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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第68話 ジプシー

 すっかり日の暮れたころ、家に帰り着くと、玄関先で夢乃のお母さんに言われた。


「あら? さっき学校で待ち合わせだって電話してきたんでしょう? 夢乃とほーりゅうちゃん、もう学校に向かっているわよ」


 一瞬で、血の気がひいた。

 そして、俺は動揺が顔にでないように、普段通りの無表情で穏やかに口にする。


「あれ、うまく連絡が伝わってなかったんだな。すれ違いになったみたいだ。カバンを置いたら、俺がふたりを迎えに行ってきます」


 そう告げると、俺は足早に階段を駆けあがり、自分の部屋へと向かった。




 あの女、ほーりゅうと夢乃に矛先を向けた。

 俺の名前で、ふたりを呼びだしやがった。


 怒りはあるが、ありがたいことに、俺はかえって頭も冷えた。

 今回は最初から後手に回ったせいか、消極気味で調子も狂った。

 いまも向こうのほうが、行動が素早い。 

この様子なら、俺が動かなかった数日間よりも前から、――もしかしたら文化祭の直後から、すべてを計画して準備をしていた可能性もある。


 まだ正体の不確かな相手だが。

 この道で生きると決めたプロの意地をみせてやる。




 まず俺は、夢乃の部屋の扉を開けて机の上を確認した。

 やはり普段の俺と同じで、学校へは携帯を持たずに出かけている。


 俺は自分の部屋に入ると、上着を脱ぎながら、京一郎に連絡をいれた。


『おう』


 3回のコールで、京一郎の声が返ってくる。


「京一郎、いまどこだ」

『家』

「すぐに学校へ出てこられるか」


 一瞬考える気配が伝わってきたが、返ってくる言葉は簡潔だ。


『バイクなら五分』

「OK。少し前に夢乃とほーりゅうが、呼びだされて学校へ向かった。途中で会えばその場で足止めして俺に連絡。会わなければ高校裏門で俺と合流。俺も用意が整いしだい向かう」

『了解』


 すぐに電話が切れる。


 相手のはっきりとした能力がまだ確認できていないので、念のために俺はホルスターを脇に吊る。


 たぶん陰陽道関係の術だと踏んだのだが、彼女の術の使い方が、まず俺とは違った。

 俺は、正式な修行過程を行っていないためか、真言や印契いんげいや陣、梵字や独鈷とっこのような媒体を使わなければ、スムーズな術の発動が行えない。

 従兄弟のトラは陰陽道直系で次期当主の立場であるため、厳しく修業をさせられていたが、最後に別れたころは、俺と同じような方法だった。


 現在のトラは、やり方が変わってきているのだろうか。

 発動法が変化しているのであれば、一度、訊いておいたほうがいいかもしれない。


 あるいは、今回の彼女は陰陽道の術ではなく、例えば、ほーりゅうや――奴のような超能力と呼ばれるような、別の種類の力なのだろうか。


 俺は、シリンダーのなかの弾丸チェックをして、ホルスターに戻す。

 半分はお守り代わりの意味もあるリボルバーだ。

 使わないに越したことはない。


 もう一度、制服の上着をはおり、左袖に隠し武器の独鈷を持った俺は、一気に階段を駆けおりた。




 裏門で、京一郎がひとりで待っていた。


「あいつらの通りそうな道と高校の周りを回ってきたが、いないな。もう学校に入ったんじゃねぇか?」

「校内か」


 そうつぶやいて、俺は校舎を見上げた。

 すっかり日が落ちたため、静寂と暗闇のなかで、妙に壁が白く浮かびあがる。


 黙って校舎を見あげている俺の横顔を、京一郎は見つめてきた。

 気づいた俺は、京一郎に視線を走らせる。

 そして、無感情に告げた。


「大丈夫。充分頭の芯まで冷えている。いまから、こっちのペースに巻き返す」


 俺と京一郎は互いに携帯やスマホを取りだすと、音を消してバイブ機能のみに切り替える。


「部活の生徒は、もういない時間帯だな。術の心得がありそうな敵の動きもわからない。式神召喚しきがみしょうかんの陣を敷くより、校内を二手に分かれて探したほうが早そうだ」


 京一郎も同意する。


 俺と京一郎は、するりと裏門を通りぬけた。

 そして、京一郎は生徒棟へ、俺は職員室棟へと、足音を消して走りだした。


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