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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第71話 ほーりゅう

 日が暮れて真っ暗ななかで、静かな空間にひときわ大きく反響するようなピアノの音を聴きながら、わたしは学校の廊下を走る。


 助けを呼ばなきゃ! 

 この場合、職員室へ行けばいいんだろうか?

 それとも学校を出て外へ?

 とりあえず、一階までおりちゃおう!

 夢乃がほかの男子たちを引きつけてくれているあいだに、早く助けを呼ばなくちゃ!


 四階の廊下の端まで走っていって突き当たると、曲がって三階へおりる階段へと向かう。

 けれど、その途中の踊り場で、追いついてきたひとりの男子に、後ろから二の腕をつかまれた。


「やぁだ! 放して!」


 わたしは、思い切り腕を振って、逃れようとした。

 ほかに助けてくれる人のいない、ひとりきりで味わう恐怖。

 そう思ったとたんに、わたしは、自分の周りの空気が変わるのを感じた。


 やばい!

 これはわたしの、制御できない超能力が発動する前に起こる感覚だ。




 先ほど夢乃に言われた言葉で、前回の文化祭の一件を思いだす。

 ここは学校内の、三階と四階のあいだの狭い踊り場だ。

 だだっ広い外ではなく、さらに地上一階じゃない。


 この男子を、わたしの超能力で吹っ飛ばしてしまったら。

 下手をすれば大怪我させてしまうかも。

 それじゃあ、文化祭のときの二の舞だ。


 あのときは誰にも話していないけれど、暴走したわたしの力を偶然にも居合わせたらしい、わたしと同じ超能力者の我龍が助けてくれた。

 けれど、いま、こんな時間にこんなところで、助けてくれる我龍がいるとは思えない。

 ここではわたし、ひとりだけだ。

 どのくらいの規模の爆発で、どう発動するかわからない超能力を、ここで発動させるわけにはいかない。


 そういえば。

 ジプシーが文化祭の舞台のあとで言っていたっけ。

 わたしに向けられる攻撃や殺気が大きくなると、比例してわたしの力も大きくなる可能性があるみたいなこと。


 それを思いだしたわたしは、一生懸命、能力発動の原因にもなる恐怖心をなくそうとした。

 たとえ能力がでても、できるだけ被害を小さくしないと!


 わたしは、めちゃくちゃに腕を振って、つかんだ男子の手を振り切ろうと暴れる。

 けれど、男子の力は強く、逆にわたしは踊り場の床に引きずり倒された。

 このまま押さえこまれたら、たぶん無事じゃすまない。

 わたしも、彼も。


 まだ自由だった足で、必死に相手を蹴りあげる。

 何度か振った足が、男子の向こうずねにでも当たったらしい。

 男子の手の力が緩んだ瞬間に、わたしは這いだし、立ちあがって下り階段へ向かって走ろうとした。

 そのとき、後ろから足首をつかまれたわたしは、ふたたび両手を床について倒れた。




 限界だ。

 首からさげているロザリオのなかの石が、きっとわたしの恐怖心に反応して光を放っているに違いない。

 制服の上から握りしめた感覚から、もう、いつもより熱を帯びているように思える。

 ここまできたら、自分ではもう止められない。


 そう思った瞬間、わたしの周りの空気が一変、不穏な風を巻き起こす。

 そして、身体の内側から、なにかとてつもない力が一気に噴きだした。




 わたしをつかんでいた男子の身体が宙に浮き、目の前で、階段下の三階へ向かって吹き飛ばされた。

 同時に起こった周囲の空気が渦を巻き、踊り場の窓をすべて内側から割っていく。


 吹き飛ばした男子へ、怪我をさせたくないと反射的に手を伸ばしたわたしは、けれど手が届くどころか自分がバランスを崩し、階段上から転がり落ちてしまった。

 立っている状態から落ちるのではなく、もともと倒れたところから階段を転がったので、比較的ぶつけることもなく、ごろごろと三階まで横向きに転がり落ちる。 

 それでも、最後の最後で、わたしは床に頭をぶつけたらしい。




 ――これが、星が飛ぶっていう状態なんだぁ……。


 暗闇のなか、三階の廊下に倒れている男子と、目の奥にチカチカとする明るい点滅を見ながら、わたしは意識が遠のいていった。


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