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真っ黒な毒をオマエにだけ、あげる  作者: 大高知ピエロ
February
6/23

ヴァレンタイン団子






『私は今でも時々、怖くなる』



 私はちゃんと、前が見えているか。

 優ちゃんだけに、それだけに……なっていないか。


 

 優ちゃんとのイザコザで、成績を指摘されてから3ヶ月経つころ、先生に

『最近は、成績も落ち着いたみたいですね』

 そう言われて私はとても、ホッとしたのを覚えてる。


 

 眠る前、闇に潜るそのまどろみの中で、いつも思う。



 私はちゃんと、まっすぐ歩いてる?

 偏ってない? 優ちゃん以外……見えなくなっていない?

 そんな些細にも思えることが怖くなって、涙が(にじ)む。

 自分の血に混じるママと同じ血が――自分を狂わせていないか――

 いつもそんなこが、頭によぎっていた。






「みづき?」

「……え? ……あ、はいっ!」

 居眠りを(とが)められたような気がして、私は慌てて立ち上がった。

 隣には、呆れた顔をした優ちゃんがいる。


 

 そうだ、私は勉強を教えてもらっていたんだった。

 ……着ているモコモコのワンピース型パジャマと室温が、ちょうど良くてウトウトしてきた……とは、言えない。

 だって自分から質問したのだ。今は自由時間なのに、どうしてもわからない所があったから。

 ……聞いていたはず、だった。



「そんなに眠いなら、自分のベッドに戻ったら?」

 少し不機嫌そうなアーモンド型の目。いつ見ても、ツンとした感じの『女王様感』を漂わせている。

 何より、格好が『優様』だ。

 黒い細身のシルクのパジャマに、ファーのガウンを着ている。V字の首元から見える鎖骨は、なめらかで、つい、目で追ってしまいそうになる。……追ってどうするんだ。そんなツッコミを自分でしてしまう。そんなだから、男子に襲われるんだ。私の肌より、よっぽど透明感がある気がする。

「は、え、あ、そうだね! うん、ごめんね! 寝る!」

「そうしたら? それとも……優と一緒に寝る?」

「い、いいです! 大丈夫です!!」

 優ちゃんのほどいた髪から、濃いバラの香りがする気がする。

 優ちゃんは、周りと入浴時間が別枠だ。だから、優ちゃんは少し前に出てきたばかりだった。そのせいか、濡れた花の香りがする。

 ……使っているシャンプーやリンスが、バラなんだろうか。

 昔から、優ちゃんはこの香りだ。

 初めは、きれいなバラの匂いだと思っていた。でも今は、惑わせるような、(さそ)いかけられてるような香りに感じてしまう。

 花の蜜に(いざな)われる蝶のように、惹きつけらてしまう。いつも、毎回、優ちゃんのその存在感に圧倒される。なのに



「……ちゃんと寝られてる訳?」

 ドキリとする。

 絶対、自分とは違う人なのに、そうやっていつも私の目線まで降りてくる。 

 優ちゃんの瞳はハチミツ色で優しげなのに、じっと見つめられると、とろりと溶かされているような気がしてくる。

 バラの余韻は、ひたすらに甘い。

 私は振り切るように、言葉を紡ぐ。

「もしかして、クマできてる?」

「……別に、前みたいな露骨なクマはないけど? ただ、眠たそうだったから言っただけ。……それとも心当たりが?」

「い、いえいえいえいえ。うん、もう寝るね。おやすみっ」

 深く追求されるとボロがでる。私は白旗をあげて、潔くベットに向かおうとする。


「みづき」


 けれど、やけに甘い声に引き留められる。振り返ったと同時に、私の手を優ちゃんの手が包んだ。その手がひんやりとしているのに、何故か触れられた箇所が、ひどく熱をもつ。

「おやすみ」

 優ちゃんはチュッと手の甲にキスを落として、意味ありげに上目づかいで見てきた。

「!!」

 一瞬で、私の頭が一気に沸点に達する。

「お、おーーーやすみ!!」

 そのせいで、おかしな返し方をしてしまう。逃げるように、二段ベットの(はし)()を登る。

 これで普通にしてろ、というほうが無理だから……。

「気が向いたら、優のベットにおいで」

 優ちゃんは余裕だ。

 くすくす、と笑い声が聞こえる。

 相変わらず馴れない。優ちゃんと同じ部屋は、刺激が強すぎるというか何というか。

 私の心臓が、この先持つ気がしない。


 

 ……でも、基本ルームメイトはよっぽどの理由がないと変わらない。

 中高一貫校だから、優ちゃんが卒業するまでは少なくともそのままだ。

 あと三年も一緒なんて――、怖い、嬉しい、側にいたい、いたくない。離れたい、離れたくない。

 いろんな気持ちがない交ぜになって、よくわからない。

 どれも本当の気持ちで、ひとつにまとまらない。

 


 ……はぁ。

 自分のベットに戻って、布団にくるまる。

 眠る前、よぎったのは優ちゃんとは別の、もう一つの気がかり。

 正確には、優ちゃんともすごく関係がある。

 季節は冬。もう2月だ。



 【ヴァレンタイン】。



 今までは、ヴァレンタインで悩むことはなかった。

何でか、というと、私は決まって優ちゃんに【みたらし団子】を渡していたからだ。

 ……えーと、100%の好意で、親切心で。

 去年、優ちゃんに言われたのだ。

『来年は、みたらし団子いらないからね? 毎年毎年、何の嫌がらせかと……』

『えぇ!! ……そうなの?』

『……ほんっとに、オマエの頭はみたらし団子しか詰まってないね。……別に、嫌いじゃないけど、毎年欲しいなんて思う(やから)は、深月くらいじゃない?』

 ガーン

 という擬音語をつけたくなるほど、ショックはそれなりに大きかった。

 ……と、綾乃ちゃんに話したら、やけに笑われた気がする。



 だから、今年は何をあげようかって考えてるのもある、し……。

 耳たぶに触れる。

 そこには、セカンドピアスがある。

 実は、このピアスを優ちゃんに買ってもらった。買ってもらったというか、ある日唐突に渡されたのだ。

『そろそろ、セカンドピアスに変えてもいいんじゃない?』と。

【セカンドピアス】は、ピアスホールをちゃんと完成させるためにつけるもの、らしい。貰ったのは、サーモンピンクの小さめのピアス。角度によっては鮮やかなオレンジにもピンクにも見える。

好きな色だった。

 だからとても気に入っていて、だから、何かお礼がしたいな、とずっと思っていた。

 ヴァレンタインは、良い機会だと思うのだけど……。


 

 ……目を、閉じる。

 最近はすぐこうやって、自然に優ちゃんのことを考えている。

 恋をしたら、相手のことをつい考えるのは、当然なの?



 自分に問いかけると、思い浮かぶのはママの声。

『良い子で待ってるのよ?』



 ……ママは、(それ)ばっかりだったから、足を踏み外した。



 だから、私は……そればっかに、なりたくない。 

 そう思っているのに――。






 私は、同じ事(ゆうちゃん)ばかり、考えている。







2月は、 

「ヴァレンタイン団子」

「優たんお手製トリュフ」

「女王様のおねだり」

「ご褒美、欲しい?」

の順で掲載していきます。よろしくお願いします。


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