんだ?」
青葉は駆逐艦を減速させ、単艦で接近していく。こちらからは何をしているのか分からない。
「阿武隈、青葉が何してるか分かるか?」
俺は阿武隈に聞いてみた。あちらからも青葉は見えているはずだ。
「ご主人さま、青葉は発光信号送ってます」
トコトンギャグだった。おい、なんで「ワレ、アオバ」なんだ。やっぱり青葉は平常運転らしい。
が、それで成果があったようだ。
「青葉より、マスター、魔船中心部に魔族が居るようです。金剛さんとこちらに来てください」
「了解、そちらへ向かう」
びっくりである。つか、魔族も理解したのか?あのギャグを・・・
程なくして金剛は青葉の近くに到着した。
「ダーリン、何か飛んでくるよ!」
金剛が対空戦闘の態勢に入る。
「金剛さん、ストップ!」
青葉から叫び声が飛ぶ。なんとか発砲はしなかった。
確かに物体が飛んできた。そして、金剛の甲板に降り立つ。それは人間にしか見えなかった。
「あれ、誰?」
と、俺は金剛を見るが、知らないとジェスチャーで返された。
「精霊使いは居るか。居たら私と話をしよう」
甲板でその人物はそんな事を叫んだ。
「お客さんみたいだから、降りようか」
金剛は感情の籠らない声でそういった。俺は頷くだけで金剛に従う。
「その方が精霊使いか?」
ちょっと態度がデカい美人がそこにいた。神様の様な団長や廃校寸前の生徒会長ではない。
「一応、そうなるかな」
俺がそう答えると、その美人は金剛を見て首をかしげた。
「ちょっと変わった精霊だな」
「私のことはお気になさらず」
なぜか金剛は非常に厳しい口調でそういった。
「ま、私らには関係ないか」
美人もそれ以上、金剛に構う気は無いらしい。
「この辺りで魔船沈めまくってるの君らだよね」
俺は首肯する。
「これから仲間を待避させるから、合図したら魔船、沈めて見せてよ」
美人はそんな事を言ってくる。
「良いのか?」
「ああ、構わない」
何やら手を動かしたかと思うとこちらを向き直る。
「飛翔体、15」
魔船の方を見ながら金剛が伝えてくる。
「さて、もういいよ」
美人がそう言う。
俺は金剛を見る。頷いて指令を出す。
「こちら金剛、飛翔体が安全圏に離脱次第、魔船を攻撃せよ。ぜんりょくで」
周辺の艦から了解の返答が返ってくる。
すぐさま青葉が撃ち始める。阿武隈も撃ち始めたようだ。
駆逐艦が金剛周辺を通過して撃ち始める。
「この船は動かないの?」
美人がそう言うが、
「あなたが居て危険ですから」
と、金剛が返す。
俺、この場から逃げ出したい。が、美人は魔船が瞬く間に沈められていく事に目を奪われている。
「海にもこんな連中がいたの・・・」
30分でほぼ片が付いた。数が数だから、後始末が大変だと思いきや、飛び去った連中が舞い戻ってきた。
「私ら宝石には興味ないから、横取りはしないよ」
美人はそう言うと自己紹介した。
「今さらだけど、私は君らが魔族と呼ぶ一族のトゥルクという」
トゥルクによると、むかし、アハペナンマーから内陸に入った先にある魔の森で俺達みたいな連中が暴れて、余勢を買って魔族領域まで雪崩れ込んだらしい。
「バカな精霊使いだったよ。せっかく人間と我々の協定で平和が保たれているのに『魔王討伐』とかふざけた事をやって」
本当にバカな奴も居たもんだ。流石に俺はアフンチャル島を攻め落とす気は無い。
「海にも似たのが居るって聞いて、来てみたんだが、君はバカではないらしいね」
トゥルクはホッとしたようにそう言う。
「どうだろうね。俺も魔族の島や魔の海がどうして出来るかには興味があるよ?」
「だったら、長い話になるからどこか陸に上がってもらえないかな」
彼女がそう言うのでオヤモッテに帰ることにした。金剛はあまり乗り気ではないが、上陸は拒否せず、帰路につく。
「なるほど、こりゃ良い入り江だね」
オヤモッテに上陸したトゥルクは無邪気に辺りを見回している。
「君らに危害は加えないから仲間も呼んで良いかな?なんなら、私が君らの人質って事でも良いけど?」
「他の連中を呼ぶのは構わない。あなたが人質ならば」
金剛が警戒しているのは主にトゥルクらしい。
「それはありがたい」
オヤモッテに上陸後、15人程の魔族もやって来た。トゥルク同様、人間と何も違いがあるようには見えなかった。
「君はどうやら人間と我々に差違がなくて不思議みたいだね」
トゥルクは俺にそう言う。俺は頷く。
どうやら、違いが無いのは当然らしい。
この世界において、生まれつき強い魔力を持っている人種がいわゆる魔族と呼ばれ、弱い人種は人間という事になるらしい。
「私達が宝石を持つと宝石に魔力を吸われてしまうからね」
魔族が宝石に興味が無いのはその為で、宝石は鉱物が魔力を吸収して結晶化したもので、魔石は結晶化出来なかったものという話だった。
「アフンチャルとこの地域で呼ばれる島に居るのも我々と同類の一族だよ。あそこの連中はバカが暴れた25年前、『魔王討伐』の被害に遭ってるから君らが出向くのは都合が悪いね。そっとしておいて欲しい」
確かにそれなら下手に波風たてない方が良い。
「それで、なんであなた方が魔船に囲まれていたんだ?」
これは当然の疑問ではなかろうか。
「それか、それはあの辺りが他に例を見ないほど鉱物があるからじゃないかな。まさかあんなに出現するとは予想外だったよ」
魔の森や魔の海は鉱物資源が豊富らしい。とはいえ、海底掘削など、現代でも難易度が高い。この世界じゃ魔物化しないと採取も難しそうだ。
「まあ、あんなに出現したのは君らを観察しようと長時間居続けたのが大きいの だろうがね」
そりゃ、また変な精霊使いが現れて暴れまわられたら困るもんな。ん?だとすると・・・
「あなた方がここに居るとまたボコボコ出てくるんじゃ・・・」
「それは大丈夫だろう。魔船の出現に2日はここに居座らなきゃ魔力は結晶化しないだろうし、クラーケンなら出現を封印したから一週間は解けない。来週は烏賊釣りで忙しいかもしれないね」
事も無げに言わないで欲しい。
「という事は、魔族の居住地やその周辺も封印してるから出現しないという話なのか?」
「そう言う事。我々にはアレは害しかないからね。もっと思考力でもあれば良いのだが、あいにく、獣以下でしかない。当然、宝石や魔石の具現体だから、肉にもならないし、我々の稼ぎにもならないからね」
そう言って手をヒラヒラさせる。
「我々は君がアフンチャルを攻めないのであれば用はない。あちらの連中にも事情は説明しておくよ」
そういって立ち去る間際、「そこの精霊は、君が愛贋物ではなく人間としての愛を求めるのであれば、願いは叶うよ。頑張りな」と耳もとで囁いて言った。当然、金剛に睨まれた。
「さっき、なに言われたの?」
「アフンチャルに手を出したら本気で来るってさ」
納得しかねる様子だが 今は囁かれた内容を伝える気はない。
それに、さっきの会話から、これも間違いではないと思う。
ふと、タブレットに目をやるとレベルが乙に昇格していた。レベルアップしたけど、この世界にこれ以上は戦艦の必要性が無いと思うんだが・・・




