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共感戦隊ミラクル○△□  作者: 村菜琴内代
6/8

放たれた光、差し込む光

戦闘が始まってすぐ、左の遠くの空を2つの隊が大きく迂回して飛んで行った。増援だ。それからもう、ゆうに10分を超えて互いの光線が交錯し続けている。未だC級はおろかE級1体の撃退さえ聞こえてこない。

一般的にジオビーストが界幻を維持できる時間はわずかだ。長くてもせいぜい30分強であって、長くなるほど対象が及ぼす影響は実害も少なく、当然ながら現場に到着した時にはすでに消滅した後、などということもかなりの頻度で、ある。観測できた最長記録は2時間弱となっているが、それは例外中の例外であり実際他には類似例もない。出現位置が洋上や砂漠などの場合、人的、物的損害の心配がなければただ監視するだけで、遠距離から消滅を待つことも通例だ。つまり、どれほど頑丈な相手であっても足止めさえできるなら勝利条件は満たしているはずなのだ。が・・・。

島にほぼ1kmまで接近したお椀型ジオビーストE級2体はそこで前進を止め、直径15mほどの殻とその外側に張った見えない壁に守られ籠城でもするかのように、周囲に光線を放ち近寄るなと警告している。間近で見ても、どこから光線が出ているのか、その仕組みは分からない。

光線は原理的にはレーザーと同じものだ。光と変わらない速度ではおよそ避けることはできない。訓練を受けた隊員ならば防御幕の自動効果は必須技能のため滅多に怪我をすることはないが、直撃を受ければ威力に相当する反動が生まれ体力も削がれるし、かするだけでも精神的にはキツイ。距離が縮まればそれどころでは済まないため学生はもちろんのこと未熟な隊員にも突撃行動は許されていない。

幻獣対策隊のそれほど長くない歴史において、実戦での死者は未だゼロだ。これを対策隊は誇りにしており、絶対に守るべき指標としている。それだけに不必要な戦闘は行わないし、過保護と言ってもいいほど何重もの安全策が掛けられている。

南准尉は6年生からの再三の進言を退けていた。

「これ以上言ったら単位どころじゃないよ。英雄ってのは無茶ができるだけの実力を持ってる者がなるものよ」

奥歯を噛んで持ち場に戻る女子に背を向け、准尉は指令室に連絡を入れる。その視線は手の届くほどの距離で頑として動かないジオビーストを睨みつけたままだ。

ジオビーストは攻撃の当たった個所の色味がにじんで見えたり、薄くなったりして、それが全体に及ぶと消えるように消滅する。それが常識でありこれまでの撃退法であり、常套手段だった。それが、この敵は違う。もう一息という段階に来るとその巨体をわななくように震わせ、その威勢を取り戻すのだ。もう3度目である。打撃の効果はしっかりと出ているのに撃退できない。これは防衛隊にとって良くない展開だ。終わりが見えない。例外も甚だしい。

学生でなくても泣き言を言いたくなる。



「なんなの!このだるま野郎!」

216隊の山鶫やまつぐみをモニターしていたオペレータの耳に怒号が響く。堪らず頭が傾く。山鶫は公私の差なく言葉遣いが悪く、人懐っこい振る舞いとのギャップで有名だ。

ただし今回ばかりはオペレータもその気持ちが分からないわけではない。216隊が相手をしているまだ遠方にあるE級2体は全く反撃をしてこない。トカゲはその身に受けるはずの攻撃を全て雪だるまに転送している。あまり雪だるまの近くにいると味方の攻撃を受けてしまうため、トカゲへの攻撃は申し訳程度の牽制に留め、中距離からの雪だるま攻略を主軸にしていた。さらには雪だるまは大小それぞれの球が不規則に入れ替わりながら互いの周りを回っていて挙動が読めず、近づきにくい。近づけなければ剣は使えず、銃撃は丸い体にうまく流されてしまう。それでも中心を射止めれば十分な効果があるため、「数撃ちゃ」なんとかの頼りない戦法だ。ただし、一番の問題は、こちらも復活を繰り返している点にあった。

「これで、どうだっ!」

ぎりぎりのタイミングを計って一気に距離を縮めた山鶫は迫る球体から全身をひねってかわし、近距離から一発を見舞う。通り過ぎた球体は半透明になり、徐々に速度が落ち、停止。・・・瞬きをしたような、一瞬消えたように見えた後の数秒間。じわりとにじんで、まるで何もなかったかのように元の姿を取り戻す。映像トリックのようだ。再びゆっくりと回り出す雪だるま。

「もう何回目ーーーー!」



遥か遠方で光の帯が飛び交うのをチラチラと確認しつつ、既に勇一も後ろに控えている場合ではなくなっていた。網の下端が手薄に見えたため、そこに混ざって慣れない防御で体じゅうに力が入りっぱなしだ。両腕を体の前で縦に並べ、拳の甲を正面に向ける。ナックルガードに意識を集中させると、それなりの防御幕が展開できる。集中集中。

時折、勇一の防御幕にも光線が当たる。それほど威力がないのか、弾くというより消え散っているように見えた。目の前の光にあっと思った瞬間、右上にいた女子が直撃を受けバランスを崩す。すかさず左下の状況を確認して、空いた隙間を埋めるよう位置を調整する。ふらふらした飛び様は傍目にも頼りないが、先ほどの一瞬に下方で目に入った人影を改めて目で追う。海面すれすれを3人組の隊がジオビーストへ近づいていく。腕の端末をちょいちょいと操作すると361隊の名前が加わっている。南准尉の要請から防衛線にも増援がなされたのだ。

3人は1人を先頭に、2人はその後ろで並んで突っ込む。後ろの1人が急加速しながら上昇すると、ジオビーストの攻撃が追いすがるように乱れ飛ぶ。振り切るように上昇し両手で握った長剣を叩きつける。

「やーーーーーーーーーっ!」

気合の一閃。ジオビーストの防御幕にぶつけるが、見えない壁を押し下げただけで跳ね退けられる。そこへコンビネーションが入る。直進していたはずの2人がいつの間にか軌道を変えていて迎撃網の穴を抜くように、腰溜めの長剣をまっすぐ突き立て時間差でぶつかる。薄目の防御幕を押し込み、本体に深々と突き刺さる。ぐぐっと最後の一押しの後、弾き返されるものの、剣の刺さった場所が大きくえぐられるように色味を失っている。「ヨシ!」喜声が防御陣の耳にも届いた。刹那、もう1体の攻撃が3人を捉え、充分な防御姿勢を取れないまま大きく跳ね飛ばされる。

3人は飛ばされたそのままの速度で弧を描き、防御陣の端に並ぶ。体制を整えつつ准尉と短いやり取りを交わし、再びアタックの算段だ。

敵はダメージを受けたはずなのに光線の矢が衰えることはない。あちこちで直撃を受け隊列が崩れるも、周囲から少しずつ網の目を埋め、柔軟に防御網は維持されているように見える。が、准尉を始め、勇一でさえも気付き始めていた。敵の攻撃は確実に隊員への直撃を狙っている。ひょっとしたら弱い箇所が分かるのかもしれない。事実、中央で鉄壁のガードを築いている桔梗は全く砲火を浴びていない。

この持久戦はいつまで続くのか。



「まいったね。報告書に書くことがいっぱいだよ」

今起きている一件の、全ての記録に署名することになるだろうジョシュは真剣な顔のまま冗談を言ってみせた。

鴨目も無数に数字の並ぶ端末を操作しつつ、困り果てた顔で弱音を吐く。

「対策が後手だったとは思わないけど、いざ現実になってみると心細いわね。再臨界は研究では予見されていたことだし知識としてはあったけど、でも連携するなんて考えてもみなかったわ。それが5体ですもん、戦術っていうのあるのかしら」

「それよ。再臨界って要は押入れでしょ。大きさと引き換えとかナントカって記憶してるけど?」

ジョシュはうろ覚えの記憶を探って言葉にしてみる。鴨目といえど全ての研究資料に精通しているわけではない。

「そうだっけ?だとしたら、それがこういうことなのかしらね。それでE級に見えるってことなら勘弁してほしいわね。もちろん前例なんかないから誰のせいでもないけどさ。・・・E級でいいのよね、あれ」

「後で考えてくれる人が出てくるでしょ。今気にしても仕方ないわ」

「じゃ引き続きE級で。ま、個々への対処は間違ってないと信じますか」

鴨目はともかく6歳も年上だとジョシュの物言いにも遠慮がない。指揮官二人によるのんびり歩調の分析にオペレーターの面々はなんだかなーな顔になる。実戦の指令室とは思えないがここではいつものことだ。却っていつも通りであることが彼女らの緊張を和らげ焦りを遠ざける。知ってか知らずか鴨目がなおもおどけて見せる。

「いっそA級で来てくれた方が楽なのかしらね」

「怖いこと言わないでよ。それが再臨界しないって断言できないでしょ」

冗談のつもりだったのに、ジョシュにやんわりだが真顔で怒られた。観測員たちも振り向いている。バツの悪い鴨目は笑ってごまかしつつがインカムを取る。

「あははは。そういえばぁ、・・・212、七皆!」

「・・・はい!七皆」

「どんな様子?ナメクジは再臨界してないの?」

「んんっ!っと。はい、やっと一区切りつきそうです。・・・もう少しでわかる、っぅかと」

「ああごめんね、無理はしないで。聞いての通り、E級のほうはリピートしてるの。ナメクジまで再臨界するようなら全体を仕切り直します。慎重にね」

「了解、、っと」

足の速さで定評のある212隊リーダー、七皆。気楽に受け答えをしているその実、C級ジオビーストの周囲を縦横無尽に飛び回り銃と剣とで打撃を与えている。さらにはチームの他の3人はまだ一人前と言うには心細いレベルにあって、命令はただ一つ、「止まらず飛び回って、私を狙え」。非常識な挙動で飛び回る七皆に当てるのはまず無理だが、彼女を外した銃撃が面白いように敵にヒットする。七皆にしてみればそんなに計算しているわけでもなく、自分が攻撃したい場所をなぞって飛んでいる程度だ。味方の攻撃を避けるのは苦にならない。実績に乏しい部下にとってはアクロバティックなその動きを追いかけ、移動しながら射撃を続けていると、嫌でも経験を積むことになる。もちろんさらに上のレベルに届くには特別なセンスが必要になるが、未熟な者にそれを望むほど七皆はスパルタではないし、やさしくもない。山鶫がチームにいた時は2アタックにプラス援護が定石だった。七皆自身も上層部からもう一段のスキルアップを期待されていると知っていて、戦果と教育を同時にこなそうとしている。

七皆の受け答えを聞きながらジョシュもインカムに声を飛ばす。

「防衛線、南!そっちはどう?」

「はい南。どうにかこうにかですね。余裕はないけど、無理でもない感じ」

「6年生を交代で用意できる。けど、再臨界が読めないうちは出し惜しみもしたい。わかるね。粘ってみて」

「同感です。幸い、ブロッカーは元気いっぱいなので、編成を変えればもう暫くは」

「うん、わかった」

ジョシュが横目で鴨目を見る。鴨目は参集した補充要員のリストに目を通しながら指で分かったの合図。その時、オペレータの叫びが指令室に轟く。

「212隊、ナメクジ撃退成功です!」「C級1、排除」

鴨目とジョシュの顔が同時に上がる。すぐさま指示が飛ぶ。

「212、261、228。そのまま216に合流。E級2体、手強いわよ。あと、七皆。ご苦労様」

それぞれから了解の返事と七皆の軽口が届き、光明が見えた。

オペレータの小声の歓喜が指令室の空気を暖める。

「連携って言ったよね。それ、1、2、2の連携だよね。この後どうするんだろ」

ジョシュが思い付きの杞憂を口にする。苦い顔で答える鴨目。

「再臨界を当てにして、主力を引き付けるエサだと思うんだよね。そうじゃないとしたら空恐ろしくて手に負えないわ」



撃退の通知を聞いた防御陣に再び活力がわいてくる。気合を入れなおし、残り少ない体力を振り絞るように飛び回る。

もう何度目かの361隊のアタックに初回ほどの効果はないものの確実に砲火は分散され、有効打が入るたびみるみるその姿を薄くしている。誰もが再び復活するのだろうと緊張を維持し、それでも何度繰り返すのかと不安もないまぜに攻撃の手を休めずにいた。が、続いてのオペレータの報告で改めて青ざめることになった。

「全隊員に通知!遠方2体が本島に接近。速度を上げています。防衛線、十分に警戒のこと」

勇一も目を凝らすと、確かに交戦している様子が水平線よりこちらに見えるようになっていた。正隊員が16人がかりでぶつかっているのに足を止めることができない。

准尉の一括が全員に飛ぶ。

「よそ見してちゃダメ。合流させたくなきゃ、こっちを仕留めちゃえばいいんだから!」

大声でハイと返事を返す者、黙々と引き金を引く者、防衛線といえども今となってはれっきとした攻撃部隊に違いない。何とかケリをつけようと自らを奮い立たせようとしていた矢先、4度目の復活、再臨界を果たしてしまった。

「くっ。当たれ当たれ」

鈴香は自分の射撃が恨めしい。ちゃんと当たっているし、隙間を抜いて本体にダメージも与えている。しかし、弱い。自分の銃はこんなにも威力に乏しかっただろうか。謎の発砲と表現された、されてしまった、あの、あの時の、辺り一面を真っ白に塗り替える眩しい光が今はありありと思い出されて、焦り、苛立つ。誰のせいでもないからもどかしい。それが集中力を削ぎ精度を下げ威力も落としていることが分かるから、余計に腹が立つ。

そんな様子を教官の一人が見止め、射撃の手を休めず近寄る。

「そんな乱暴な撃ち方じゃダメ。あなた舞鶴さんね。あなたの技術ならしっかり当てることに集中しなさい。そ」

次の言葉が出そうになった瞬間、光線が教官を直撃する。「お」と聞こえたような気がするが、かなりの威力に跳ね飛ばされてしまう。鈴香は反射的に乱れ打ちを続けながら教官を目で追う。くるりと反転して手のひらを鈴香に向ける姿が見えた。人差し指でくいくいと敵を指差し、集中しなさいと念押しして、近場の隙間に素早く消える。

少しだけ冷静さを取り戻した鈴香が下方を見やると、始めは前後の2層だった陣もひどく乱れ、繰り返される的確な直撃により常に3分の1は後方で姿勢を整えている状態だ。

「よ!舞鶴さん」

勇一が鈴香のすぐ隣まで移動してきていた。ちょこちょこと網の目を繕っているうちにここまで来てしまったのだ。たかだか2週間の訓練の成果とも思えないが、勇一の地力はかなりのものがあるようだ。これまで幾度か直撃を受けたが、少しバランスを崩すぐらいで戦列を離れないですんでいた。

「鷹城くん・・・・」

「お?ほら、撃って撃って。自慢の腕前をも一度見せてよ。もうちょっとだと思うよ。根拠はないけど!」

ニッと笑ってみせる。

言われて銃を構え、引き金を何度も引く鈴香。命中、命中、命中。今度はその集中度合いを保ったまま鈴香の頭の中には別のあることが渦巻いていた。

「うひゃ。下の方、だいぶ崩れちゃったな。俺、あっち行ってみるよ」

そう言って体を折り曲げた勇一の手首を、鈴香はしっかと握っていた。

「な?」

「え?」

引き留めた鈴香自身がびっくり顔をしている。

「舞鶴さん?」

「・・・・ちょ、こっち来て」

と、勇一を引っ張って中央部まで降りる。飛び回るのにも集中が必要な勇一はされるがままに振り回される。そこは桔梗のすぐ背中だ。

「梗ちゃん、ちょっとだけお願い」

「あいよ任し」

軽く首だけ振って桔梗が答える。ジオビーストと島を結ぶ直線上にあたる中央部なのにほとんど攻撃がなく、実に暇そうだ。だからと言ってもちろん手は抜いていない。鉄壁は鉄壁なればこそだ。

今にも泣き出しそうな顔の鈴香が勇一を見つめる。

「舞鶴さん、どしたの?」

「ゆ、・・・」

「?」

「あ・・・わ・・・、勇一くん!あの、私も呼び捨てでお願いひまつっ!」

「告白かよ!」

突っ込んだのは桔梗。

「しかも噛むし」

勇一も辛らつに受ける。

「えっと、そうじゃなくて。いや、そうだけど。あの、あの、私の、・・・・」

「私のお?」

要領を得ない鈴香に手を取られたままの勇一は話を聞きながらも周囲に注意を払いつつ、防御網の穴が気になって仕方ない。

「私の・・・」

「舞鶴さん?あ、えーと鈴香さん?」

「勇一くん、今そこじゃないと思うよ」

桔梗は隊列を離れていることには文句をつけない。守ってとお願いされたからにはちょっとくらい融通を利かせる友達なのだ。ただし突っ込みは曲げない。

「勇一。私の、・・・」

名前で呼びかけまっすぐな眼差しの鈴香を、今度は正面から見つめる勇一。

「なんでしょう」

「・・・・私の体を触ってください!」

「は?」

「告白!?」

桔梗がもう一回突っ込む。砲火が飛び交う空の上、他の学生や教官に聞かれているとは思えないが、なんと鈴香はその手に握った勇一の手を自分の胸に押し当てた。胸のプロテクターを押し上げるように導かれ一番まあるいところが手のひらに収まる。

むにゅ。

「ひょ!」

変な声を出して手を引っ込めようとする勇一。しかし、鈴香は離さない。右胸に押し当てた勇一の左手を両手で押さえ体ごとくっついている。

「何やってんだか」

「舞鶴さん?舞、あいや鈴香さん?」

「だから、そこ違!」

「ダメ。触って。いっぱい触って」

もうなんだか滅茶苦茶だ。振り向かずとも想像がつく桔梗は呆れ顔で突っ込みも一休み。ただ勇一には申し訳ないが、遠目には男子が女子の胸を揉んでいて、女子が抵抗しているように映るだろう。指を動かさなくても手のひらにむにゅむにゅが伝わってくる。いわゆる痴漢行為だが戦闘中だからこれはどういう背任行為になるのだろう。とても焦る勇一。むにゅむにゅ。ああやわらかー。いやそうじゃない。もにゅもにゅ。

やむを得ず、勇一は空いていた右手で鈴香を押しのけようと突き出し、弾かれるように鈴香は飛び退いた。

「あ!」

瞬間的にやり過ぎたと思った勇一と、手足をいっぱいに突っ張らせる鈴香。ごめんと言いかけた勇一だが、その反応は知っている。目が離せない。

鈴香はくくっと痙攣した後、ゆっくり脱力し、静かに銃を手にするとふわふわと下降を始め、桔梗が開いている緑の盾から体を出すとまるで庭木に水でも与えるかのような軽い動作で、銃を敵の1体に向け、発射。

まさに爆発。轟轟たる光の帯がはるか海の向こうまで波しぶきをも蹴散らし、今まで散々手こずっていたジオビーストを飲み込む。

まばゆい光ともうもうとした水蒸気の世界が晴れると、目前のジオビーストの姿は跡形もなく消え、対になっていた命中していない側の1体も急激にその姿を薄めている。事情が分からない他の学生は無我夢中で攻撃を集中させ、あっという間に撃退してしまった。

未だ彼方の山鶫からインカム越しに叫び声が届く。

「今のナニ!半分消し飛んだぞっ」

さぞかし面食らったのだろう、洋上の216隊は目の前の2体を貫いてそれぞれの半分ずつを消し飛ばした一瞬の出来事に唖然とする他なく、指令室に怒鳴りつけたのも光の帯が通過して数秒が過ぎた後だった。

新たな増援を出すべきか判断を巡らせながらモニタを睨んでいたジョシュも、口をあ、の形にしたまま各隊の叫びも耳に届いてないようで、オペレータも司令席の2人を振り返ったまま凍り付いている。

鴨目はというと、引きつった笑顔でやっと見つけた宝物をどうしようか困っていた。

「舞鶴さん、やっちゃったわねー」




勇一は鈴香の動作の全てを見ていた。目が、注意が、全神経が鈴香を追いかけていた。今度ばかりは一連の事の運びが、筋道が理解できた。

鈴香は射撃の後、だらりと両手を下げ、棒立ちのままぐらりと斜めになる。勇一は慌てて下降し、おっかなびっくりで彼女を支える。首がかくんとなったかと思えばすぐに意識を取り戻す鈴香。

「んあ・・・・」

「だいじょうぶ?」

恐る恐る声を掛けると、虚空を向いていた瞳がくりっと動いて勇一の顔をまじまじと見る。勇一は鈴香の手首を取りもう片方で背中を支えていたが、それほど助けが必要でもないようだ。頭上から甲高い声が振ってくる。

「鈴香ちゃーん!」

桔梗が急降下してきた。本来なら敵が消えたとはいえ作戦中だ、命令があるまで陣の維持を最優先にすべきだが、誰も咎める者はいない。多くの者が呆然と海を見つめる一方、隅っこでは抱き合い無事を喜びあっている者もいる。教官はそれぞれ一人一人の様子を見ながら声をかけ落ち着かせ、ひと固まりになるよう誘導する。

桔梗は正面を見ていたので、真下を流れる光の奔流が目に入ったときにはその直線の先に注意が向いた。それが海を割り、遠くの敵まで一気に貫くのを見届けた後、はっと鈴香のことが頭をよぎったのだ。実際に目にするのは初めての光だが、連想が結びつくのに時間はいらなかった。振り向いてみると勇一の姿もなく、見回すと真下で2人が寄り添っていた。

鈴香をはさむ位置で勇一の前にくるりと止まり鈴香の顔を覗き込む。

「鈴香ちゃん、大丈夫?」

「・・・・」

返事がない。鈴香はじっと勇一の顔を見つめている。さっきからずっと、ひょっとしたら瞬きもしていないかもしれない。桔梗は心配になって勇一の顔を見る。

「勇一くん?」

鈴香が見つめるので、つられて見つめ合っていたが、おっとばかり桔梗に顔を向けると、またしても桔梗が突っ込む。

「らぶらぶ?」

「誰がだ」

「あ、勇一・・・」

やっと口を開いた鈴香は勇一の名前を呟いて、いきなり両手を広げると腕を絡ませてきた。腕だけじゃない。正面に向き直ると抱き付き、足を絡ませ首元におでこを擦り付け全身でじゃれついている。

「あ~~~勇一ぃ~~~。ゆういちゆういちゆういち~~~」

「・・・・らぶらぶ?」

「それどころじゃな~~~~い!」

アレを撃ったら変になる。自分で発した言葉だが、つい昨日の桔梗とのやり取りを泣き言とともに思い出す。


指令室ではそれぞれが事後処理にあたっていた。全部署全隊員へ被害確認。各攻撃隊には周辺の追補監視を指示。防衛線には交代の準備が整うまで警戒と半休息。

指令室のモニタは外部の映像を映していない。ジオビーストはカメラに映らないし、どころか接近すれば一般的な電子機器はまず使い物にならない。そこで適応者の能力を使い疑似的な動作を実現し、複数名の観測員がその目で見たイメージをすり合わせて様々な情報に置き換えている。観測員の見たものをそのまま映像として表示しないのは、人の目では“見ていないもの”の精度が必然的に低いため、加工された映像に信頼がおけないためである。観測員を増やせば情報量は増すが、集約の際に不整合が多くなり取捨選択にさらに多くの処理を必要とする。試験的に運用されたこともあるのだが、観測員個々人の注視力にもばらつきがあることや、信憑性の線引きによっては激しく極所に偏った映像が却って煩わしさを感じるなど、不評が大勢を占めたためお蔵入りとなった。現時点ではより確実な情報のみを採用し、各部隊の動き、敵の位置、規模などを数値化、簡略図式化したものをモニターに投影している。タイムラグはほぼないが、それでも実態との差があることは否めない。時には大昔さながらのワイヤーフレームになってしまうことさえあるが、それでもアプリケ同士の通信によるやり取りと敵味方の位置情報などは、得られる情報としては必要十分と割り切っていたのだ。

通常、どの観測員もジオビーストやあるいはその背後、周辺に視線を向けており、隊員一人一人の振る舞いには気を配らない。自陣にはアプリケのネットワークが活用できるためだ。それだけに、先日から続いてきた大火砲騒動においては手掛かりになる観測が得られず、噂の砲撃がどのようになされたかが全く見えていなかった。本当に味方の攻撃によるものなのか怪しむ見方もあった。

そこへ、この前代未聞の大攻勢と反撃の光砲である。

突如、防衛線のどこかからか感知装置では測りきれないほどの大出力のエネルギーを検知してすぐ、全部隊がてんやわんやになり、観測員の目視でイメージが作成され、例の砲撃と同一であると推察する。鴨目はすぐさま鈴香が参戦していることを確認、彼女の位置を探すと、傍にいたのが勇一と桔梗だった。またもや鷹城勇一。是非とも報告を聞かせてもらおうではないか。

「司令。今のが例のアレですか?」

ジョシュが鴨目に話題を振る。つい先日、会議で問題になったやつだ。きちんと敬語を使う。

「びっくりしたでしょ」

「・・・・大した威力です。それが舞鶴と言うわけですね」

「一応できるだけ伏せてほしいかな。もう遅いかもしれないけど。どういう原理か本人が意識してない事らしいから、ちゃんと調べてからにしたかったんだけど」

鴨目はにこやかに流す。やっと取っ掛かりができてうれしそうだ。ジョシュはふぅとため息をついて、後は任せてくださいと指令席に戻った。


全員に大きな怪我がないと分かると、鴨目の司令権限で、帰還後は学生を解散させ十分な休息を取らせるよう教官へ指示をした。通例、当直の防衛待機は実習と任務を兼ねているため終了後は反省会になるが、今回はこの騒ぎと、さらには謎の発砲と濁した公表をした直後でもあり、間違いなく荒れるだろうことは容易に想像できた。幸か不幸かこれまではいなかった目撃者もいるかもしれない。反省会に3人が同席することはもちろん、3人を除いて行われる反省会が如何様なものになるか、これは想像が追いつかない。

反省会がないからと言って、どうしたって噂や憶測が飛び交うのは仕方ないと諦めるが、司令部のコントロール外で3人を矢面に立たせるのは最も避けたいところだし、何より先に当事者から話を聞きたかった鴨目にはこのタイミングを外すわけにはいかないのだ。めったに使わない個別の回線で、鈴香、勇一、桔梗の3人に帰還次第、司令官執務室へ出頭せよと通知を出した。




発着場に足が着くまで、鈴香は勇一に絡みつくのをやめなかった。バランスが悪くそろりそろりと下降する間、帰還する隊と、見張りの交代で飛び立つ学生の何人かの目に留まりじろじろと見られている。幸運と言っていいだろう、防衛線の参加人員には直接は目撃されていないようだった。しかし、発砲のあったその付近にいて、特異な存在である勇一はあまりにも目立った。思い込みの激しい人物なら勇一の仕業と決めつけて囃し立てるに違いない。しかしながら、皆疲れているのか、あるいはその当人にしがみついている少女の姿は輪をかけて異様で、憶測を元に声をかける者はいなかった。ついでに、救いと言えば桔梗が隣にいてくれて、バカなカップルとは微妙に違う雰囲気が出ているところだった。好意的に見る人がいれば、何らかの事情で鈴香が飛べなくなっていると思ってくれるかもしれない。希望的観測でしかないが。

発着デッキに足が付き、やっと鈴香が足をほどき自力で立ってくれると、勇一はほっと肩の力を抜くが、デッキの中央にでんと立つ井幡の姿が目に入り、再び緊張してしまう。今更苦手というわけではないが、いつも怒っているように見えるので反射的に身構えるのだ。

井幡と言えばお決まりの仁王立ちで腕まで組んで待っている。3人を睨みつけたままひたひたと歩み寄って、大きく口を開く。

「よく・・・・」

何にかはわからないが叱責だろうと覚悟したように直立する勇一と両脇の二人に肉薄するほど近づいて、順に3人を見た後、顔を伏せてしまう。勇一からは頭のてっぺんがふるふる揺れているのが見えて、泣いてるようにも。

なぜだか桔梗は井幡の肩をそっと押し、勇一の胸に押し当てる。勇一もタイミングを合わせなんとなく、そーっと両手を背中に回してみる。抱きっ。

「なんでじゃーーーぁ!」

がばっと顔を上げた井幡は1mほど飛び退き、肩で息をしている。

「違うわ!」

「えーーー?絵になると思ったのに」

不平を漏らす桔梗。

「どんなんだよ」


怒られた。勇一は硬い発着デッキに正座だ。鈴香も桔梗も疲れているのだろう脇でしゃがんでいる。もちろん、鈴香が勇一の腕を離さないのは確定だが、微妙に体を預けているので地味に重い。女子に体重のことを言えるはずもないが、それ以上にプロテクターを解除しているせいで薄いボディスーツから肉感が直に伝わって、勇一の目が回遊魚のようだ。ほわんほわんわんわんな熱が腕全体を温める。

井幡はデッキに残る大勢を順にめぐり、肩や腕を叩いてねぎらっている。あちこちに女子の塊ができていて、話題の中心は「謎の発砲」のようだ。

「井幡さんは何かご存じなんですか?」

正隊員と思しき小柄なポニーテールが井幡に食いついている。

「無理を言うなよ。育成指導員がそんな事情通なわけないだろう。だいたい、私の性格だって分かってるんだろう?知ってりゃ尚更言わないよ」

釣り目のポニーテールがふくれっ面のポニーテールに変わった。

「その≪謎≫、私も見たかったがね。これだけの騒ぎだ。上層部だって落としどころがあるんだろうよ。汲んでやれ、たいちょ。とにかく怪我がなくて何よりだ」

肩に置いた手をついっと持ち上げて、頭をくしゅと撫でる。くしゅくしゅ。

蕩け顔のポニーテールができ上がった。

「わかりました。でも報告書には見たままを書きます」

「当然だな。情報が多く集まれば誰にとっても助けになる」

井幡を取り囲む人だかりがだんだん大きくなっていく。面倒見が良いのだろう。

足をもぞもぞさせながらの勇一がそんな井幡を目で追いながら印象を口にする。

「井幡先生、意外だなあ」

「あれで、すごく優しいんだよ」

ふんわりと鈴香が受ける。桔梗が反対側から眉を寄せて変な顔をしているが、勇一はふーんと答えつつ、話題が鈴香の大砲のことだけに、ついでに聞いてみる。

「先週の時もあんなだった?」

「ああ・・・、もっと泣きそうだったよ。誰にも言うなって一人一人に」

「言うし、この娘は」

「あダメ。ナイショだからね誰にも言っちゃダメだからね」

鈴香に内緒話は厳禁らしい。変な顔を続けている桔梗が勇一に目配せをする。どうやら思うところがあるらしく、後で聞いてみようと勇一は思う。

女の子団子の真ん中で井幡が声を張り上げる。

「はい諸君。もう気が済んだな、解散っ!ここは公園じゃないぞ。仮眠室で寝るもよし、クールダウンもよし。まあ帰ってスイーツ食って休め!解散解散」

両手を大きくバタバタしている。先生っぽい。ぞろぞろと人波が動き始めると、勇一らの方へ向かう井幡。

「お前たち、よくやった。最後の方はひやひやしたぞ。ほんとによくこらえたな。よし立て。そろそろ行くぞ」

「え?」

「鴨目に呼び出されているんだろう?見てないと思ったか?」

井幡の頬からにやりと音がした。





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