15・魔の海
掃討を開始して3週間、全体の効率化の為に秋月型を更に2隻召喚した。そして、松型隊にも指揮艦として軽巡洋艦を召喚した。
「今日の留守番は阿武隈、青葉隊には夏月と春月を編入する」
増えた秋月型2隻を青葉隊にローテーションで編入していき、旗風の戦法と秋月型の戦法を洗練させていく事にした。
おかげでかなり戦果も良い。
松型はアバチャウンとオヤモッテ間の警備や漁業の護衛にまわって居るが、これはこれで歓迎されているし、護衛は組合から報酬が出るので助かっている。
そろそろアハペナンマーへも足を伸ばせそうな状況だが、不思議な事にアハペナンマーに近付くほど魔物や魔船を見なくなっている気がする。
そこで、組合から過去の被害について資料を取り寄せたのだが、どうやら被害が多発したのはオヤモッテ諸島周辺だと分かった。きっと、このままアハペナンマーまで行ってもクラーケンは減り続け、艦隊がオヤモッテを空ける程に周辺での魔物発生が増えるのではないかと考えてしまう。
「どうしたの?」
俺が腕を組む横で双眼鏡を下ろした金剛が聞いてくる。
「ん~、これからどうしたものかと思ってさ」
「子供が欲しいの?」
そっちかよ。金剛って精霊だから妊娠しないんじゃないの?違うの?
「ごめんね。精霊は人間との間に子供は出来ないんだ」
そんな気が最近はしてたから驚きはない。って、そっちの話ではない。
「それは何となく分かってたけどさ。その話じゃなくて、『魔の海』ってオモヤッテの近くなんじゃないかと思ってさ」
「確かに、進むごとに魔船を見なくなるもんね。魔船の出現が一番多いのはオモヤッテやアバチャウン周辺かな」
金剛も薄々気が付いて居るようだ。
「ただ、この世界は魔族と人間は住み分けたから、争いは無くて、魔物は経済の源になってるからね。私達も魔物の宝石無しじゃ存在できないし、この世界の人間は魔法が殆ど使えなくなっちゃう」
そう、この世界は魔法があるにはあるが、人間の魔力は弱く、普通のファンタジー世界のような派手なことは宝石の力を借りないと出来ない。人間単体では、マッチの代わりに火種にしたり、指サイズの氷の欠片や小石を作り出す事しか出来ない。日常生活には使えても、ファンタジーそのものの力を持つ魔物や間違っても魔族と対峙する力はない。魔物から現出する宝石を杖や剣、弓に埋めて魔力増幅器としなきゃ魔物から身を守ることも難しい。かといって、下手に魔法が使えるモノだから科学よりも魔力が優先されて工業化なども馴染まない土壌にある。
「それは分かってるけどさ、知りたくない?『魔の海』の正体」
「男の子だなぁ~、そういう冒険心」
金剛が綺麗な笑顔で俺を見る。
「楽しい冒険したいのは分かるけどさ、具体的にどうするの?」
そう、それ。
「よくぞ聞いてくれました」
「ごめん、ダーリンなんかキモい」
金剛が露骨に嫌な顔をする。ファンタジー世界でファンタジーな考えをして今更なにがキモいのかわからん。
「あのな・・・」
「そういう冒険心は私の責め方だけにして?」
どうしてそっち?
「そりゃ、俺が責められてばかりだけどさ・・・、って、そうじゃなくて、何でオモヤッテに魔船が難破したんだろ?」
「船頭も舵取りを誤るからじゃない?」
なんだよ、その捻りもない発言。しかも、不満顔。何?そんなに不満があるなら責めて欲しいとこ教えてよ・・・
「そりゃそうだけど、魔船の多くは大抵、同じ方向に進んでるよね」
「6割くらいはね」
それ、十分多くね?
「で、その先にあるのが、この島なんじゃないかと」
俺は大海原にポツンと浮かぶある島を指した。
「アウンチャル?確かに、孤島だけど、そこに魔族とか魔導石の話は聞いてないよ?」
「確かに、アバチャウンの資料にはない。が、この20数年間調査もされてない」
「じゃあ、今夜の夕飯後に会議だね」
すんなり行くかどうかは分からない会議だ。なんせ、あくまで俺の冒険心の問題でしかないんだから。




