第6話 ほーりゅう
昨夜は暗くて距離もあった。それに今日は、昨日と違って眼鏡をかけている。
けれど――間違いなく、あのときの彼だ。
幼い顔立ちに感じたため、てっきり年下の中学生だと思っていたのに。
まさか同じ高校の、しかも同じクラスの委員長だったとは。
昨日に引き続く偶然で、ホームルームでの自己紹介が終わっても1時間目の授業がはじまっても、そのことばかりがわたしの頭のなかに浮かんでくる。
暗がりで遠くから1分間ほど顔を見ただけのひとりの人間を、ほかに手がかりもなく初めての土地で、どうやって探しだせばよいのだろうかとずっと考えていたのに。
さっき言葉を交わしたとき、彼は、わたしのことに気づいた様子がなかった。
全然、表情が変わらなかった。
けれど、それは当然だ。
だって、昨日はわたしが一方的に、2階から見ていただけだったんだもの。
そんな初対面同然の彼に、面と向かって尋ねたいことは、ただひとつ。
彼の持っているロザリオの出どころだ。
委員長の彼が、本当にわたしと同じものを持っているのであれば、単刀直入にどこで手に入れたものなのか聞いてみようか。
単細胞だと自覚しているわたしは、遠まわしに聞くなんて芸当を持っていない。
それとも、しばらくこのまま様子をみてみようか……。
授業内容は、わずかに以前通っていた高校のほうが進んでいたようだ。
けれど、同じような内容でも、レベルは、いまの高校のほうがかなり高い。
わたしが通っていた高校は、上流階級の生徒が多かった。
両親はもちろん親族が医者だらけというわたしも、当然のように通わされていた。
そこでは、頭のいい生徒と芳しくない生徒が混在し、どうにか真ん中あたりかなといえる成績のわたしは、おとなしく真面目な生徒を装っていたおかげか、それなりに先生の受けもよかったと思う。
今回転入したこの高校は、叔母のマンションから徒歩圏内にある。
進学校ということでレベルは申し分ないが、自由な校風の気配を感じた母は眉をひそめた。そして、もっと格式のある高校をと希望した母を、わたしは叔母とともに説得したのだ。
結果として、今回の編入試験は両親のコネも考慮されてか、どうにかクリアしたのだけれど。
これは授業に身をいれないと、とんでもなくきわどい成績になりそうだ。
落第なんてことをしてしまったら、たちまち母のところへ連れていかれてしまうだろう。
けれど、いまのわたしの頭には、授業の内容がまったく入っていかなかった。